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第58話 那津

ーーー・・・ 「んふふ」 「・・なんだよ」 久しぶりに会ったカズは会うなり含み笑いをしてオレを見る。 「欲求不満って顔に書いてある」 いつものこととはいえ、 簡単に本心を見抜かれると何も言えなくなってしまって、 オレは視線を外して無言でグラスの水を飲んだ。 久しぶりに会ったカズは結局、今日もハンバーグを選ぶ。 食べ物を選ぶ時間が無駄だというカズの言い分は、 いまだにオレにはよくわからない。 オレはともちゃんの好きなオムライスを選んだ。 こんなときにもともちゃんという存在は出てきてしまう。 ともちゃんと付き合うことになってそれからときどき、 カズとはちょいちょいメッセや電話で近況を伝えてはいる。 毎日キスをしてくれること。 そして、キスしか・・・してくれないことも。 「で?いまだにキスどまり?」 カズらしく、 オブラートに包むでもなくハッキリ言われれば、 本当のことを言われているのになぜか口ごもる。 「まぁね」 さっきのカズの。 欲求不満というのも間違ってはいない。 ベッドでぎゅっとされてべろちゅーされたあと、オレは毎晩、放置されて、 ・・オレからしたら放置なのだ・・・ ヤりたい盛りのオレはさすがにどうネツを逃がしていいかがわからない。 ともちゃんがイビキをかきだした頃合いを見て トイレにかけこむこともしばしばだった。 でもそれだけじゃない。 「不満というか不安というか・・・」 付き合っているというのに、 いまだにオレはともちゃんとエッチをしていない。 一緒に暮らしてキスをしていても、 なんとなくそういう雰囲気になってもそこから先には進まない。 あんなにエッチなべろちゅーをしたあと、 ともちゃんは笑って、おやすみと言って、本当にそのまま寝てしまうから。 いままでこんな扱いを、それはつまり付き合うことになったあと、 裸で抱き合わない時間がこんなにもあった付き合い方をしたことは、 いままでに一度だってないのだ。 相手はハイスペックなノンケで、 オレははじめての身体からはじまらない恋愛で、対応がわからない。 毎日ぎゅっとされてキスをして、オレを可愛いと言いながら、 ともちゃんにはその先がない。 それは男のオレをどうしたって不安にさせるのだ。 不満と不安と。 なんだか入り混じったようなそんな感覚がずっとオレの全身を覆っていて、 せっかく気持ちを伝えあったというのに、 なんだかパッとしない気持ちが続いてる。 「やっぱり男だからかな・・・」 キス以上のこと。 ともちゃんが躊躇したとしてもそれはわかる気がする。 オレがタチなら善処するとは言っていたものの、 そんなこと、そう簡単な事じゃないことくらい、オレにだってよくわかってる。 「それかめっちゃ淡白とか」 カズに言われるとそれはそうかもしれないと思う。 「確かに。いままで恋愛にのめり込んだりしたことないっぽいから」 思い返せばともちゃんは、 しばらく彼女がいなくてもどうにかなっているヒトだったのだ。 「お前と付き合うって決めたんなら男とスるんだってそんくらいのこと、 もう覚悟は出来てそうな気はするけどね」 「ん~・・それはどうだろ」 実際、それはこっちの言い分だって気がする。 どうがんばってもオレには膨らむおっぱいはないし、 ソコにはちゃんとついてるモンがつているのだ。 「最初、イヌ扱いだったしな」 カズが盛大に笑うから、 笑うなって言いながらもなんだかホッとする。 「まぁ、会ったことないのにアレだけどさ。 聞いてる分にはそのヒト、けっこうハッキリしてそうだし、 男だから躊躇してるって感じじゃない気がするけどね」 「じゃあなんでシないんだと思う?」 「さぁね。本人に聞きなよ」 頭がよくて勘が良いカズはどこかわかってる風な顔をするくせに、 いつだって一番大事なところは教えてくれない。 自分で答えを探すように促すだけだ。 「そんなの怖くて聞けないよ」 「そんなの付き合ってるって言えないよ」 そして、間髪入れずに言われる、 カズのもっともな言葉がグサリと胸を刺す。 「気持ちはわかるけど。 ちゃんと気持ちを伝えらんなきゃそんなの恋人でもなんでもない」 いちいちまともな事を言われて何も言い返せない。 そしていちいちまともな事を言ってくれる友達がいるって ありがたいことだなとも思う。

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