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第55話 友哉

「お前ってホント、、、」 口癖になってる『ばか』という言葉を飲み込んだ。 なぜなら那津の言ってることは正しい。 俺とコイツは本当に違う道を歩いてきたのだ。 お互いモノの見方はずいぶんと違うだろう。 でも、、、それでも。 というか、だからこそ。 俺はコイツに惹かれたたんじゃないだろうか。 なぜなら違う価値観はある意味では憧れと尊敬に値するからだ。 那津の方へ近寄って、手元の飲みほした缶ビールを取り上げる。 ギシっと音をたてるベッドの存在が 妙に生々しく、突然に頭によぎってドキリとした。 既に寝室の床に散らばるビールの缶の間に 二人分の缶を無造作に置いて那津を見れば、 トロリとしたその瞳がその床に移る。 「床・・どうしよ」 独り言みたいに呟いて、揺れてた視線がこちらを向いた。 「ともちゃ」 、、んを聞かずにその唇を塞いだ。 今度は最初から舌を絡ませて。 「んぁ・・・っ・・」 一瞬だけ身体を固くして、 でもそのあとは素直に従う那津は、なんとも言えない表情をする。 ーーオレ、上手いって評判だもんーー いったい、どこの評判なんだ? なんだかいまさらムカついてきてそのまま押し倒した。 「評判ってどこで評判になってんだよ」 「え?なに?」 呆けたその顔は、まるで誘っているように見えるのだった。 「いいか。俺は男はバージンだぞ」 「もぅ・・なにいってんの?」 確かに。俺はなにを言ってんだろう。 キスをしてしまったからだろうか。 それとも自覚した自分の那津への想いがなにかの魔法をかけるのだろうか。 「今日からってかさっきから。 俺たちは付き合ってんだからその自覚しとけよ」 「ともちゃんオレの話しちゃんと聞いてた?」 「ああ。もちろんだ。だから言ってる」 いままでがどうであれ、俺はコイツに興味しか湧かない。 それだけが真実だ。 「お前の家はココだ。もうフラフラすんな」 「ホントにいいの?」 「しつこいぞ」 相変わらず揺れる瞳を見つめながらもう一度、ゆっくり唇を合わせた。 「、、那津?」 ゆっくりと口づけをしていたら、突然、那津の身体の力が抜ける。 この状況で寝落ちとは、どこかガッカリしつつどこかホッとする。 しばらくは手を出さないと決めたハズの自分を思い出していた。 床を見れば散らばる空き缶の数にふぅっとため息が漏れた。 ゆっくり那津から離れてキッチンからビニール袋を持ってくると、 できるだけ音をたてないように注意しながら缶ビールを片付ける。 自分のことを話すことはあまりないのだと言っていたから、 きっと緊張していたのだろう。 いつもなら笑って茶化して誤魔化すようなことを、 きっと那津なりに真剣に教えてくれた。 床が綺麗になるとふと那津の寝顔が視界に入る。 そういえば、俺はコイツの寝顔は、 いままでたったの一度しか見たことがない。 俺の名前をつぶやくように言いながら腰を振ってた、 あのソファの上でうたた寝してた那津を思い出す。 あの日と同じように髪を撫でた。 ーーー・・・ 朝。 目が覚めればベッドの上にはもう那津の姿はない。 それはいつもの景色だ。 そうとわかりながらもどこか慌てて、リビングへ向かった。 ドアを開けてキッチンからその音が聞こえてホッとする。 顔も洗わずにそちらに向かえば、 そこにはいつものようにエプロンを付けて二人分の朝食を作る那津が 、、、俺の恋人が、、、いた。 「おはよ。ともちゃん」 「、、はよ」 こちらに気づくと、那津は一瞬だけ見てすぐに視線を逸らす。 やっぱりなんともわかりやすい表情をする横顔が可愛かった。 「昨日はごめんね。片づけてくれたんだ」 言いながらフライパンに身体が向いて、 華奢なラインがチマチマ動くのを無意識にただ眺めると、 この男はこんなにも愛らしい対象だっただろうかと改めて思った。 「オレ、いつ寝ちゃったんだろ。ぜんぜん覚えてなくて」 男の自分が男相手にこんな気持ちになるとは世も末だなと、 いまだに思いながらも。 俺は後ろからエプロン姿の那津を抱きしめた。 「っ昨日、片付けごめんね」 「もう聞いた」 「ん・・ありがと」 自覚するとは大切な事なんだ。 大事なモノ。 手離す前に自覚できて良かった。 「オレ昨日、なんか変なこと・・」 「キスして」 「えっ?」 「キスして」 「っオレから?」 わかりやすい那津の反応がなんだか心地いい。 十分、気持ちを自覚できた自分は、 コイツにもしっかり自覚してもらわなければと思う。 自分が俺の恋人だということを。 こちらを向く、那津の唇が近づくのを待った。

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