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第90話 友哉

首筋に、紅くそのシルシが見えている。 きっと、少しずらせばその鎖骨の下あたりに、腹に、 それから、、、言うのが恥ずかしい場所たちに。 それはいくつも発見できるだろう。 「ハズいの?」 「っハズいの」 こちらを向かない那津の、 襟足で揺れてるサラサラの髪を丁寧によけるようにして、 細いうなじに唇をくっつけると、腕の中の那津の身体がピクリとする。 このまま襲ったらどうなんのかな、、なんて、 きっとコイツが知ったら怒るだろうことばかりを考える。 俺はいま、相当いかれているのだと自覚した。 「なに作ってんの?」 「フレンチトースト」 「好物」 「知ってる」 「こっち向いて那津」 「っ・・・」 抱きしめてた腕を少し緩めて言えば、 那津は少しだけ躊躇して、はぁっと息を吐いてから ゆっくりとこちらを向いた。 「ぶっちゃけどうしたらいいかわからない」 「ん?」 こちらを向いたものの、那津の視線が泳いでる。 そして、そんな顔すらも、もうすべては可愛く見えて キスがしたくてたまらない。 「こんなの初めてだから」 「それは俺の台詞ね」 素直に言う那津に素直に答えればようやく、 そのクリっとした瞳は俺を映した。 「普通にしてろ」 「なんだか普通がわかんない」 「じゃ、わかんないままでいろ。それでいい」 那津の言ってることが本心だとわかるから、 俺はそれだけでほっとする。 顔を近づければ、那津の瞼は自然と閉じて唇が重なる。 俺も那津も。 きっとはじめてを経験している。 そしてそれはとても幸せな事だと思う。 そのまま浅く舌を絡めた。 「ゆっくりがいい」 「なにが?」 「だからその・・・ともちゃんとの・・二人のこと。 ゆっくり進みたい」 「わかった」 那津はまた、大きく息を吐いてようやくはにかむように笑う。 そうしてもう一度唇が重なって、 那津の腕は俺の首元に絡みついた。 「首、紅いけどどうした?」 「っ・・・もぅっ」 やっぱり、那津はいちいち可愛いのだった。 ーーー・・・ 会社の日の昼、外回りが多い俺はほとんど外食になる。 同僚と食べることももちろんあるが、ほとんどの場合ひとりだ。 今日はあまり時間がない。 だから近場のカフェで軽い食事で済ませることにする。 よく入る、この店の珈琲は美味いと思う。 けれども那津が淹れてくれる珈琲とは比べられないほど 決定的に何かが違う、、、とも思う。 基本、独りのほうが気楽でそれはいまも変わらない。 ただ昔はこの時間、新聞を読んだり本を読んだり 次の仕事の仕事をしていた。 いまだって本を読むし次の仕事の仕事もする。 けれどいまは必ず、那津のことを想う。 それは文字通り、ただ、想うだけ。 たとえばメッセージを送ったり電話をかけたりはしないが、 ただ、那津のことを想う。 想ってしまう。 頭の中に勝手に現れて、それはいつだって俺を笑顔にする。 ゆっくりすすみたいと那津に言われてから三カ月以上がたつ。 わかったと返事をしたものの、正直、 那津の言うゆっくりというものがどういったものか、 わかるようでわかってはいない。 だからぶっちゃけ、あれからも自分の好きにした。 するとなんだかんだ、どこか恥ずかしそうにしながらも、 アイツは俺のすべてを拒否しない。 ゆっくりと言われたその日も言われたその場所で、 返事をしたあとキスをしながらその細い腰を撫でた。 卵を割っていた那津の手のひらがパジャマ越しに俺の背中を撫でたから、 そのまま俺もTシャツの裾から両手をひっそりと入れると直接、 背中を撫でる。 途端、那津の身体が硬くなって、 唇が離れそうになるのを引き留めるように腰を押し付けた。 するとそれだけで全身はネツをもって昨日の夜を思い出した。 、、、いや。きっともっと前から。 きっと目を覚まして、 ベッドに那津の姿がなかったことを知ったその瞬間からもうアツかった。 ともちゃん待ってと声が聞こえた。 けれど聞こえないふりをしてそのままズボンの中に手を入れると、 自然と手は動いて柔らかいケツを揉む。 唇は那津の首筋を這う。 それもやっぱり自然に。 ゆっくりって言ってるじゃんとまた、聞こえて、 ああわかってると返事をしながら下着のナカに手を入れると、 あとはもう、止めることは考えられなくなった。

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