那津はとても衝撃的だと言った表情をすると、 徐々に顔が真っ赤になっていった。 「・・っと・・・ともちゃんは」 「ん？」 「だっ・・・抱かれてもいいとか思うの？」 「ぶっちゃけ想像もできないが、お前がそうしたいなら善処する」 「ほ・・ホントに・・・本気で言ってる？」 「覚悟は決めてる」 正直、そんなことにはいままで興味はもちろん知識もなさすぎて、 わかっていることなどほとんどない。 だからぶっちゃけ、そんなことを言いながら、 それが出来るかどうかはわからない。 それでも、 那津がそうしたいならそこは互いに寄り添う姿勢が必要だろう。 俺たちは男同士なのだ。 もちろん、 ぶっちゃけ自分がそんなトコロにそんなモノを突っ込まれるってのは 、、、しかもこの那津に、、、まったくもって想像は出来ないが。 那津は大きく息を吐くと、その表情が一気に緩んだ。 「ともちゃんの」 「なに？」 「ともちゃんのそういうトコがすごいと思う」 「どこ？」 「なんか・・覚悟決めたらもう迷わない的なトコ」 実際にはそんなカッコいいもんじゃない。 だた、男同士ってことを最初にちゃんと、 自分自身が受け入れておかなければと思っているだけだ。 「俺からすればお前の方がすげーと思うぞ」 「どこが？オレなんて毎日フラフラしてるだけだよ」 少なくとも、普通と言われる区分から外れてしまうということは、 俺が思う以上に世間の風当たりは強いだろう。 銀行って仕事は世間を、もっといえば、 世間体をもっとも重視する仕事で、 そんな・・・理不尽な光景をイヤってほど見てきてる。 そういう社会の中で那津だって生きてきた。 男なのに男が好きだと気づいたとき、 コイツはいったいどうやってそれを受け入れたんだろう。 家族ともそりが合わなかったコイツは、 誰かそばにいてくれるヤツはいたのだろうか。 表向きはどうであれ、 精神的には孤独だった時間の方が長かったかもしれない。 俺は好きで孤独を選んだ。 でもコイツはそれしか選べなかったのかもしれない。 「なんであれ仕事もしてるし、 お前は自分が思うよりずっと責任感もある」 「そんなの、初めて言われた」 「みんな思ってても言わないだけだろ」 「そうかな・・カズは絶対そんな風に思ってないと思う」 突然出てきたカズという誰かに、 それはいったい誰だろうかと思いつつも一旦はスルーした。 「とにかく、俺は男と恋愛したことがないから勉強不足だ。 もう少しいろいろ知りたい」 というより後先考えずにキスをした相手は那津が初めてで、 もしかしたら、ちゃんと恋愛すること自体が初めてなのかもしれない。 「教えて。那津のこと」 本当に。 すべてが逆。 知らないくせに好きだって思う。 そうして、好きだから知りたい。 もっと・・・ 「お前のことを知りたい」 ーーー・・・ どっから話せばいいかわからないと那津が言うから どこからだって良いと言って、 こういうときは酒の力を借りようと、 ベッドルームにビールを持ち込んだ。 「オレたち最近飲みすぎだよね」 「だな」 言いながら、二人して笑って缶を合わせる。 その冷えたビールののど越しは、 いままで飲んだビールの中でもずいぶんと上位の、 冷たさと爽やかさを持っていた。 そうして白い壁に二人してよでかかって、 いままで聞いたことのない、 俺の知らない那津のいままでを聞いた。 そういえば、この部屋でビールを飲むことも、初めてだ。 いつもよりずっとハイペースで飲みながら、 こんなこといつもは人に言わないんだからねと何度も言いながら、 家を出るまでとそうして、家を出てからの自分を、 誤魔化すみたいに茶化しながら、那津は話した。