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第59話 那津

「好きなら信じれば?」 「え?」 「好きなんでしょ?だったらその人のこと、信じるしかないでしょ」 そしていつだって忘れがちな大切なことを思い出させてくれる。 見た目は可愛らしいのに。 カズはオレよりずっと大人だ。 「男同士なんて信じることが出来なかったらなーーーんにも残んない」 「そう・・だよね」 「お前、ちゃんと好きって言ってる?」 「え?」 カズが覗き込むようにオレを見る。 その瞳はいつだって真っすぐで、 誤魔化すことを放棄するしかないって光が宿っている。 「自分から言いなよ。好きってさ」 「・・難しいよ」 「難しくないよ。 好きだからただ好きって言葉にするってだけ。 言ったでしょ。 なんも残んないんだからせめて言葉くらい残すの」 考えてみれば。 今回はめずらしくオレからなにも、 アクションらしいアクションを起こせていない。 どうしたっていつもとどこか違うのだ。 それはきっと・・・ ともちゃんが特別だから。 「カズは言ってんだ」 「当たり前じゃん」 茶化すつもりで言ったのに、 カズはしらっとさらっとそう答えるから やっぱカズだなってちょっと感動する。 「店長もちゃんと言ってくれるんだ?」 「さぁね」 「は?そこは流すってなに?」 妙な照れ隠しに思わず笑えば、カズも笑った。 その笑顔はやたらと可愛かったので、 きっと、たくさん言われてるんだなってわかった。 「ん。わかった。オレもちゃんと言う」 「今日ね。帰ったらすぐ言え」 「っ・・わかったよ」 なぜか命令口調で言われてオレはふてくされつつも笑う。 「報告まってる~」 楽しそうに笑うカズに、 話せる相手がいて良かったと思った。 ーーー・・・ 「ただいま」 「っお・・かえり」 できるだけ早く帰ると言ったともちゃんは、 朝に言ってた通り、 残業なしの定時の時間で上がったんだろうとわかる時間に帰ってきた。 ここ2週間そうだったように 脱いだ背広をソファの上に無造作に置くと、 ネクタイを緩めてYシャツの第1ボタンを外しながら、 キッチンにいるこちらに近づいてくる。 その姿を緊張しながら見つめて無意識に唇を舐めると、 思わずふぅっと息を吐いた。 「ん?」 するとともちゃんがそんなオレに気づいて、 目をぱちぱちしてふっと笑って首を傾げる。 「なに?なんかある?」 「ぃや・・」 カズとの約束を律義に守ろうとして ・・・というか、 きっとオレは好きだってちゃんと言いたかったんだと思う・・・ どこか不自然に視線がキョロキョロするオレの腰を、 ともちゃんは両手で優しく引き寄せる。 整ったその顔がすぐ目の前に近づいた。 「なんだ?」 「っ・・・ぁの」 思わず逃げ腰になる。 といっても、ともちゃんの両手はオレの腰をがっしり掴んで 実際には逃げられない。 「なに?」 「っす・・」 「す?」 「っす・・きだよ」 自分でも思う。 さすがにこんなのめちゃくちゃ不自然だって。 でも頭が真っ白になって思わず言葉が先に出た。 オレってばいつもこうなんだ。 そうして、そういうオレにともちゃんはただ笑って、 ちゅっと触れるだけのキスをした。 「お前、ここんところもなんかヘンだろ」 「・・・そうかな」 「言いたいことがあるなら言えよ」 相変わらずともちゃんの両手は腰にあってオレは動けない。 目の前の、中途半端にゆるんだ首元から見え隠れするともちゃんの鎖骨に、 オレの身体はドクドク反応しっぱなしだった。

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