「あの・・さ」 「なに？」 言いにくい。 言葉や身体で自分から誘うことはもう何度だってしてきたし、 そんなことは勉強より得意なはずなのに。 「なんだよ。ちゃんと言え」 「っ・・言いにくいんだよ」 急かされると言いにくさはさらに増す。 「言いにくいこと？なんだ？欲しいモノでもあるのか？」 「っそんなんじゃない」 「だよな。お前そういうこと言ってこねーし」 いままでみたいに軽っと誘うってことが、 なぜだかともちゃんだと出来ないんだってことに改めて気づいた。 それでも、意を決して言わなければいけない。 ーー好きなら信じれば？ーー カズに言われた言葉を思い出す。 帰って来て早々にオレをぎゅっとしてくれるともちゃんを オレは信じているし、 なにより、このヒトのことが好きなんだ。 「なんでシないのかなって」 結局。頭の悪いオレは考えたところでいい案は浮かばない。 頭の良さそうな言い方も、なんだか甘く囁くことも出来なくて、 直球で色気のない、恥ずかしいそんな言葉しか出てこなかった。 「ん？襲っていいのか？」 「え？」 「それなりに気を使ってる」 「ぇえ？」 サラッとした顔で予想できなかったことを言われてびっくりする。 「あんなことしておいて、 またお前を襲うのには少し様子をみた方がいいかと思ってさ」 そういえば。 オレはこのヒトに合意なしで襲われていたんだったことを思い出す。 「そんなの・・」 実際、あれは嬉しい部類のヤツだったよとは、 恥ずかしくてあえて言わなかったけど、 「もしかしてあのとき言ってた、 同意なしでは襲わないってヤツ、いまだに守ってるとか？」 ともちゃんは何にも言わずにどこか照れた風な顔をするから、 本当にびっくりした。 「だってもうオレたち・・・」 恋人って言葉をサラリと言えずに口ごもる。 「もう恋人なんだからってそう簡単じゃねぇだろ」 すると、ともちゃんはその言葉をサラリと言ってのけた。 「・・そうなの？」 そうなんだろうか。 付き合ってんだからもういつだって、 ヤっちゃったらいいんじゃないかって気もするけれど。 そんな風にしか付き合ってこなかったけれど。 「お前、男同士なんて簡単だって言ってたけど俺はそうは思わない」 「え？」 「男も女も関係ない。 お互い裸んなって、ふだん隠してる部分をさらけ出して腰振るってのは 特別なことだと思うぞ」 至近距離で腰振る・・なんてともちゃんに言われてしまって、 欲求不満のオレはすぐに頭にその絵面が出てきてドキっとしてしまう。 そして、たぶんともちゃんの言ってることが、 わかるようでわかっていない。 「なんて。あんなことしておいてなに言ってんだって感じだよな」 言いながら、ともちゃんはオレの身体をぎゅっとして、 頭をコテンと肩に置いた。 そういうともちゃんに、なんだろう・・・ こんな感じはなんていうんだろ・・・ わからないままともちゃんの背中に腕を回した。 すると、ともちゃんが首筋に唇をくっつける。 思わずはぁっと息が漏れて、 くっついてる下半身がモゾっと動いてしまった。 「俺だって襲いたいけどね」 「っホントに？」 「そりゃ当たり前だろ」 「男でも？」 「お前ソレしつこいな」 ともちゃんがちゅうしかしない理由。 抱きしめてちゅっとしてくれるだけで、それ以上してくれない理由。 「もしかしてオレ・・大事にされてんだ」 「そりゃあ好きな相手だからな」