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第54話 友哉

「オレらみたいのはねぇ、 好きなヒトなんてつくんない方がいいの」 身体だけのほうがラクだし、 そういう付き合い方が性に合ってると笑って言いながらきっと、 言葉以上の見えない何かを抱えてんだろうってわかる笑顔で那津は話す。 多少なりとも覚悟を決めて聞いたとはいえ、 那津の話しは俺にとってはけっこうな異世界の話しだった。 身体はホテル代がわりだなどと言われて、 正直一瞬、思考が停止した。 そうして、 あのまま襲ってしまわなくて良かったと、心の底から思った。 「ってかお前、どんだけシてきてんだよ、いままで」 「え~数なんて覚えてないよ~」 おまけにオレ、上手いって評判なんだ・・・と。 ひゃひゃっと笑いながらそんなことを言われて、 俺はずいぶんと複雑だ。 「誰かいたのか?」 「なに?」 「なんていうか、、お前が気軽に話せる相手っていうか、、」 那津はどこか複雑そうな目でこっちを見た。 「ん~・・一時期 イカガワシイ店に入り浸ってたって前に言ったでしょ」 「ああ」 「そのくらいからようやくかな。 その店の店長さんが良いヒトで。 当時ずいぶんいろいろ赤裸々に話した」 「、、、そうか」 それまではどうしていたのかとは聞かなかった。 聞かなくてもわかることってのはあるからだ。 そうして、その店長さんとはいったいどういうヤツなのだろうなどと、 聞いた主旨とは違う所が気になってしまう。 「あ~ともちゃんもしかして、しっとしてる?」 那津はまた、ひゃひゃひゃっと笑いながら俺の方を叩くから、 ビールがタオルケットの上に飛び散ってしまった。 「お前、、、明日コレ洗えよ」 すると、那津はそれには返事をせずに 「店長よりカズの方と仲が良いの」 と言われて、今度は仲がいいとはどういう意味だろうと、 どうしてもどこか余計な方へと頭が働く。 「カズってのは?」 「はじめて会ったとき、 ハルにナツに騒がしいヤツだって言われたの、覚えてる」 なんだか楽しそうに言われてやっぱりどこか複雑だ。 「だから誰だよソイツは」 俺は明らかに不機嫌で、 それなのに那津はどこか嬉しそうな顔をした。 「大丈夫。カズもネコだよ」 ネコの意味は知っている。 そして、、、 「カズはそのイカガワシイお店の店長さんの恋人」 したり顔して、那津は下からのぞくようにこちらを見つめた。 「安心した?」 「、、、まぁな」 それは、 店長さんとカズと呼ばれるその人たちが、 俺が邪推するような相手ではなかったということではなく 、、、いや、少なからずそれもあったが。 少しはそばにいてくれたヒトがいたってことと、なにより、、、 ーーカズ『も』ネコだよーー つまりは那津「も」ネコだということなのだとわかったからだった。 「やっぱホッとしてるわ」 「え?」 善処するとは言ったものの、突っ込まれることはなさそうで、 正直ほっとしている。 「いや、なんでもねぇ」 まぁそれでも、もしも那津が試してみたいと言ったときは、 覚悟をしようと、独り決心した。 「モトカレとは?」 「ん?なに?」 「いまはもう会ったりしねぇの」 一緒に暮らそうと言われて嬉しかったと話した、 唯一と言ってもいい相手が俺のとこに来る前に付き合ってたヤツだった。 「ん。別れてからは一度も会ってない」 どんなヤツだったのかを聞けば、 那津は大人って感じのヒトと答えた。 そうして今度はその答えにどこかもやっとする。 オトナな男とはいったい、どんな男を指すのだろうか。 「付き合おうって言われて一緒に暮らそうって言われて嬉しかった。 でも・・・」 「、、、でも?」 「なんか・・・なんだろ。いつもどっか・・なんていうか・・・」 那津が言いよどむそのカンカクが、 俺には少しわかるような気がした。 いままで付き合ってきた女性たちに 俺もどこかなんとも説明のつかない、パッとしない気持ちを抱えてきた。 恋愛と結婚が結びつかない俺にとって、 付き合うってことはいつもどこか重いモノになる。 ただ、 「俺は一緒に暮らしたいって言われる方がキツかった」 そこが那津とは大きく違っていた。 「オレと真逆~」 また、那津は笑いながらそう言って、ビールを飲みほした。 はぁっと息を吐くと何処を見てるかわからない目をする。 「ホントに良いの?いまならまだ間に合うんじゃない?」 「どういう意味だ?」 「だってオレたち違いすぎるでしょ」 「だから?」 「合わないでしょ」

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