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第89話 友哉

「ともちゃんってホントは遊び人なんじゃないの?」 久しぶりに目が合った途端、さすがにその言葉は想定外だった。 それでも、久しぶりに視線が絡んだ那津はやっぱり可愛らしい。 ベタつく身体をくっつけ合って、今度は唇に唇をくっつけた。 「なんだそれ。いままでの付き合いはこの間ぜんぶ話しただろ」 「だってなんかもう信じらんない」 「嘘はついてねぇ」 最初っから容赦せずに向かい合ったのが悪かったのだろうか。 まぁぶっちゃけ、 確かに途中からはこっちもかなり好き勝手やってしまったのは否めない。 だってなんだか、、、 「なんかお前スゲーんだもん」 「オレじゃなくてともちゃんがねっもうホントにびっくりだよ・・」 「俺もびっくり」 男の方が興奮してしまった事実はもはや消せない。 「俺は男が好きだったのかな」 「そんなの・・・違うでしょ」 そう。きっと違う。 「那津だったから」 「・・ばか」 「やっぱ可愛い」 「ホントにハズい」 身体を繋ぎ合わせた後、 しばらく離れたくないなんて、初めて思った。 そこから那津がシャワーを浴びると言い出すまでずっと、 その身体を抱きしめて、 ベタつく身体に唇をくっつけたままでいた。 ーーー・・・ 休日の朝。 めずらしく目覚ましが鳴る前に自然と目が開いた。 隣には那津が 、、、いない。 「、、、寝坊しないのか?アイツは」 昨晩、あれだけ身体を繋げてぐったりしてたハズの那津は、 シャワーを浴びるとどこかすっきりした顔をして、 簡単に夕飯を作ってくれた。 はじめて那津を知ったあとのいつもとは違った時間の夕飯は、 二人とも驚くほど普通だった。 那津の着る、薄いTシャツの下には 俺のつけた赤や紫の斑点が酷いくらいにちりばめられていたというのに。 久しぶりに人肌を感じて思い出す。 いつも感じてた。 お互い服を脱いで喘いだ後の食事って、 日常を取り戻すために必要なセクションなんだろうなんてこと。 ついさっきまで、とてもじゃないけど他人には言えない、 あんな格好であんなことをしてたってことを、 一旦忘れたふりをするために、 食事ってのは日常に戻るためにある、素晴らしい行為だってこと。 そして、、、 「なんか久々すぎて新鮮」 改めて、那津はどこか明らかに特別だった。 ーーお休み那津ーー ーーおやすみともちゃんーー 那津がこの部屋にやってきた当初はなかった、 このベッドでお休みと言い合ってキスをすることが いまや日常になったように、 もしかしたらあの、淫らな行為のすべてが日常になる日が やってくるのかもしれないと期待する。 俺の人生ではこの先ずっと、叶えられないと思ってきたこと。 他人と共に暮らすってことが可能になるかもしれない期待を、 俺は那津にだけは感じる。 なんとなく那津の寝ていた場所を撫でるとそこはもう冷たくて、 不意に、なんだか寂しいようなザワっとどこかが騒ぐから、 起き上がるといつものようにキッチンへ向かった。 ーーー・・・ 「はよ那津」 「ぉはようともちゃん」 そこにはいつものエプロンを付けた那津が、 いつものように俺のために食事を作ってる。 「相変わらず早起きだな」 「もう身体に染みついちゃって目が覚めちゃうんだよ」 なんだかせかせか動いてるその愛しい男に近づく。 華奢な身体を後ろから引き寄せて、 腕の中に少し高めの体温を感じれば ようやく落ち着いた。 「火を使ってるときは危ないでしょ」 「いま使ってねぇだろ」 「・・・包丁持ってる時もだめ」 ボールに卵を割ってただけの那津は、 止めろとは言わずにそんなことを言うから思わず笑う。 きっと、照れ隠しなのだ。 「やっぱ可愛いなお前」 「朝からホントにやめて」 どうしたって昨日の夜を思い出して、 腕の中の那津は俺の頭ん中で全裸になった。

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