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第62話 友哉
男だとわかっていて、
那津という存在はできるだけそばに引き寄せて、触っていたくなる。
そうして抱きしめるたび、女性とは違う触り心地の細い腰に、
ああ、那津は男なのだとまた、思う。
それなのに、
骨ばったその身体がどこか女性よりももろく、柔らかく感じて、
出来るならもっと近く
、、、それは羽織っている
すべての洋服なんかを取っ払ってという意味で、、、
那津を感じたいと本当に思える。
帰ってきた途端、
好きだと言って結婚なんて言葉を口走る那津がやたら可愛く思う。
それは、
俺はもしかして、本当は男好きだったのだろうかなどと思うほどだ。
言った割には視線は泳いでどこか逃げ腰になる那津の、
掴んだ腰を逃がさないようにして顔を覗き込むと、
潤んだ瞳の真ん中に俺が映る。
その事実は俺を満足させるし、さらにはもっと那津を欲しがらせる。
「なんだよ」
「なんだよじゃねーだろ」
顔が赤くなる那津が可愛い。
今まで感じたことのない知らない感情が、
この男といると勝手に沸き上がってしまう。
いつもなら厄介に感じる「好き」や「結婚」のそのどちらの言葉にも、
那津から言われるだけで俺は明らかに好意を持って受け止められている。
正直、そういう自分がなんだか嬉しかった。
ずっと、自分は感情のなにかが欠落していると思っていたのだが、
そうではないのかもしれないってこと。
それはいままで知らなかった自分で、
コイツがいたから知ることができた自分だ。
「そりゃあオレは・・なに?」
「え?」
「襲っていいのかって聞いている」
もう一度聞くと抱きしめた身体はまた少しこわばって、
柔らかそうな睫毛が上下にせわしなく動く。
そういう、やろうとしてしているわけじゃない、
思わずそうなってしまう仕草のすべてが可愛いと言ったら、
那津はなんというのだろうか。
ーー男同士なんて簡単なのーー
と。
酔っぱらいながら
どこかうそぶくように言っていた那津を思い出す。
あれは本心だったかもしれない。
でもきっと、本当は簡単になどしたくなかったのかもしれない。
どちらにしても、
一回りも年下の、でもある意味では俺より世間を知ってる那津には、
どうしてだかとても優しくしたくなる。
世界一、甘やかしてやりたいのだ。
それは俺の役目でありたい。
視線が揺れっぱなしの、潤む瞳にかかる前髪をよかすと、
今朝も唇をくっつけた、形のいい額が現れた。
「なんとも思わないって言ったら嘘になる」
「・・ぇ?」
那津の声が小さくなって、
その瞳にはどこか影が見えた気がした。
だから真っすぐ見つめながら髪を撫でたその手で頬を包むと、
下半身を離さないようにしたままで、
その手のひらを頬からゆっくりと首筋へ、、、
そしてTシャツの上からエプロンの上へ、、、
ちょうど胸元の中央辺りまで撫でるようにして滑らせていく。
そのまま、平らな胸元辺りに手のひらを置いたままにした。
するとゴクリ・・と。那津の喉が動くのがわかる。
合意なくコイツを襲ってキスをして・・・それから。
ずっと我慢している。
ホントは触ってみたい。
この下にある、那津の肌。
那津の全て。
でも、、、
那津は自分が男ってことをいまだにやたらと気にしていて、
そうして実際は俺にもその気持ちがよくわかるのだった。
俺だっていまだにこの関係のすべてに慣れたわけじゃないのだ。
まさか自分が男と恋愛をするとは、、、
いま手のひらを置いている辺りにはなんの膨らみもなく、
けれどもくっつけた下半身には
俺もよく知ってるその膨らみが当たっている。
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