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第57話 那津
今日はバイトは休み。
いつも通り携帯で音楽を流すと、
エプロンを付けたままでまずはリビングの掃除を始める。
気づけばあの日から2週間以上がたっていてオレは毎朝・・・そして毎晩。
ともちゃんとキスをしてる。
ともちゃんに後片付けをさせてしまったその日から毎日、
ともちゃんはキッチンで料理をしてるオレのそばにやってくると、
ほとんどいつも後ろからオレをぎゅっとして、
おはようの挨拶と同時に唇が重なる。
舌も絡む。
そうしてさっきの。
玄関先ではいってらっしゃいのちゅうと帰ってくれば必ず
ただいまの挨拶と同時に、
ともちゃんはオレに近寄ってキスをした。
「いろいろしてきた」のは事実でも、
こんなキスのやり取りはしたことはないからどこか落ち着かない。
いろいろの意味。
それはヤマシイことをたくさんしてきたって意味で、
こんな風にちゃんと・・・まるで恋人みたいなこと。
・・・実際、いまともちゃんとオレは恋人同士なんだけど。
そういう経験はほとんど無いに等しいからだ。
ともちゃんとのほとんどすべてが初めての経験。
だってこんな、まるで真っすぐな始まり方ははじめて。
いつだって最初はフルネームすら知らずに身体を繋げて、
そこからはじまる。
またははじまらない。
ともちゃんと出会うきっかけになった、別れたそのヒトとも、
思い返してみれば誘われて部屋に泊まったその日に、
オレは裸でベッドの上にいた。
ともちゃんとは朝からキスをする。
そして、寝る前にも。
ベッドの中でおやすみのちゅうをする。
ほとんどの場合、
おはようとおやすみのちゅうは舌が絡む。
そうして、
いまだにドキマギしてるオレを置いてけぼりにして
ともちゃんは笑う。
それはさっきの、玄関先で笑ったように。
笑っておやすみって言う。
そうして、驚くことに本当にそのまま寝る。
寝てしまう。
突然の変化にオレはなかなかついていけなくて、
それからしばらくは様子をみてた。
いままでノンケと付き合ったことは一度もないし、
なんならちゃんと恋愛をしてきていない。
あれから2週間。
ともちゃんとするどのキスもドキドキする。
そして、キス以外しないともちゃんに、
ここ最近では違った意味でもドキドキ・・・してもいるのだった。
「ふぅ・・」
なにがあってもなくても、掃除ってやっぱ気持ちが良い。
部屋がきれいになる様子は
まるで自分の気持ちのモヤモヤが晴れていくような、
どこか気分が軽くなる気がする。
時計を見るとそろそろ出かける準備をしないと間に合わない時間だ。
今日はバイトはないけどランチを外で食べる。
カズと一緒に。
あの日、泣いてたオレにハンバーグを奢ってくれたカズに、
今日はオレがランチを奢る。
なんだかんだ心配してくれるカズに、
この部屋を出ていかなかったことをメッセージだけして、
さらには付き合うことになったことは電話で直接伝えた。
カズはびっくりしておめでとうと言ってそして・・・
やっぱり心配した。
今日はともちゃんの恋人になってからはじめてカズに会う。
カズのことだから、きっといろいろ言われるんだろう。
でもともちゃんのことを話せる相手は少なくて、
やっぱりちょっと楽しみではあった。
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