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#8
ガララ…
当然の様に玄関を開いて、当然の様にあの子が入って来て、当然の様に俺を見上げて言った。
「惺山?唐揚げ作った。」
…え
固まったまま豪ちゃんを見つめると、あの子は慌てた様に首を振って言った。
「違う!うちの鶏の肉じゃない!ねえ?美味しく出来たんだ。食べてみて?」
そう言ってひとつ摘まんで俺の口に運ぶから、反射の様に口を開いて、豪ちゃんの唐揚げをかじって食べる。
「…あふい。」
「ふふ!揚げたてだからね。熱いんだ。」
そう言う事は初めに言うもんだ…!
そんな事、言ったりしないさ。
「おいで…」
そう言って大股を開くと、豪ちゃんを正面から抱きしめて、あの子が餌付けする様に唐揚げを口に運ぶのを、されるがまま口を開いて食べた。
「ん、おいひい…!」
ハフハフしながらそう言うと、あの子は嬉しそうに微笑んで俺を見つめた。
どうしてかな…
俺がこんなに抱きしめてても…嫌がらずにそのままにさせてくれてる。
大股を開いて、あの子と同じ背の高さになると…可愛い笑顔がすぐ目の前に来て、あ~んって言う口の形が、良く見えるんだ。
「惺山…背が低くなったの?」
クスクス笑いながらあの子がそう言うから、俺は首を傾げて言った。
「キスしやすい様に…小さく進化したんだよ。」
「ふふ…馬鹿なんだ…」
耳を赤くしてはにかんで笑うと、豪ちゃんは揚げたての唐揚げを摘まんで、再び俺の口に運んだ。
「やだ。キスして!」
顔を背けてそう言うと、豪ちゃんはムッと頬を膨らませて言った。
「僕が作ったんだぞ!食べて!」
「嫌だ!キスしてくれたら食べる!」
俺がそう言って頬を膨らませると、あの子は唐揚げのお皿を台所に置いて、瞳を潤ませた。
そして、俺の肩に両手で掴まって抱き付くと、くったりと体を預けて甘えて言った。
「惺山…僕の事、好き…?」
はぁああああ!!
「好き…」
すぐにそう言うと、あの子の首に顔を埋めて甘えた。
「大好き…」
付け加えてそう言うと、あの子はぐすっと鼻を鳴らして笑って言った。
「だったら…唐揚げ食べてよ…」
俺の背中を遠慮がちに撫でてギュっと抱きしめて、頬を肩に乗せると…豪ちゃんは体の力を抜いた。
…可愛い
大好きだよ…
抱きしめた両手に気持ちがこもって、あの子が苦しくならない様に…自制すると、自分の肩に乗ったあの子の顔を覗き込んで言った。
「…食べるよ。キスしてくれたら、全部食べる…」
涙を流しているあの子を見つめてそう言うと、口元を緩めてあの子が笑うから…堪らず、自分からキスした。
「大好きだよ…豪ちゃん…」
「うん…」
俺が死んだら…この子は泣くんだろうか…
恐怖に、甘える事も躊躇するこの子は、俺が死んだ時、泣く事が出来るんだろうか…
残酷だ…
「美味しい?」
「美味しい…」
餌付けを再開されると、大人しくあの子の言いなりになって…馬鹿みたいに口を開いた。
「これは…ジョボビッチの肉じゃないの?」
クスクス笑ってそう聞くと、あの子はジト目で俺を睨んで言った。
「違う!お店で買った…どこかの鶏のお肉だよ。」
ふふ…
自分の事を”豪ちゃん“って呼ばないこの子は…大人びてる。
まるで…別の人格みたいだ。
「どうして…あの事、隠してるの…?」
「ん、内緒…」
ほらね…?
こんな事、陽キャの破天荒な、豪ちゃんは言わない…
「ごちそうさまでした…」
俺がそう言うと、あの子は嬉しそうに微笑んで、気が済んだみたいに踵を返した。
「待って…」
そう言ってあの子の背中を抱きしめると、お皿を持つあの子の手に自分の手を重ねて、小さな背中に覆い被さって抱きしめる。
あぁ、抱きたい…
キスして、布団に沈めてしまいたい…
でも
…俺は、豪ちゃんが…おねだりして来るまで、何もしないんだ…
「…玄関まで、送ってあげよう…」
「…ふふ。うん…」
「右からだよ…」
俺がそう言って右足を出すと、あの子は一緒になって右足を出して、えっちらおっちらと…ふたり重なって歩いて玄関へ向かう。
物足りなそうに俺を見上げる豪ちゃんを見下ろすと、ニッコリと微笑んで言った。
「また、食べさせて…」
あの子は恥ずかしそうに伏し目がちになると、コクリと頷いて言った。
「…うん。」
ガララ…ピシャン。
玄関が閉じて、あの子の足音が遠退くのを聞き耳を立てて聞くと、頬に涙が伝って落ちる。
唐揚げ…美味しかったな。
あの子は哲郎の母親の様に、きっと、料理上手になる。
女だったら最強だ。
可愛くて、料理も出来て、ドМのツンデレだから、引く手数多だ。
男の子でも…あの子には哲郎がいる…。
ただな~!
哲郎の…あいつの引き際が悪いのが…良くないな。
年齢と共に…微妙な塩梅を感覚で掴んで行けば良いけど…今のままじゃあ、タダの悪乗りが過ぎるガキと同じだ。
あぁ…あいつは、まだガキか…
「ふふ…」
ひとり、そんなどうでも良い事を考えて吹き出すと、雨戸を閉めて戸締りをして、風呂にお湯を張った。
俺は…今だけ、あの子の傍に居れたら良いんだ…
おっさんで…どうしようもないスケベで…簡単に体をお触りするクズだ。
それに、長生きしない!
…ふふ。
でも…
最後の…恋ってやつなのかな…
あの子は哲郎と居る方が正しいと、頭が認識するのに…
心の底から納得するのに…
悪あがきする様に、胸の奥が高鳴るんだ。
今だけ…お前の豪ちゃんと、一緒に居させてくれよ…哲郎。
「コケ~ココココ…コケ~ココココ…」
今日もパリスの調子が良い…
体を起こすと、ボサボサの寝起きの頭を掻きながらピアノの部屋に行って、昨日書いた五線譜を眺める。
「…良いじゃないか…」
上出来の出来に口元を緩めると、窓の外に置かれたパリスの卵を手に取って、胸を張ってどや顔をするパリス嬢に感謝を伝える。
「おぉ…パリス嬢。今日も、お恵みをありがとうございます!」
雨戸を開いて朝の空気を部屋の中に入れると、やけに冷たい風と、風が唸る音を聞いて、眉を顰める…
…なんだ、今日は、天気が荒れそうだな。
あの子たちが来たら…山と湖には行くなって、言わないとな…
また、この間みたいな事があったら、堪ったもんじゃない。
ご飯をお茶碗によそうと、パリスの産みたての卵をご飯の上に乗せて醤油をかけた。そして、箸でかき混ぜてズズッと啜りながら食べる。
栄養満点の卵かけご飯のお陰か…生活のリズムが整ったお陰か…
毎日、体が軽くて…調子が良いんだ。
「おっちゃん、台風が来るぜ!」
へ…?
唐突に…庭にやって来た清助が、縁側の向こうから居間に座る俺を覗いてそう言った。
「台風…?いつ?」
「午後には上陸する。だから…雨戸を閉めて、ベニヤを張るよ?後から、父ちゃんも健ちゃんも来る。豪ちゃんはてっちゃんの家に避難してる。」
あぁ…それなら安心だ…。
聞かなくても伝えてくれる清助に首を傾げつつ、卵かけご飯を再び食べ始めると、あいつは縁側の雨戸を掴んで強度を確認する様に揺らした。
「なんだ、ベニヤまで張るなんて…直撃か…?」
やけに神妙な面持ちの清助に半笑いでそう聞くと、あいつはムスッと頬を拭くらませて言った。
「この間の分厚い雨雲が台風になって戻って来たんだ!いつもは山が守ってくれてっけど、舐めてっと死ぬぞ!」
お~~!こわ…!
死ぬ…?
それは…まずいな…
空になったお茶碗を見つめると、ふと、あの子の事を思った…
大嵐になってから…俺を心配して、ここに来るんじゃないか…?
初めから一緒に居た方が…良いんじゃないか…?
「おっちゃん、ベニヤ運ぶの手伝って!」
「ほいほい…」
清助の声に我に返ると、ボサボサ頭のままお茶碗を流しに置いて、玄関へ向かった。
「わぁ…これは、凄いな…」
外に出ると、同じ様なボロい家は軒並み雨戸を閉じて、みんな一様にベニヤを張って補強作業をしていた…。
一大イベントでも始まるかの如く、村人総出で団結して行われる補強作業を目を丸くして眺めていると、清助が俺の背中を叩いて言った。
「おっちゃん、こっち!」
「ほいほい…」
運んで来た手押し車からベニヤ板を降ろすと、清助と一緒に縁側の前に重ねて置いて行く。
これを…後から来た大人たちが張り付けて行くんだ…
清助の手慣れた様子を見て、台風や、大雨、その他の自然の猛威を、こうして老若男女問わず一丸となって乗り越えて来たのかと…妙に感心した。
「おはよ~っす…徹の兄貴の悟です。ボロ屋を補強に来たよ?大丈夫だと思うけど…どうしてもダメだったら、おいちゃんとこに逃げて来な?」
は…!
徹の…兄貴…!?
つまり…清助の、父ちゃんか…
やばい。
実家を借りてるのに、ちゃんと挨拶に行ってなかったな。
「初めまして、お世話になってます…」
ペコリと頭を下げて挨拶すると、清助がケラケラ笑って言った。
「おっちゃん、ちゃんと挨拶してるの?あ~はっはっは!父ちゃん!このおっちゃん、おっかしいんだぜ?フルチンでさ…!」
…何も今、その話をする事もなかろう…
「徹夜明けと、熱が出ていて…ちょっと、おかしくなっていまして…アハハ…」
引きつり笑いで誤魔化すと、へらへら笑う清助を顔を歪めて睨みつけた…
「まぁ…色々あるのさ…」
残念そうな表情でそう言うと、徹の兄貴はベニヤ板を起こして言った。
「健ちゃんおっそいな…あと、3軒回らにゃいかんのに…どれ、お兄さん、雨戸閉めてきて?」
「は、はい…」
大慌てで玄関へ回ると、敷地の入り口付近で大きな声が聞こえて…足を止めた。
「駄目だ…豪、いい加減にしろっ!」
「嫌だぁ!惺山と居るっ!」
あぁ…やっぱり…
気付かない振りをした方が良いのか…
それとも、あの子を諭した方が良いのか…
…きっと、胸が張り裂けそうなくらい、俺の事を心配してるんだ…
それなら、一緒に居た方が良いじゃないか。
あの子の気のすむ様に…させてあげたら良いじゃないか。
はぁ…
「豪…お兄さんを困らせるんじゃない。」
敷地の入り口に立って…垣根を覗いてそう言うと、髪を振り乱して…泣きじゃくるあの子と目が合って、胸が痛くなった…
「嫌だぁああ!!」
空気を揺らすほどの大絶叫をすると、豪ちゃんは俺に駆け寄って抱き付いた…
そんなあの子の背中を撫でると、涙を堪えながら言った。
どうしてって…
あの子の気持ちが分かって…辛かったんだ。
「嫌じゃないんだ。よく聞きなさい。こうやって、みんなが家を補強してくれてる。だから、万が一なんて無いんだ…。だから、心配するな…」
「嘘だ!」
宥める俺の声と…あの子の怒った声が交互にやり取りをすると、豪ちゃんの兄貴は首を横に振りながら、こちらを心配して見つめる清助たちの元へ行った…。
「豪は…馬鹿だ!」
そんな怒りに任せた言葉を吐き捨てた…怒りの収まらない兄貴の様子を見ると…ずっと、こんなやり取りをして、ここまで来たんだと分かった。
逆立ってしまった怒れるあの子の体を何度も撫でると、顔を覗き込んで言った。
「嘘じゃない…それに竜巻じゃないんだ。もし屋根が飛んだとしても…俺は死なないだろ?」
「嘘だぁ!」
聞く耳を持たないつもりなのか…
豪ちゃんは頭をブンブン振ると、俺にしがみ付いて泣いた…
それはまるで、今生の別れの様に…激しく、泣いた。
この子は怖くて…我を忘れてるだけ。
怖くて、怖くて、堪らなくなってるだけだ…
「豪…兄貴に心配をかけるな。お前の唯一の肉親だ…。必死に…お前を守って来てくれた人だ。そんな人に心配をかけるんじゃない…!それに、この程度で、人は死なない…。俺は30歳で…もうすぐ31歳になるんだ。そんな大人が、1人で危険を察知出来ないと思うのか?」
あの子の顔を覗き込んで恐怖に歪んだ瞳にそう言うと、あの子は目を固く瞑って言った。
「惺山は…大人じゃない!」
はぁ…
「もう…じゃあ、どうすれば良いんだよ…」
お手上げだ…
途方に暮れて空を見上げると、立ち込めた暗雲から…ぽつぽつと雨が降って来た。
「心配なんだろ…?分かってる。でも、このままだと、補強作業が終わらなくて、惺山は死ぬ。でも…豪が哲郎の家に行ってくれたら、みんなが安心して、補強作業が終わって、惺山は死なない…」
そんな俺の言葉にピクリと反応すると、俺を見上げながらあの子は瞳を揺らして聞いて来た。
「…本当?」
「本当さ…」
安心させる様に微笑んで、あの子の瞳を見つめ返してそう言ったら、豪ちゃんは赤くした目じりを下げて、涙をぽとりと落として言った。
「…わ、分かったぁ…」
はぁ…
やっと、納得してくれた…
「気を付けて帰るんだよ…」
そう言ってあの子の背中を押す俺を、豪ちゃんは横目に見て瞳を歪ませる…
分かってる。心配なんだろ…
踵を返して裏庭のテラスへ向かうと、手伝いを始める俺を見て、豪ちゃんの兄貴がジロリと睨みつけて来た。そして、治まらない怒りを鼻から出す様に鼻息を荒くして、プリプリと怒って言った。
「豪みたいな…あんな馬鹿な奴!ぶん殴って、ロープで縛ってやれば良いんだ!」
なんだと!!
「はは…ちゃんと納得して哲郎の家に向かったよ…」
首を横に振りながらベニヤ板を抑えてそう言う俺に、豪ちゃんの兄貴は、ふん!鼻息を浴びせて、釘を激しく打ち付けた。
あぁ…この、気性が荒いのは…家系だな。
「お、凄いじゃん。豪ちゃん、帰ったの?」
徹の兄貴はそう言ってケラケラ笑うと、俺を見つめて言った。
「はぁ~!意外だ!あの子が人の言う事なんて、聞く事なんて無いのにさ!一体なんて言ったの?」
「ふん!豪のバカタレなんて、蹴飛ばして泣かせたら良いんだ!」
怒りのおさまらない豪ちゃんの兄貴はそう言ってムスッと頬を膨らませたまま、金づちをズボンに差して、おもむろに押し車を引き始めた。
「…じゃ、やばくなったら逃げるんだぞ?姿勢を低くして、飛ばされんなよ?」
そんな縁起でもない言葉を残して…徹の兄貴と清助、豪ちゃんの兄貴は、ガラガラと手押し車を押しながら次の目的地へと向かった…
「ありがとうございました…」
ペコリとお礼のお辞儀をしたら、視線の先のパリスが俺を見上げて首を傾げた…
鶏の癖に…勘が良いのか玄関の前に立って、早く開けろ…!と、のたまった。
「お前も…一時、避難だな…」
鶏と一緒にベニヤ板の打たれた玄関を上がると、真っ暗闇の室内を電気を付けながら歩いて進む…
はぁ…もうすぐ31歳。そんな、大人の惺山でも…
こんな時、ひとりぼっちは…さすがに、ちょっと怖いさ。
でも、あの子の取り乱した姿を見たら…そんな素振り、見せられない。
「大丈夫だよ…豪ちゃん…惺山はね、ピアノと五線譜があれば…時間を飛ぶ事が出来るからね…一曲作れば、あっという間に台風なんて通り過ぎて行くさ…。」
俺を見つめて首を傾げるパリスにそう言うと、ふかふかの胸に指を突っ込んで、温かい地肌を指先で撫でた。
…鳥肌なんて言うけど、全然お前の地肌はボツボツしてないじゃないか…
心の中でそう言って首を傾げるパリスに、同じ様に首を傾げてみせた。
台風なんて…今まで何度も経験してる。
テレビの予報なんてあてにならないくらい、あっさりと通り過ぎて行くもんだ…
しかし…
甘かった。
ガンガンガンガン…!
ビュオオオオオーー!!
ガコンガコンガコン…ゴガン!
時間が進むにつれて、雨脚も、風も、強くなって来て、トタンが剝がれる音や、バケツが飛んでいく音が、家の外から聞こえて来る様になった…
都会と違って…風を防ぐような建造物も高い建物もない…こんな場所では、抵抗の掛かっていない強風が…家をダイレクトアタックして揺らしてくるんだ!!
盲点だった!
「怖いい…!!」
家の中を我が物顔で闊歩するパリスに抱き付くと、恐怖にフルフルと震えて言った。
「パリス嬢…怖いのぉ!」
彼女は感情の読めない瞳に白い瞼を半分だけ覆って、ジト目で俺を見つめた…
まるで…キモッ…って言ってるみたいじゃないか!
ガタガタガタガタ!!
「きゃっ!怖いい~~!」
強風で電球が揺れて、打ち付ける雨が妙な強弱をつけて窓を鳴らすと、室内を煌々と灯していた電気が…一気に全て消えた。
…停電だ。
真っ暗闇の中…コッコッコッコ…と、パリスが小刻みに喉を鳴らす音だけが響いて、雨と風の音に体を震わせると、いてもたっても居られずにピアノの部屋に向かう…
音には…音で…
怖がらせる音があるなら…怖くない音で…耳を覆ってしまおう。
「ふぅううう~~~んだ!!」
真っ暗の部屋の中、ベニヤで覆われた大きな窓を背景に不気味にぶりっ子すると、ピアノの蓋を開けて鍵盤を指でなぞる。
何年弾いてると思ってんだ…
真っ暗でも、目が見えなくても、耳さえあれば…音が聴こえれば、ピアノは弾けるさ。
「怖くない…うるさい曲…」
ぶつぶつそう言って弾き始めたのは…“ハンガリー舞曲”。
部屋をホールに見立てて、音を反響させて増幅させていく。
壁に…天井に…跳ね返った音が、体の周りを泳いで俺を守ってくれる。
バイオリンで奏でる旋律をピアノで再現すると…弾く様なリズムを左手に乗せて鍵盤を跳ねていく…
あぁ…良いね…この躍動感。
曲の盛り上がりで派手に鍵盤を鳴らすと、強弱の強いこの曲を否定する様に、フォルテッシモで最後まで駆け抜けていく…
雨音が怖いから打ち鳴らしてる訳じゃない…ただ、強く弾きっぱなしで弾き切るこの曲を…聴いてみたかっただけだい!
”ハンガリー舞曲”を弾き終えると、間髪入れずに鍵盤を打ち鳴らす。
次は…“ハンガリー狂詩曲”!
低音の良く響く…大きな音を振動させると、高音の美しい音色を煌めかせる…
独特のテンポを…踊る様に指を動かして奏でると、あんなにうるさかった雨の音も…トタン屋根が飛ばされる音も、耳に入って来なくなって来る。
「はぁ…良いぞ。」
そう…これから、この曲は…もっと、盛り上がるんだ。
民族音楽の様な独特な雰囲気を持った曲だ。コロコロとテンポも変われば…超絶技巧を用いた演奏が必要になる様な…難易度の高い曲。
リストは…超絶技巧が大好きだな…!
軽やかに指を動かして独特のテンポを途切れる事なく演奏すると、次は…ベートーベン。“ピアノ・ソナタ第8番…悲愴 第一楽章”…
静かな曲だよ…
でも、重くて…痛くて…徐々に狂っていく…
「あ~はは…気持ち良い…!」
ひとりそう言って笑うと、高音の鍵盤を駆け上りながら、低音の鍵盤を強く踏んで下りていく…
ベートーベンは好きだ…
彼の不器用さと…愚直さと…生き辛さが、曲の端々に垣間見えて…他人とは思えないんだ。
あぁ、知ってる。
一方的な、親近感だ…
親指と小指が目いっぱい離れても、俺は強く鍵盤を踏んで、彼の…いいや、俺の気持ちを乗せて、鍵盤を鳴らす。
急き立てられる様な躍動感と…興奮…
堪らない…!
「はは…!」
楽しくなって声を上げると、ヒタッと背中に誰かの重みを感じて…青ざめる。
でも…終いまで弾かせてくれ…指が止まらないんだ…
静かに消え入る様にゆっくり鍵盤に指を沈めて行くと…楽譜の通り、一気に曲を弾き終えた。
「…どうして来たの…」
背中を振り返りもしないでそう聞くと、俺の肩から伸びた細い手の指先から滴る水滴が、俺の膝を点々と濡らした。
「…知らない。」
背中のその人はそう言うと、くったりと体を俺に預けて言った。
「止めないで…弾き続けて…」
はぁ…まったく…
仕方がない…
姿勢を正して弾き始めたのは“きらきら星変奏曲”。
良く知ったフレーズが次から次へと形を変えて…怒涛の如く何重にも重なって行くんだ。この曲を聴けば…重なる音の変化…弾き方の違いで…曲が様変わりするのが自ずと分かる。
それは音楽の知識なんて持っていなくても、みんな共通に感じる事の出来る変化だ。
「素敵…」
背中のその人がそう言うから、口元を緩めて、微笑みながら弾いてあげるんだ。
音楽を好きになると良い…
この先、長い未来を…素敵な曲に囲まれて生きるなんて、素晴らしい事だよ。
心が躍ったり…逆に悲しい気持ちになったり…
誰かへの思いを乗せて…偲んだり。
音楽はそんな力を持ってる物。
誰にでも共通する感性に…ダイレクトに働きかける物。
それは、限られた人の物だけじゃないんだ。
だから、どんどん好きになればいい。
そして色々な音を聞いて…色々なリズムを体に沁み込ませて、選り好みしないで…何でもかんでも聴いて、感じて…楽しんで。
「ふふ、僕の知っているきらきら星じゃない…。もっと、素敵で…綺麗で、豪華で…色々な音が重なっていて、まるで、満天の…きらきら星だ…」
曲を弾き終えると、余韻が鳴りやんだ後…あの子がそう言った。
…確かに、良い感性を持ってる。
満天のきらきら星なんて…最高の賛辞だ。
「濡れてない…?」
背中のあの子にそう聞くと、豪ちゃんは体を俺から離して顔を覗き込みながら言った。
「びしょ濡れだ…」
「はは…全く…俺の背中までびしょ濡れになったじゃないか…」
そう言ってピアノから立ち上がると、あの子の手を引いて寝室へ向かう。
…何もしないさ。
濡れた服を着替えるだけ。
それに、俺はあの子がおねだりするまで、何もしないって決めてるからね?
「外は大荒れ…飛ばされそうになりながら来たんだ。」
豪ちゃんはそう言うと、びしょ濡れの服を脱いで俺の頭の上に置いた。
はぁ…
「豪ちゃんはお怒りの様子だ…」
暗い部屋の中、クスクス笑いながらそう言うと、あの子が着れそうな自分の服を手探りで探した。
「怒ってないよ。ただ、惺山はこんな時でもピアノを弾くんだと思って…。僕が話しかけても、肩を叩いても、全然気が付かないのに…危険を予測して逃げる事なんて出来ないって思ったら、無性に腹が立ったんだ。」
「なぁんで…」
気性の荒いあの子が沸々と怒りを蓄えているのを察すると、すかさず抱きしめてご機嫌取りをする。
「怒ったの…?」
眉を下げて、仏頂面で俺を見下ろすあの子を見上げると、クスクス笑いながらそう聞いた。
そんな俺に、あの子は口元を歪めると、可愛い目に力を込めて言った。
「うん…嘘つきだなって思った…」
「嘘なんてついて無いさ。だって…ほら、危険は迫ってないだろ?」
可愛いあの子の髪をタオルで乾かすと、おでこにキスして、顔を覗き込んだ。
「惺山は…分かってないんだ。僕がどれくらい心配して…どれくらい…」
「辛いのか…?」
あの子の言葉の先を遮ってそう言うと、一気に潤んだ瞳を見つめてキスをする。
「分かってる…分かってるよ…」
何度もそう囁きながら優しくキスをすると、あの子は俺に抱き付いて言った。
「怖いんだ…惺山。離れている時…何かがあったらどうしようって…怖くて堪らないんだ…!僕を離さないでよ…。見えない所へ行かないで…!いつも傍に居てよ…!」
それは…豪ちゃんの本音。
俺と離れてギャング団と遊びに行く時も、夕方、家に帰る時も、まるで…目に焼き付ける様に、じっと俺を見つめていた。
寂しい…なんて気持ちよりも、もっと強い。
悲しみと、恐怖を瞳の奥に湛えて…
「ここに来るのは…危ないんだよ。特に…台風が来ているこんな天気の日は、危ないんだ。お前が俺を心配する様に…俺もお前が心配なんだよ。だから、安全な所に居て欲しかった。」
ボロボロと涙を落とし続けるあの子にそう言うと、豪ちゃんは俺の手を掴んで駄々をこねる様に体を捩って言った。
「いやだぁ…」
「はぁ…そうか、嫌か…」
ため息をついてそう言うと、あの子の濡れたズボンを脱がして、パンツを脱がせる。
何もしないさ…
でも、豪ちゃんは股間を隠す様に内股になった…
「大きいけど、仕方がないからこれを穿いてなさい。」
俺のパンツと、スウェットを穿かせると、長袖のTシャツを着せてあげた。ついでに、自分の濡れたTシャツも脱いで、手探りで新しいシャツを探す…
「ちょっと、大きい…」
そう言ってずり下がるズボンとパンツを上に引き上げるあの子を見て、吹き出して笑った。
「あっはっはっは…!」
オーバーサイズなんてもんじゃない…手で持っていないとパンツとズボンが落ちる。
だけど、そんなブカブカの格好をするあの子が…たまらなく可愛かった。
自分の服を着てるせいか…特に、可愛く見えた…
「布団にくるまってなさい。風邪をひいたら大変だ…」
俺がそう言うと、豪ちゃんは大人しく言う事を聞いて、布団にくるまってじっと俺を見つめた。
はぁ…可愛い…!
でも、とんでもない利かん坊だ!
「コッコッコッコ…」
パリスが飼い主の元に挨拶に来ると、豪ちゃんは嬉しそうに瞳を細めて彼女を指先で撫でた。
「誰かに言って来たの…?それとも、何も言わずに来たの…?」
俺がそう聞くと、豪ちゃんは布団ごと俺に抱き付いて言った。
「…兄ちゃんに言って来た…」
はぁ~~!怒ってんだろうな~~?!
あの剣幕だ。
きっと明日…台風が去った後、この子は蹴飛ばされて…泣かされる!
「怒られるよ?」
自分の服を手探りで探しながらそう言うと、豪ちゃんは俺の背中を指先で撫でながら言った。
「…知らない。」
この子は自分の都合の悪い事がある時、何も分からなくなるみたいに…知らない!って言う。それは本当に知らない訳じゃない…僕、し~らない!って無責任な方のやつだ。
暴風雨はまだおさまった訳じゃない。
外の騒音も…風の鳴る音も…トタン屋根がバリバリと音を立てるのも、何も変わらない…
でも、この子が傍に居るせいか…さっきの様に怖くないんだ。
ふふ…
守る人が出来ると…人って言うのは、自然と強くなるのかもしれない…なぁんて、さっきまでビビってた男が言うセリフじゃないな…
「もう…寝なさい…」
布団にくるまったあの子にそう言うと、適当に引っ張り出したTシャツを前と後ろを確認しながら頭に被った。
「だめ…」
そう言うと、豪ちゃんは俺の剥き出しの背中に頬を付けて言った。
「温かいの…このままの方が、温かいの…」
なぁんだと!!
一気にスイッチが入ると、フルフルと体を震わせながら、意地悪く言ってみた。
「こらこらぁ…か、風邪ひいちゃうじゃないかぁ…」
「惺山…こっちにおいで…?」
そんな甘い言葉に首をガクガクさせながら振り返ると、豪ちゃんは自分が包まった布団を広げて言った。
「…こっちにおいで?」
はぁあああ!!可愛い…!!
これは誘われてるの…?
イエス…オア…ノー…
まだ、分からない…。
“そんなつもりじゃなかったぁ!”と言って…キレる可能性が半々だ。
「…行かない。」
フイッとそっぽを向くと、Tシャツを着て…豪ちゃんを素通りして…敷布団を敷いて、わざとらしく無防備に…ゴロンと寝転がって見せた。
さぁ、来なさい…
イフ ユー ウォント ドゥー サムシング…レッツ トライ イット!だ。
豪ちゃんはもじもじしながら俺を見下ろすと、包まっていた布団を俺にかけて、隣に寝転がった…。
はは…!
さぁ…来なさい。
ドキドキしながら待っていると、あの子はじっと俺を見つめて、チョンと腕を撫でた。
はは~~!
いいや、まだだ。
“そんなつもりなかったのにぃ!”なんて…逃げ道の無い様な、確かな言葉を聞かない限り…俺は微動だにしないさ…
「豪ちゃん…お休み…」
下半身はジョジョ勃ちしてるけど…俺のスタンドは動かないよ。
まだだ…まだ、その時じゃない…
俺がそっけなくそう言うと、豪ちゃんは再びもじもじし始めて、そっと俺のわき腹に手を当てて言った。
「…お休み…」
はぁ~~~~?!諦めんなよっ!
ネバー ギブ アップ!ビリーブ ユア セルフ!だぞ!
「ぐうぐう…」
そんな嘘の寝息を立てて、あの子の動向を探るも…全く微動だにしない豪ちゃんに…俺は体の神経を研ぎ澄ませながら…
眠った。
だって…朝から肉体労働をして、ピアノを鬼弾きしたら…眠たくなっちゃったんだ。
「ん…ふっ…はぁはぁ…んん…あっ…ふっ…」
そんな…小さな喘ぎ声が聴こえて来ると、一旦眠った獅子が目を覚ました!
状況は…?!
頭の中でそう呟くと、あお向けに眠った俺の脇の下であの子がごそごそと動きながら、小さく喘いでいる事に…気が付いてしまった。
あぁ…豪ちゃんは、惺山におねだりするのが恥ずかしくって…眠った俺の隣で、オナニーを始めたんだ…
はっは~~!
「う…ううん…むにゃむにゃ…」
そんなわざとらしい寝言と一緒にあの子に向かって寝返りを打つと、右手を体に置いて、抱きしめてみた。
「は…」
そんな驚いて固まるあの子を腕の中に感じて…一気に興奮が振り切った。
早く触りたい…
可愛くて…愛しい、この子に…触りたい…!
「あぁ…惺山…大好き…」
あの子の可愛い声が耳をくすぐって、
俺に顔を埋めながら、再び…オナニーを始めるあの子の体の動きを感じて、
我慢出来なくなった。
「あぁ…はぁはぁ…んん、くっ…はぁはぁ…ん…」
「豪ちゃん…どしたの…?」
真顔であの子を見つめてそう言うと、真っ暗な部屋の中なのに…あの子の顔が真っ赤になって行くのが分かった。
「…あ、あ、あ、あの…」
「うん、どうしたの…」
「…し、し、知らない!」
豪ちゃんはそう言うと、ズボンの中に入れた自分の手を引き出そうと肩を動かした。
そんな動作をつぶさに感じ取ると、俺はあの子の手をズボン越しに掴んで言った。
「なぁにしてたの…?」
「何もしてない!」
状況証拠だけで十分だ。
君は言い逃れ出来ない状況にあるって事に…気付くべきなんじゃないのかね?
何もしてないなんて…
違うだろ?
豪ちゃんの顔を覗き込むと、挙動不審に視線を泳がすあの子に真顔で言った。
「嘘つき…。素直じゃない子には…何にもしてやんないよ?」
「良いもん!バッカじゃないの!」
…言ったな!
顔を真っ赤にして怒り始めたあの子の手から手を退かすと、俺は冷たい瞳を豪ちゃんに向けて、突き放す様に言った。
「あっそ…」
ムッと口を尖らせるあの子をジト目で見つめると、ゆっくりと瞼を落として、狸寝入りする。
…ツンデレって…面倒くさい。
そんな事思わないさ…ほんの少しだけ、焦らすだけだ。
「惺山?怒ったの…?」
様子を窺う様にあの子が話しかけてくるから、俺はつっけんどんに言った。
「寝るの。…疲れてるから、寝るの…。お休み、豪ちゃん。」
そして…再び、静寂が訪れた…
カチカチとなる秒針の音と、外を吹き抜ける風の唸り声が聴こえる。
…寝たかな?
そう思った頃…
「惺山…ごめんなさい…怒んないで…だって、恥ずかしかったんだもん…」
はっは~~!キターーーーー!
「何が恥ずかしいの…?」
甘ったるく俺が尋ねると、あの子は俺の胸に顔を擦り付けて言った。
「ひとりで…してたなんて…恥ずかしくて言えない…」
言ったじゃないか!
今、言ったじゃないか!!
そんな突込みなんて、野暮だ。
「ひとりで…何してたの…?」
胸の中でいじけるあの子を覗き込んでそう聞くと、瞳をウルウルと潤ませて言った。
「ん~…知らない!」
出た…“知らない!”
「知らないなら良いよ…お休み、豪ちゃん。」
再び、そっけなくそう言うと、あの子は慌てた様に俺の頬を両手で掴んで言った。
「怒らないで…好きなの…」
あぁ…
怒ってなんかない…
ただ、虐めて、焦らして、遊んでるんだぁ!
「何してたのか言ってごらん?」
クーラーがない。
なぜなら停電で電気が止まってるからだ。
布団なんて物の上で寝転がっているから、じんわりと汗ばんでくるんだ。
しかも、あの子は俺の胸の中でもじもじと火照った体を捩らせてる…
興奮しない訳ないだろう…?
興奮すると汗をかいて…背中からじんわりと汗が流れ落ちてくる…
そんな不快感が、気にならない程…俺は目の前のこの子を虐める事に夢中になってる。
だって…すっごく、可愛いんだ…
じっと俺を見つめるまん丸の瞳が、まるで意を決した様に力強くなると、豪ちゃんがポツリと言った。
「ひとりで…エッチな事してたの…」
言った~~~!
もう、良いじゃないか、惺山…
あの、恥ずかしがりの豪ちゃんがそこまで言ったんだ。許してやろうじゃないか…
「見せて…?」
「え…?」
俺の言葉に、まん丸の瞳を見開いて頬を真っ赤に染めた豪ちゃんが、とっても可愛くて…あの子の頬を優しく撫でながら、意地悪く微笑んで言った。
「豪ちゃんがしていた、エッチな事…俺に見せて…?」
…ハードルを上げてしまった。
引き際を間違えたかもしれない…でも、止まらないんだ。
これじゃあ、馬鹿な哲郎と同じだ…!
深追いしないで…ほどほどの所で、止めておいた方が良かったかもしれない…
そんな後悔の念をひた隠しにしてあの子を見つめ続けると、豪ちゃんは何かを決心した様に頷いて言った。
「…分かったぁ…」
マジか…!マジか…!
ギリギリを攻める、お前が好きだ!惺山!
お前は人生そのものがギャンブルだ!!攻めろ!攻めてけ!良い心意気だぞ!!
長い葛藤と自問自答を繰り返した後、得た。
そんな自分の選択に感謝すると、腕の中でごそごそと自分のズボンに手を入れ始める豪ちゃんを見つめて勃起する。
あぁ…なんて事を…
卑猥だぁ…!!
惚けて潤んだ瞳で俺をじっと見つめてズボンの中に入れた手を動かすと…気持ち良さそうに吐息を吐きながら、体を捩らせて喘ぎ始めた。
…何これ、堪らない。
「…豪ちゃん、気持ち良いの?」
顔を覗き込んでそう聞くと、あの子は頬を真っ赤にしながら言った。
「…うん。気持ち良い…」
「どこを…どうしたら良いの?」
そう言いながらあの子の柔らかい髪を撫でると、剥き出しのおでこにキスをして瞳の奥を覗き込んだ。
「あ…あっ…はぁはぁ…んん…惺山、意地悪言わないで…」
キャーーーー!可愛い!!
「意地悪じゃないよ…?聞いてるの。どこを、どうしたら…気持ち良いの?」
攻めの姿勢を崩さない俺はそう聞くと、ズボンの中で上下に揺れるあの子の手を撫でた。
「あぁ…ん…だめぇ、恥ずかしいの…」
「何が…」
「いやぁ…聞かないでぇ…」
「教えてよ…」
首をぶんぶん振り続けるあの子の首を食んで、わざと音を出しながらキスをしてあげると、優しく耳元で言った。
「おりこうさんに答えられたら、触ってあげるよ…?」
「ふぁあ…んんっ!惺山…!らめぇ…んぁ…あっああ…!」
イッちゃいそうな位に興奮したあの子の唇を、チュッチュと何度も食みながら、クスクス笑って言った。
「…教えて?」
「あっああん!!」
豪ちゃんは…言葉攻めだけで…イッてしまった…
「あぁ…パンツを汚しちゃったね…」
俺の言葉なんて聞こえていないのか…突然、火の付いたあの子は、俺に襲い掛かると、舌を入れた激しいキスをしながら潤んだ瞳で言った。
「気持ち良くして…!惺山…したいの…エッチしたいの…!僕に…触って欲しいの…」
聞いた?
今、この子が言ったんだ…!
「良いよ…可愛い豪ちゃん…」
堪らなくなってあの子にキスすると、荒い息をあの子に浴びせながら布団に沈めて、覆い被さって行く…
大好き大好き大好き大好き…
そんな、呪いの呪文の様に…頭の中で、数珠つなぎになった言葉が駆け回り…あの子の素肌に触れて、胸が苦しくなって…眉間にしわを寄せる。
急に、どうしたんだよ…惺山。
死ぬのなんて…怖くないだろ…
なのに、どうして…この子と離れるのが、怖い…なんて、考えて…萎えてんだよ。
突然に込み上げてくる嗚咽を堪えると、あの子が心配しない様にそっと頬ずりしながら耳元にキスをして言った。
「豪…大好き…」
「うん…僕も…惺山が大好き…」
始まりこそ最悪だったけど、すぐに感じた…この子への“安心感”は、まるで…こうなる事を予期していたみたいに感じるよ。
会うべき人に…会ったから、俺の心が安心したんだって…
勝手だけど…今なら、そう思うんだ。
じっと見つめる俺を見つめ返して、胸に置いた手をスルスルと滑らせながら俺の頬を掴むと、瞳を潤ませてあの子が言った。
「キスして…」
どうしてだろう…年齢も、性別も、守備範囲外だった君が、俺の大好きな人になった。
あの子の可愛いおねだりにニッコリと微笑むと、大事に抱きしめながらキスをして、大きすぎるスウェットとパンツを片手で引き下げて行く。
「ふふ…これは…着てるって言わない…」
クスクス笑いながらそう言うと、あの子は俺の首にしがみ付きながら言った。
「行かないで…」
どこに…?
「行かないよ…」
火照ったあの子の体を撫でる様に手を這わせると、オーバーサイズの服を脱がせて、体の全てにキスをする…
愛おしいんだ…
この子の全てが、愛おしくて…可愛くて…いじらしい…
「はぁはぁ…惺山、好き…好き…」
俺の髪を撫でながらそう言うあの子の乳首を舐めると、意地悪に指先で摘まんで撫でた。快感に体を仰け反らせて、口からいやらしい喘ぎ声を出すあの子を見て、我を忘れて…没頭して行く。
そう…ピアノを弾いて、作曲をする時の様に…豪ちゃんに没頭するんだ。
「豪ちゃん…ここ、気持ち良いの…?」
十分に勃起したあの子のモノを手の中に入れると、うるんだ瞳で頬を真っ赤にしたあの子に、焦らす様にキスして言うんだ。
「…どうして欲しいの…?」
「握って…動かして…気持ち良くしてよぉ…」
そんな素直なあの子にクラクラすると、細い足を持ち上げて、体を沈めていく。
「あぁあっ!んん…っ!はぁはぁ…らめぇ…んっ、気持ちい…あぁっ!」
口に入れた瞬間イキそうな位、あの子のモノは敏感に跳ねて、体中が性感帯になったみたいに、俺の手が撫でる全てに体を震わせて喘ぎ声を漏らし始めた。
「可愛いね…豪、気持ち良いね…」
そう言ってあの子の腰を掴むと、逃げられない様に抑え込んで、体を捩って快感に溺れる豪ちゃんの中に指を入れていく。
「んん…やぁ、やぁだぁ…!」
…やだって言ったって…じゃあ、惺山はどうするんだ!
豪ちゃんは体を起こして嫌がると、惚けた顔の俺に言った。
「苦しいから嫌なの!」
本音だろう…
でも、じゃあ…俺はどうしたら良いんだ…
「俺は…?」
あの子の顔を見つめてそう言うと、豪ちゃんはしゅんと表情を沈めて口を尖らせて言った。
「…知らない。」
はぁ~~~!?
酷じゃないか!!
「はは…分かったよ。」
妙におかしくて笑ってそう言うと、あの子のモノを再び口の中に入れて扱いてあげる。
「はぁはぁ…あぁ…惺山、気持ちい…ん、んん…あっあ…あっ!」
あの子の起き上がった上半身を両手で布団に押し倒して、可愛い乳首を摘まんで意地悪に指先で撫でて虐める。
「はぁあっ!だめぇ…!!んんっ!イッちゃう…!」
あぁ…豪ちゃんから、イッちゃうなんて…聞く日が来るとは思わなかったよ。
「ひゃあっ!あっ…あっああ!」
そんな悲鳴のような喘ぎ声をあげると、あの子は俺の口の中で果ててイッた…
可愛い…
俺に好きにされて、布団の上で惚けた瞳を潤ませて、快感の余韻を感じてるあの子が…堪らなく、可愛い…!
「気持ち良いの…?」
そう言ってあの子の体に覆い被さると、半開きになったあの子の唇に指を突っ込んで、指先で舌を撫でながら言った。
「しゃぶって…?」
言われた通りに、ちゅぱっ…と俺の指を咥えるあの子が、卑猥で…指を出し入れしながらあの子の耳元で言った。
「舌で舐めて…?」
「ふっ…んん…」
恥ずかしそうに口の中で文句を言うと、あの子は小さな舌を出して俺の指をペロペロと舐めて、じっと俺を見つめた。
…エッロ!
「ねえ…惺山のも…お口ですれば良い?」
何を思ったのか、豪ちゃんはそう言って俺のズボンに手をかけると、おもむろに脱がせ始める…
なんだ、再び、火が付いたのか…!?
「え…豪ちゃんが舐め舐めしてくれるの…?」
あの子の頬を撫でながらそう聞くと、豪ちゃんは惚けた瞳で、俺を見つめて頷いて言った。
「…うん。」
あぁ…マジか…悪くない、悪くないよ…
お尻を上げて、あの子が俺のズボンを脱がせるのに協力すると、勃起した俺のモノをまじまじと見て、あの子が言った。
「…怖い」
はは…!
誉め言葉だろ?
「大ちゃんが言ってた…惺山のおちんちんは、剥けてるって…意味が分からなかったけど、こういう事なんだ…」
…そう言う事だ。
俺のモノを両手で掴むと、怪訝な表情でグルッと見渡して観察するあの子の眼差しにドキドキして…抗えない本能で、グインと反応する自分のモノに、我ながら苦笑いする…
「あ…凄い…」
そんな言葉…言わないで…!
あの子が何か言う度に、あの子の手の中で大きくなる自分のモノが…素直過ぎて、笑えない…
「こうして…こうして、お口の中に入れるんだよ?でも…歯は立てないで、口の中で舌をこうして…吸ったり…舐めたりして、気持ち良くするんだよ…?豪ちゃんに出来るかな…」
あの子の髪を撫でてそう言うと、ゆっくりと体を沈めていくあの子の背中を眺めて…また硬くなる。
だって…日焼けした跡が…妙にいやらしく見えるんだ。
あの子が俺の股間に顔を埋めて、口の中からピンクの舌が出るのを確認すると、内蔵されたオートフォーカス機能でズームして、口元をアップで見つめる。
ペロ…
「ほほ…!」
ひと舐めされただけなのに、腰が震えて、慌てて視線を外して、天井を見上げて、固まる…
はぁ…やばい…やばい…やばい…
こんなんでイッたら…立派な早漏だ!
でも、あの子が舐めたと思うだけで…もう、イキそうだ…
「あ…はは、豪ちゃん…やっぱりお口は良いよ。ハードルが高いだろ?」
あの子のしなやかな背中を撫でてそう言うと、豪ちゃんは俺のモノを口の中に入れながら、首を傾げて俺を見つめた。
「はぁあああ!!」
両手で自分の髪を引っ張って顔を仰け反らせると、今にもイキそうになった快感と、目の中のあの子の顔を忘れる様に、再び天井を必死に凝視する。
「惺山…こう?それとも…こう?」
何度もそう言うと、あの子は温かい口の中に、俺のモノを出し入れし始めた。
…ダメかもしれない…
だって、聞いてくる声が、可愛いんだ…
「豪ちゃん…イキそう…。口から出して、手で扱いて…」
あの子の髪を撫でてそう言うと、豪ちゃんは、再び、口にモノを入れながら俺を見上げて、きょとんと不思議そうな顔をして言った。
「…ん、なはに?」
はぁ…だめだぁ…!
あまりの可愛さに興奮しきると、俺はあの子の口の中でイッてしまった。
…はぁ、可愛いんだもん…ダメだろ、あんな顔をして、フェラチオなんてしたら…ダメだろ…!
反則だぁ…!
「んん…!けほっ…けほっ!」
咽てせき込むあの子の背中を撫でると、涙目の惚けたあの子が、俺に両手を伸ばして、頬ずりしながら抱き付いて言った。
「気持ち良かった…?惺山…僕の、気持ち良かった…?」
あわあわあわあわ…
可愛い…!
「うん…気持ち良かったよ…。でも、今度から飲まなくても良いんだよ。ぺってして、ティッシュに出して良いんだよ…」
あの子の頬ずりをかわしてそう言うと、豪ちゃんは潤んだ瞳をグラグラ揺らせて、微笑んで言った。
「良いの…惺山は、良いの…」
はぁあああ…!
心の中で大絶叫をすると、俺の襟足をいつもの様に指先で絡めて撫で始めるあの子を体に乗せたまま、優しく両手で細い背中を抱きしめた。
骨抜きだ…
俺は、この子に骨抜きにされた。
いちいちの可愛さと…身もだえする様な従順さが、俺をトロけさせるんだ。
「ふぅ…」
そんな気の抜けた息を吐き出して俺の体に脱力すると、体を預けたまま襟足の髪を指先に絡ませて、放す…を繰り返してる。
…きっと、この前みたいに…遠くを見る様な呆けた表情をしてるんだ。
「どうしてそうするの…?」
あの子の髪に頬ずりして尋ねると、あの子は俺の胸に唇を付けて言った。
「…なんとなく。」
…なんとなく、ね…
しなやかな背中を撫でると、あの子を抱きしめながら言った。
「お父さんにもしていたの…?」
「はは…してない。お父さんは、僕の事を…怖がっていたから…」
あの子はそう言って俺の髪をぐるっと掻き分けて撫でると、顔を埋めて、甘えて、くったりと脱力した。
…親父には甘えられなかったのか。
「…そう。」
俺がそう言うと、あの子はケラケラ笑いながら言った。
「惺山…?兄ちゃんに、髪の毛を切ってってお願いしたんでしょ?ダメだよ?切ったらダメ。だって…僕はこの部分が好きなんだから…切らないで…?ね?お願い…。」
…まるで、父親の話を避ける様なあの子の態度に、胸が痛くなって…可愛く微笑むあの子の頬を撫でると、瞳を細めて言った。
「…分かった。切らない…」
「ふふ…良かったぁ…」
あの子はそう言うと、再び…俺にくったりと顔を付けて脱力した。
どうしようかな…
刹那的じゃない未来まで…この子の傍で過ごしたいなんて…欲が出てくるんだ。
この子は…人の死期が分かる子…
そして、対象の傍を付き纏って…何とか、死から救おうとしていた子…
残念な事に、それは一度も…成功していない。
そして、多分…今回も、この子の努力の甲斐なく…俺は死んで行くだろう。
残酷だな…
「愛してるよ…豪ちゃん…」
そう言ってあの子の髪にキスをすると、あの子は俺の襟足を指に絡めて言った。
「僕も…愛してる…」
ふふ…
愛なんて分かるの…?
それは、表面を取り繕う様な恋と違って…相手の中までも…丸っと飲み込んで、全てをありのままに、愛おしむ事。
あぁ…そうか
愛を知らなかったのは…俺の方か…
この子はずっと…俺の中を見ていた。
あんなに酷い言葉を浴びせられたのに…あんなに酷い事をしたのに…離れないで、傍に居て、俺の全てを…丸っと飲み込んで…ありのままを愛してくれている。
…知らなかったんだ。
こんな風に愛される事が、こんなに満たされて、こんなに安心するなんて…
知らなかった。
この子に出会うまで…俺は、何も知らなかったんだ。
堪え切れない涙がポロリと目の端から落ちて、頬を伝って流れていく…
気付いていても…気付かない振りをして、ただ俺の髪を撫でて抱きしめてくれるこの子を、両手で包み込んだ。
「もう…寝よう…」
あの子に新しい下着と穿かせると、ぶかぶかのスウェットとぶかぶかのTシャツを着せた。そして、俺はパンツとTシャツ姿のまま布団に寝転がった。
「クーラーがない…窓を開けると、暴風…。これじゃ、暑くて寝られない…」
ぶつぶつ文句を言うと、あの子はうちわを持って来て扇ぎながら言った。
「これは…?」
ふふ…
「涼しい…でも、疲れるだろ…も、こっちにおいで…!」
そう言ってあの子の腕を引っ張ると、自分の胸の中に入れて両手で抱きしめた。
「疲れない!」
「疲れるんだ…手がしびれて、腱鞘炎になる。だから、扇がなくていい…」
「じゃあ…これは?」
あの子はそう言うと、俺の顔面目掛けて息を吹きかけて来た…
「ふーってして?はぁ~ってしないで?」
あの子のおでこを撫でてそう言うと、豪ちゃんは首を傾げて言った。
「ふふっ…何が違うの?」
「ふーだと涼しい風…はぁ~だと、温かい風が出る。人体の七不思議のひとつだ。」
あの子の足を、足で挟んでそう言うと、自分の手のひらに息を吹きかけた豪ちゃんがケラケラ笑って言った。
「ホントだぁ…!ふふ、やっぱり、あなたは…物知り。」
…あなた…?
ふふ…
「お休み…汗だくになったら、ごめん…」
瞼を落としてそう言うと、あの子は俺の胸に顔を埋めて言った。
「良いの…惺山なら、良いの…」
そう…俺なら良いの…
それは…とっても光栄だよ。
可愛い豪ちゃんを両手に抱きしめて、じんわりと肌に汗をかきながらあの子の髪に顔を埋めて眠りについた。
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