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第51話 友哉

「オレ、お風呂行って来るね」 「、、ああ」 わかりやすくぎくしゃくした様子で、 那津はエプロンをしたままそそくさとリビングを出ていく。 そんな那津を視線だけで追いかけて、 その扉がパタリと閉まるとなんとなく小さく息を吐いた。 、、、あれから。 那津が残りの夕飯をあっためてくれて、 そこから再び食べはじめた二人は、出来るだけ普段を装った。 多少のぎこちなさは互いに気づているものの それを指摘し合うことはなく、 ときおり視線が絡めば、 那津は照れ隠しなのかへらっと笑って視線を泳がせるし口数は多いし、 そういう那津を見て、俺も明らかにドギマギして 受け答えがどこかがおかしかった。 二人ともビールを空けまくって、 妙なテンションの妙な夕飯だった。 飯を食い終わったあとは、 那津はいつものように後片付けのためにキッチンへ消えた。 俺は普段通りビールを飲みながらテレビをつけて、 なんとなくそのまま那津を待つ。 そうして今しがたキッチンから出てきた那津は、 すぐさま風呂場へと消えて行ってしまったのだった。 目の前のビールをぐびっと飲むと、缶のふちを人差し指でなぞった。 今夜はいったい、どうしたものかと独りぐるぐると考えを巡らせる。 いったい今日はこのまま、 どうやってあの部屋まで行き、そこで二人、並んで寝たらいいのだろうか。 勢いに任せて強引に那津を押し倒した結果、 それはアイツを傷つけて、コトは未遂に終わった。 まぁ、いまとなってはそれはそれでよかった。 傷つけてしまったことは申し訳ないと思うが、 俺はようやく、自覚と決意と覚悟をすることができたから。 那津は俺を好きだと言い、 俺もアイツを好きだと言った。 そうしてあんなキスまでした後で。 「いったい、、、このあとはどうすれば、、、」 グラスのふちを撫でていた人差し指で、今度は唇をなぞる。 通常なら、、、少なくとも今までは。 何度か外で会って何度目かのデートでキスをして、 そうしてはじめてこの部屋に呼ぶ。 そこで初めて同意のもとで、、、つまりはもう付き合っている状態から、、、 あの寝室へ二人で入るのがセオリーだ。 、、、それが。 那津の場合はことごとくすべてが逆になってしまった。 名前も知らない状態で俺はこの部屋にアイツを招き入れ、 挙句、イヤがる那津を強引に押し倒した後で互いの気持ちを確かめたのだ。 「はぁ、、、」 息を吐きながら両腕を上げて背伸びをすると、そのまま一度瞼を閉じた。 泣かせてしまったことを思い出す。 気持ちが通い合ったとはいえ、 おそらくこの始まり方は決して良かったとはいえない。 あんな風に泣かせて、 失った信用を取り戻すのには時間はかかるものだ。 後悔なんて久しぶりにする。 いつもの恋愛とはあまりに勝手が違いすぎて なにもかもを比較できなくて、 過去の経験がなんの役にも立たないなんて、初めてだ。 那津の顔が見たい。 風呂上がりの那津を、 今日の俺はいったいどんな気持ちで迎えるのか想像もできないが、 とにかく早く那津がここへ戻ってきて欲しい。 なんだか胸が痛い。 あれからもうずっといつもよりも鼓動が早いことに、 俺自身もちゃんと気づいてはいる。 想いを確かめ合ってしまったいま、 何事もなかったようにあのベッドで二人、いつものようには寝れないだろう。 おまけにあんな風に襲ってしまっては、しばらく那津に手は出せない。 襲われた方の那津はいまどう思っているだろう。 考えたところでわからないと知っていて考える。 「ふぅ、、、」 息を吐きながら閉じてた瞼を開ける。 「、、、俺、、、なんであんなこと出来たんだろ」 よくもまぁ、あんな風に強引にベッドまで連れてったなと思う。 後先考えずに行動することは少ない。 だからさっきの予想外の自分にようやく今になって驚く。 ノンケと付き合うのは初めてだと言っていた那津を思い出すと おもむろに携帯を取り出して男同士のアレコレ 、、、それはつまり、 俺がさっきベッドでしようとしてたことたちについて、、、 をどこか緊張した面持ちでググった。 そんな類のワードを検索することも、初めてだ。

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