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第64話 友哉
いつもよりどこか丁寧にシャワーを浴びると、
いつものように身体を拭いてパジャマに着替えて、
軽くドライヤーをかける。
それはいつものやり方で、けれどもいつもより確実に緊張してはいた。
「お先」
「っぅん」
タオルを首にかけたままでリビングのドアを開ければ、
椅子に腰かけていた相変わらずエプロンを付けたままの那津が、
どこか慌てるようにして立ち上がった。
「・・ビール飲む?」
「ん~、、、そうだな」
すきっ腹にビールはどうだろうなどと思って曖昧に返事をすれば、
那津はそそくさと
俺の返事を待たずにすでにキッチンの冷蔵庫の扉を開けている。
見てすぐにわかるくらいに緊張していて、
少し心配になるくらいだ。
「はい」
「ああ。ありがと」
さっき那津が座っていたイスの反対側の椅子に座って、
ビールとグラスと、さらにつまみのザーサイも持って来てくれた那津に、
ひとつだけ持って来てくれたグラスに自分でビールを注ぐと
それを那津に手渡した。
「お前も飲め」
「・・ぅん」
缶を持ち上げて、
立ったままの那津の手元のグラスと合わせると、鈍い音が響く。
俺が先にビールに口付けるのを合図にするみたいにして、
後から那津もゴクゴクっとその液体を流し込んだ。
「やっぱりご食べる?お腹減ってるでしょ?」
ついさっき。
引き寄せた身体を離さないようにして、那津にシャワーを浴びるかを聞いた。
すると那津が唇をきゅっとすぼめてからわかりやすく少し迷って、
そうしてともちゃんが先に浴びてきてと言われたので
ひとまずはそれに従った。
その返事はつまり、今日、これから那津を触ってもいいと
、、、もちろん、イカガワシイことをするという意味で、、、
許可が出たということだった。
確かに腹は減っている。
いつもならこの時間、二人して那津の作った料理を食べている最中なのだ。
俺にとって飯を食べることは生活の中でかなり上位の楽しみの一つなのだが、
けれどもいまは、それより大事なことが目の前にある。
「いいからお前も行って来い」
「・・ん」
いまだにどこか迷いがあるらしい那津が、
両手で包むようにして持っていたグラスの中身をすべて飲み干すと、
「行ってきます」
と視線を交わさずに言って、エプロンをしたままでリビングから出ていった。
姿が見えなくなった途端、無意識にふぅ、、っと息を吐く。
アイツが緊張してるように俺だって緊張している。
でも恋人という間柄になって多少の時間は過ぎていて、
那津の身体を引き寄せてキスをすることは、
もう俺の中では当たり前になった。
それに、
つい今しがたキッチンで言われた「好きだよ」という那津の言葉がずっと、
頭を離れない。
ぶっちゃけ、嬉しかったのだ。
ちゃんと目を見て言ってくれたこと。
わざわざ言葉で伝えてくれたことが。
だからもし、那津が許してくれるならあの日、
強引にベッドに押し倒したそのあとにしようとしていたすべてのことを、
そろそろ実際に経験してみたい。
立ち上がって那津が戻る前に寝室へ行くと、
この日のためにネットで調べて買っておいたモノを
ベッドの近くに隠すようにして置いた。
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