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第66話 友哉
寝室のドアを開けて寝室のドアを閉めても、
繋いだ手を離さないようにした。
よく見慣れた寝室の景色が今日はどこか違って見えるのは、
きっと那津も同じなのだろうと感じる。
薄暗く灯した明かりだけを頼りにベッド脇まで来ると、
那津に向き合って、できるだけ優しくその身体を抱きしめた。
「パジャマ買うか」
「え?」
「お前のパジャマ」
言いながら首筋にキスをして、
そのまますぐに那津のTシャツを脱がしにかかった。
互いが裸になるまでにあまり躊躇しない方が良い気がするのは、
那津がいまだ、どこか不安そうな気配があるからだ。
薄暗い中、平らな胸と細い腰をはじめて直に見る。
暗がりの中で、那津の睫毛がせわしなく揺れていて、
那津は自分の片手でもう片方の肘当たりを握ると、
俺から完全に視線を逸らした。
無意識に手が出て、柔らかい色の那津の髪を撫でる。
そのまま裸の那津をはじめて抱きしめた。
好きなヒトなんて作らない方が良いと言っていた那津。
裸になることが大したことじゃないとも言っていた那津。
でも俺と一緒に裸になることは、特別な事なんだと思って欲しい。
だって俺はコイツが好きで、コイツも俺を好きなはずだから。
「別にパジャマなんていらないよ」
「俺のわがままだ」
「なに?」
それは、俺がコイツになにかを与えてやりたいと思ってしまうこと。
それはあの日、
出て行くと言い出した那津がエプロンは貰っていいかと言ったことが
どこか関係しているのかもしれない。
なんにしても、モノでもなんでも、那津にならあげたい。
俺のあげられるものなら。
「そろそろ寒くなるから」
「夏真っ盛りだよ」
「いいんだよ」
唇を軽く重ねる。
ゆっくりそのまま小さな頭を抱えながらベ ッドに押し倒して、
上半身裸の那津を見下ろす。
あらためて、俺が可愛いとしきりに思ってしまうコイツはちゃんと男で、
俺はいまからこの男とセックスをするのだと、
わかりきってたことをあえて思った。
「違ったら言って」
「え?」
「なんか違うって感じたら教えろって言ったの」
ぶっちゃけ、なんとかなるのだろうとしか思えなかったが、
それでも、これは初めての経験だ。
そして、コイツが経験してきたいままでとは
どこか違う男だと思われたいなどという、
自分にあったどこかおかしな対抗意識と独占欲のようなものに、
少しだけ戸惑ってもいる。
小さく深呼吸をした。
「・・ともちゃん」
「なんだ?」
薄暗い部屋の中、こちらを見上げる那津の瞳はキラキラして、
けれどやっぱりどこか不安そうに見える。
「やっぱ無理って思ったら止めていいからね」
一瞬、きょとんとした。
そして、妙な安堵感。
「なんか違うってのはそういう意味じゃない」
「わかってる。けどオレのはそういう意味」
いまだに「出来なかったら・・」を考えて不安そうな那津に、
少しだけ考えて両手でその柔らかい頬をむにっとする。
「っにゃ・・っ・・」
そのまましばらくほっぺをムニムニっムニとすれば、
ベッドの上で那津が暴れた。
「っ・・にゃににゃって」
手を離すとようやく少しだけ笑顔が戻って那津らしくなった。
「まだ不安?」
「・・・そりゃあ・・・オレは男だからさ」
そんなことは当にわかっているし、きっと大丈夫だ、、、などと。
言おうとしてやめた。
だって、那津の聞きたい言葉はそんな言葉ではないから。
そして俺が言いたい言葉も少し違う。
那津から少し身体を離して、
けれども視線を外さないようにしながらもう何も言わずに、
自分のパジャマのボタンを外して上着を脱いだ。
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