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#10
惺山の服を結局ずっと着ていた。
脱ぎたくなかった。
だって、まるで、彼が背中に覆い被さって来てるみたいで…安心するんだ。
お風呂場で彼の服を脱ぐと、離れ難くて…口元に当てて匂いを嗅ぐ。
そっと、自分の股間を撫でると、トロンとトロけてしまいそうな位に、一気にメロメロになる。
「…惺山…好き…」
僕の気持ちが分かるんだ…だから、男の子の僕を、女の子を抱く様に抱いてくれた。
初めての時は…怖かった…
彼が彼じゃ無くなって…怖かった。
でも…嫌じゃなかった…
全ての怒りをぶつけられたとしても…僕はあなたが好き。
あなたが、とっても優しい人だって…僕は知ってるから…
ピアノの音色を聴けば…全て、分かるから…
「はぁはぁ…んん…惺山、惺山…」
自分のモノを扱いて気持ち良くなると、彼の服に頬ずりしながら…イッた…
手の中の白い液を眺めて我に返って…快感の余韻もままならないまま、風呂に入った。そして、手桶のお湯で手を流すと、いつもの様に淡々と…体を洗い始める。
大好き…大好き…惺山、会いたい…
今、この時も…離れている事が不自然なくらいに、1人で過ごす時間が辛い。
あなたが死んでしまったら…きっと僕も死ぬでしょう…
それとも…今朝、亡くなっていた雛の様に…
あなたが死んでも、当然の出来事の様に淡々と日常を送るんでしょうか…
ひとりで過ごすと、そんな事ばかり…考えてしまうんだ。
だから、傍に居たい…
あなたの温もりに…触れていたいんだ…
布団を敷いてバイオリンのケースを枕元に置くと、左手で撫でながら言った。
「お休み…バイオリン…」
これが弾けるようになったら…あなたに少しでも近づけるのかな…?
あなたが聴いている、どこからか聴こえる音が、僕の耳にも聴こえて来るのかな…?
「豪ちゃん、お休み。兄ちゃんは、明日…5時起き。起こして…」
隣の布団に入ってそう言う兄ちゃんを無視すると、瞳を閉じて、彼を思う。
今頃…何してるの?
僕は、もう寝ます…
起きていても、あなたを思って悲しくなるから…
早く寝て、早く…明日が来るようにします。
愛…
愛してる…惺山。
僕の全てで…僕の命…それが、あなた…
だから、あなたが死んでしまったら…必然的に、僕も死ぬことでしょう。
コッコッコッココケッコッコ~~~~~~!!
コケ~コ!コケ~コ!ッコッココケ~!!
借りて来た雄の鶏は、今朝も誰よりも早く鳴いて、遠くにいるパリスに鳴き声を届けている。きっと…惺山の所のパリスも今頃、雄の鳴き声に反応して鳴いてるだろう…
続けて泣き続ける鶏の声の中…隣で僕にしがみ付く、寝相の悪い兄ちゃんに言った。
「に…ちゃん、暑い…!」
「んぁああ…!」
バカみたいな声を出すと、兄ちゃんはうつ伏せに寝転がって言った。
「ダメ…眠い…」
みんな朝は眠いんだ…馬鹿野郎…
布団から出ると、すぐに布団を畳んで兄ちゃんをけ飛ばして言った。
「5時…!」
「んん…ダメだぁ…兄ちゃんは…5時になんて起きれない…」
台所に行って昨日漬けた茄子の漬物ときゅうりの漬物をお皿に移すと、お鍋にお湯を張って出汁を取り始める。
「…何時に出るの…?」
布団に寝転がる兄ちゃんにそう言うと、兄ちゃんはモゾモゾと体を揺らしながら言った。
「…6時…」
はぁ…
じゃあ…ご飯を作ってる間は寝ていたら良い…
昨日、集めた卵を3つ割ると、お箸で溶かしてだし汁をほんの少し垂らす。
四角いフライパンを出してコンロに置いて火をつける。
茄子を適当に切ると、出汁の取れた鍋に放り込んで、ねぎを一緒に入れる。
十分に温まった四角いフライパンに卵を流して入れると、くるっと返して、手前に持ってくる。そして、再び卵を流しいれて…くるっと返しながらどんどん巻き付けて行く…
「兄ちゃん…ご飯、そろそろ出来る…」
僕はそう言うと、出来上がった卵焼きをまな板の上に載せて、包丁で4等分に切ってお皿に乗せて行く。
芋虫の様に這って来る兄ちゃんを見下ろしながら食卓を台拭きで拭いて、コップにお茶を注いでおく。
茄子ときゅうりの漬物、みそ汁を置くと、食卓に辿り着いた兄ちゃんがコップの中のお茶を飲んで、ボサボサの頭を掻きながら言った。
「夢、見たぁ!」
…正直、どうでも良い…
卵焼き、納豆と大葉を食卓に置いて、急いで炊飯器のお米を兄ちゃんのどんぶりと、自分のお茶碗にお米をよそう。最後に、両手で抱えて食卓に運んで、やっと…朝ご飯の支度が終わった…
「今…5時30分。」
今にも眠りそうな兄ちゃんにそう言うと、ハッと意識を取り戻した様に目を見開いて、目の前のお米をがつがつと食べ始めた…
…今頃、彼も起きてる。
早く会いたいな…
恥ずかしがらずに…可愛く、ミサンガを渡せるかな…
「ふふ…」
思わず一人で笑うと、茶碗越しに兄ちゃんがジト目で僕を見つめた。
僕はそんな事を無視して…美味しく焼けた卵焼きを一つ摘まんで口の中に入れる。
「…旨い…」
兄ちゃんは同じ様に卵焼きを食べると、一言そう言った。
当然だよ。何年焼いてると思ってるの?
兄ちゃんが働き始めてから、家の事は僕がしている。ご飯の準備も…掃除も洗濯も。
初めは納豆ご飯しか出せなかった朝食も、自然と上手になって来た。
生きるって…きっと、こういう事。
だんだんと出来る様になって…板について、自然と出来るようになっていく…
それは…成長なんて格好良い言葉じゃない。
…ただ、生きてるってだけ。
「行ってくる…」
町行きのお洒落な格好をした兄ちゃんがそう言って、バイクのカギとヘルメットを持って玄関で靴を履いた。
「行ってらっしゃい…兄ちゃん。」
僕がそう言うと、兄ちゃんはいつもの様に僕の頭をポンポン叩いて、玄関を出て行った…
ガララ…パシャン…!
「…惺山!」
すぐに着替えると、髪を綺麗にとかして、歯磨きをして、仏壇に置いたミサンガを手に持った。
そして完熟のトマトを冷蔵庫から出すと、片付けもしないで家を飛び出る。
まだ朝露の残る早朝…6:00
全力で走って、彼の居る…あの家へ向かう…
「惺山…惺山…!」
高鳴る胸を抑えながら走って向かうと、息を切らして立ち止まった。
「はぁはぁ…惺山…」
呼吸を整える様に一度、深く、深呼吸する。
そして、胸の動悸を落ち着かせると、開いた縁側から…家の中を覗く様に体を屈めて、そろりそろりと…近づいて行く。
「コッコッコッコッコ…」
パリスが僕を見つけて駆け寄って来ると、居間から声を掛けられて…足を止める。
「豪ちゃん…おはよう。」
あぁ…
「…うん。おはよう…」
寝起きの彼は、ボサボサ頭のまま…卵かけご飯を食べていた…
…あぁ、好き…!
顔が一気に熱くなると、僕は手に持ったトマトを差し出して言った。
「これ…美味しいよ?」
そんな僕の差し出したトマトを見つめると、彼はにっこり笑って…僕を見つめて言った。
「うん…切って来て?」
…もう…、大好き…!
「…良いよ。」
満面の笑顔でそう言うと、縁側から彼の座る居間に上がって…抱き付いてしまいたいのを我慢しながら台所へ行った。
あぁ…触りたいな…
ギュって…甘えられたら良いのに…
…そんな事、恥ずかしくて…上手に出来ない。
「はぁ…」
ため息を吐いてトマトを切ると、お皿に乗せて彼の隣に座った。
「はい…食べて?」
そう言って一つ指で摘まむと、惺山の口に運んで言った。
「あ~ん…」
「あ~ん…」
あぁ…大大好き…!
「美味しい?」
「甘い…」
大大大好き…!
「裏の畑のおじちゃんがくれたんだ…。美味しいから、兄ちゃんが惺山に持って行ってあげなって言ったの…」
もじもじしながらそう言うと、彼は僕の頬を撫でて優しい瞳を向けて言った。
「兄貴が…?」
あぁ…ううん…ええと…
彼の優しい瞳を見つめると、つい…吐いてしまった噓が、とんでもなく下らない事のように思えて、口を尖らせながら…顔を熱くして言った。
「…ううん、僕が…食べさせてあげたくて…持って来たの…」
「ふふ…嬉しいよ。ありがとう。豪ちゃん…」
そう言って彼が僕の頬に頬ずりするから…まるで、本当の事を話した事を褒めてもらっている様な気になって…堪らなくなって、抱きしめた。
「惺山…惺山、会いたかった…!良かった…、また会えて、良かったぁ…!」
彼は僕の背中を撫でると、何も言わずに優しく抱きしめてくれた…
このまま…彼の中に消えてしまいたいよ。
彼と、ひとつになって…消えてしまいたいんだ。
「…こんなに食べられない。」
トマトを半分食べると、惺山がそう言った。
「置いといて…」
彼の胸に頬を付けて甘えて、ドロドロと溶けて動けなくなった体をそのままにすると、力なくそう言った…
「どしたの…?」
そう言って僕の髪を撫でると、顔を覗き込む様に体を丸めてくるから、彼を見つめて…零れてくる涙をそのままにして、キスをした。
止まらないんだ…彼を好きな気持ちが、止められない。
「惺山…大好き…」
くったりと彼の肩に頬を置くと、両手で抱きしめて、彼の体に覆い被さる様にもたれかかる。
否が応でも目に映る…彼の周りを纏わりつくモヤモヤを、一番の鋭い眼光で睨みつけると…そっと、瞳を閉じて彼を抱きしめる。
…お母さん、この人を…助けて…
「豪ちゃん…甘えんぼの時は…この部屋で、こっちでしなさいよ…」
彼はそう言うと、抱き付いた僕をお腹の上に乗せたまま…居間から寝室まで蜘蛛の様に手足を動かして移動した。
「あっはっはっは!何それ…すっごい!」
ケラケラ笑ってそう言うと、彼は寝室の引き戸を閉めながら僕にキスをして言った。
「…見られたくないだろう?知られたくないだろう?だったら、こんなに甘えん坊の時は…この部屋の中に居なさい…」
そう言うと、彼は大きくて優しい手で…僕の背中を撫でて抱きしめた。
「うん…」
しがみ付いた両手に力を込めると、目の前でモヤモヤが揺れるのを眺めて涙を落とす。
きっと…惺山も、助ける事なんて出来ない…
そして…彼も、そう思ってるんだ…
だって、分かるんだ。
あなたの体から伝わって来る…慈しむ様な愛を、僕は感じて…全身に受けているから。
まるで、悲しまないで…って、そんな風に言っている様に、感じるんだ。
あなたの瞳も、声も、僕を触る指の先まで…そう言っている様に、感じるんだ。
嫌だよ…
絶対に嫌だよ…惺山。
…絶対に、死なせたりしない…
「惺山…これ、あげる…僕が作ったの…」
ポケットの中をごそごそとすると、手の中にミサンガをしまい込んで、首を傾げて僕を見つめる彼に言った。
「目をつむってて?」
「どうして…?」
「良いから…」
そう言って彼の目を片手で覆うと、瞑った瞼に、堪らずキスして抱きしめる。
大好き…この人が大好き…
「早く頂戴よ…」
目を瞑ったままそんな事を言って体を揺らす、彼が大好き…
「ん、もう…」
座り直してそう言うと、僕は手の中からミサンガを取り出して、彼の右足に巻いた。
「手に付けて…」
そう言った彼の声に顔を上げると、彼は目を開いて右手の手首を差し出して言った。
「ここに付けて…?」
「…うん。」
熱くなる顔をそのままに…ドキドキしながら彼の手首にミサンガを巻くと、瞳を閉じて願いを込める。
…惺山が死なない様にして下さい…その為だったら、僕は、何でもする…
彼の手首に縛って巻いて止めると、彼はそれを指先で撫でて瞳を細めて言った。
「とっても上手だ…鍵盤だ…!」
「うん…清ちゃんのお母さんがハンドメイドでお店をしてるんだ。だから、作り方を教えて貰ったの…。僕は器用だから、上手だって褒められたんだ。」
クスクス笑ってそう言うと、彼は僕の唇にキスして言った。
「大事にする。ありがとう…」
あぁ…愛してる…
僕の惺山を、僕から奪わないで…
この人を殺さないで…
堪らず抱き付くと、彼の匂いを胸に入れる様に深呼吸して、彼の肌触りを感じる様に頬ずりして、彼の温かさを自分に伝える様に…ベッタリと体を付けた。
このまま…溶けてしまいたい。
「…惺山?バイオリン弾ける?」
大好きな彼の襟足を撫でると指に髪を絡めながら、そう聞いた…
不思議と、こうすると気持ちが落ち着くんだ…理由なんて無い。強いて言えば…クルンと跳ね返ってくる、髪の毛を指先に感じるのが…心地良いから。
「うん…」
僕の頭を撫でながら…彼があっけらかんと、そう言った。
「え…?本当?」
顔を上げてポカンとすると、惺山は僕の顔を見てクスクス笑って言った。
「小さい頃から習わされたからね…ある程度は、弾ける…」
…なんだ。
凄いな…
下手くそに弾いたら、がっかりさせてしまいそうだ…
「コツは…?」
彼の胸を撫でてそう聞くと、低い唸り声をあげた彼が言った。
「ん~…そうだな…上手に弾こうと思わない事。ため息を吐く様に、弾く事。」
「なぁんだ、そんなの…!」
ふざけてるのかと思ったんだ…
だから、そう言って彼の顔を覗き込んで、怒ろうと思った。
…でも、彼はとっても真剣な顔でそう言っていた。
だから、僕は…彼の頬を撫でて言った。
「…ふぅん…そうなんだ…」
「そうだよ…?楽にして…まるで話す様に弾けばいい…」
きっと、それは…既に上手な人が貰ったら嬉しいアドバイス…
僕の様に…初心者中の初心者が、ピンとくるような物じゃない。
「どして?バイオリン…習うの?」
彼がそう言って…僕の髪を撫でながら顔を覗き込んでくるから、僕はとぼけた顔をして言った。
「…僕は、そんなの…出来ないもん!」
「出来なくなくない…お前は良い感性をしてる。良い耳を持ってる。音楽はね…譜面が読めれば良いって訳じゃない。イメージを膨らませる想像力が大切なんだよ?この曲は…どういう曲か、そんな事を想像しながら演奏するんだ。だから、十人十色のメロディになる…。だから、面白いんだ。」
あぁ…
うっとりと彼を見つめると、コクリと頷いて彼の胸に頬を預けて甘えて言った。
「音楽の話をしている時の…惺山が、とっても好き…。もっと、教えて…?もっと、僕に話して…?」
両手で彼を抱きしめて、僕の大事な人がどこへも行かない様にすると、彼の声がする度に胸が振動するのを感じながら思った…
バイオリンの…弦と同じ…。震えて音を鳴らしてる…
「ふふ…」
口元を緩めて笑うと、不思議がる彼を無視して、音楽の話を催促した。
「早く…話して?例えば…“愛の挨拶”は…どんなイメージで弾いているの?」
僕がそう言うと、彼はクスクス笑いながら言った。
「教えない…」
「ふふ…ケチ。」
彼の胸を叩いてそう言うと、惺山は僕のおでこにキスをして言った。
「ケチじゃない…人それぞれ違うんだ。それこそ…主観が混じるだろ?」
…なるほど。
「一理ある…」
納得してそう言うと、叩いてしまった彼の胸を、謝る様に優しく撫でる。そんな僕をクスクス笑いながら見つめると、彼は両腕で僕を抱きしめてくれる…
あぁ…
僕の髪を撫でる彼の手のひらが好き…
僕の体を抱きしめる彼の腕が好き…
僕の体を受け止めてくれる彼の体が好き…
僕の全てを包み込んでくれる、彼が好き。
もう…このまま、溶けてしまいたい。
「豪ちゃ~~ん!」
突然、外から大ちゃんの声がして、慌てて惺山から離れると、惚けた顔をして途方に暮れる。
「あ…大ちゃんだ…。耳年増のスケベで、こんな所からふたりで出たら…なんて言われるか分からない…どうしよう…どうしよう…」
動揺しながら早口でそう言うと、目の前の彼は僕の様子を見て、ケラケラ笑って言った、
「…しばらく、ここに居て?合図をしたら出て、おいで?」
合図…?
彼はそう言うと、僕から離れて、立ち上がって…寝室の扉を開きながら言った。
「どしたの…?」
そんな彼の言葉に、大ちゃんはケラケラ笑うと大声で言った。
「オナニーしてただろ!そんな仏みたいな顔して…!絶対、おじちゃん、オナニーしてただろっ!」
…あぁ、大ちゃんって…最低だな…
畳をほじくりながら、友達のセクハラ発言に眉を顰めると、壁をノックする音に顔を上げた…
合図だ…
そろりそろりと寝室を出ると、ピアノの部屋がある…縁側の真裏から大ちゃんの大きな声が聴こえた。
「だから、僕は健ちゃんに言ったんだ。それじゃあテンガだって!」
「…!どこでそんな事を?!」
動揺しながらも大ちゃんの猥談の相手をする惺山に口元を緩めて笑うと、トマトのお皿を手に取ってラップをかけて、冷蔵庫にしまった。
「せいざ~~ん!」
そして、縁側の前で…わざとそんな大声を出すと、こちらに歩いて来る彼に、思い切り抱き付いて言った。
「惺山!」
「あ~はは…やっぱり、カレカノ感出してるね…?ふふ…」
満足げにそう言う大ちゃんを見ると、きょとんと顔を装って首を傾げて言った。
「カレカノ感…って何?」
「それは、彼氏と彼女の感じって事だよ?豪ちゃんは…ほんっとに、初心だなぁ~!」
初心…?
満足げな顔をした大ちゃんを見つめながら首を傾げると、頬に感じる惺山の温もりに胸をときめかせて、彼の体にもたれかかった…
はぁ…大好き…
「豪ちゃん!やっぱり、ここに居た!“音楽祭”の準備を手伝えって…父ちゃんが言うんだ。小林先生が手回しして…親を味方に付けた!」
いつの間にかやって来たてっちゃんはそう言うと、惺山にぺこりと挨拶をして、大ちゃんを見て言った。
「大ちゃんもだよ?晋作も清ちゃんも、みんな頭数に入れられてる。もちろん、豪ちゃんもね…。“音楽祭”に町の本校の…吹奏楽部が来て、弦楽部も来るんだって…」
え…
弦楽部…?
弦…
目の前の彼の腕を掴むと、僕を見下ろす彼に聞いた…
「惺山…弦楽部って何?」
「ん~…バイオリンとか、チェロ…ビオラ、コントラバス…弦の付いてる楽器を主に演奏する部活さ…吹奏楽部も居るんだったら、オーケストラが出来る。ふふ…凄いじゃないか…」
楽しそうに笑う惺山を見つめると、不安な気持ちがむくむくと沸き起こって、口尖らせて怒って言った。
「去年の“音楽祭”は楽しい音楽鑑賞で終わったじゃん!どうして、今年はそんなに大規模にしたの?ここの子供たちだけで良いのに…!どうして町の子たちまで来るの!やぁだぁ!!」
そう言って地団太を踏んで怒ると、てっちゃんがため息を吐きながら言った。
「本校の生徒を迎えるのに、焼き魚だけじゃあ失礼だからって…校長まで張り切って、出店を出すみたいだよ?俺の母ちゃんは焼きそばを作るって…張り切ってた…。」
…てっちゃんのお母さんの…焼きそば?
それはとっても、嬉しい…
でも…
町の本校の子が来たら…
楽器の上手な子が来たら…
僕の…下手くそなバイオリンが…笑われるかもしれない。
「豪ちゃん、生の演奏を聴く…良い機会だよ?部活動とはいえ…弦楽部と、吹奏楽部が別れているなんて…本格的じゃないか。しかも、焼き魚以外の食べ物も出るなんて…」
「んん~~~!いやぁだぁ!」
宥める様にそう言った惺山の胸を叩くと、地団太を踏んで怒って言った。
「阻止してぇ!てっちゃん!この、暴挙を、許してはならない!!絶対、阻止してぇ!」
「豪ちゃんは…分かってないな…」
え…?
そう言って両手を胸の前に組むと、いつの間にか現れた晋ちゃんはしみじみと眉を下げながら話し始めた。
「本校の…吹奏楽部…弦楽部…。この、言葉から…君は何を連想したんだいって話ですよ?」
さもありなんに晋ちゃんがそう言うと、大ちゃんと、いつの間にか現れた清ちゃんが、顔を見合わせてニヤニヤし始めて、てっちゃんがため息を吐いて言った。
「…金持ちの、お嬢様が来る。」
「はっは~!そうだよ!そこだよっ!逆玉を狙えるチャンスだよっ?!」
晋ちゃんはそう言ってケラケラ笑うと、妙に格好をつけてTシャツの裾を直して言った。
「あっぶねえだろ!ちっ!これだからお嬢様は…」
「こっち来いよ…!これだから、箱入り娘は…」
「ちょ、まてよ!…なんて、ワイルドな俺たちを売り込んで…ワンチャン、恋が始まるかもしれない…そんなビッグイベントになりうる可能性を秘めてるんだ!」
期待し過ぎな晋ちゃんに当てられたのか…興奮した大ちゃんが、手をヒラヒラさせて言った。
「スカートの中って…パンツかなぁ?」
「きっと、いちごのパンツだよ…」
清ちゃんはそう言うと、鼻の下を伸ばして言った。
「うちの父ちゃん…わた飴屋やるって言ってた。タダで配ったら…仲良くなれるかもしれない…!」
「あ~~!ずるい~!」
「…ふぅん。」
僕だけ…不満なんだ…
…項垂れる頭を一生懸命に起こすと、楽しそうに笑うみんなを見て、ひとり口を尖らせる。
僕が“町の本校…吹奏楽部、弦楽部”から連想した事と…みんなの連想した事が、まったく違うんだもん…
「きっと…楽しいよ?音楽は選り好みしない方が良い…。ね?」
僕の背中をポンポンと叩くと、惺山が、そう言った…
彼は僕が、バイオリンを練習してるなんて…知らないから、そんな事を言うんだ。
「…うん。」
俯いてそう言うと、てっちゃんが眉を下げながら僕を見つめて言った。
「…豪ちゃん、バイオリンを弾くの?」
…え?
「俺も誘われたけど、断ったんだ。そしたら、先生がギラギラした目で言ったんだ。豪ちゃんはやるって言ったのに!って…あぁ、マジで怖かった…」
…え?
てっちゃんの言葉を聞くと、晋ちゃんが身を乗り出して言った。
「え~、うちにも来た。チェロを弾けって…でも、父ちゃんが丁寧に断ってた。」
「あぁ、僕の家にも来た。清ちゃんの所には?」
「来たさ、でも…母ちゃんが追っ払ってた…」
…え?
次々と、友達たちがあの小林先生に誘われても、断ったという事実を知ると、急に自分だけ窮地に立たされた気がして、目の間にぶら下がる惺山の手を握った。
そして、残念そうに眉を下げて、僕を見つめるみんなを見て…怒って言った。
「どうして、豪ちゃんだけなの?!誘われたなら、みんなもやってよ!」
「やなこった!楽器なんてやらないし、年増に付き纏われたくないもん、な?」
晋ちゃんがそう言うと、みんながケラケラ笑って言った。
「ははは!豪ちゃんは、断り損ねたんだ!健ちゃんが人質じゃあ…断れないか!あ~はっはっは!」
盛大に大笑いされると、隣の惺山を見上げて…目を点にしながら僕を見下ろす彼に言った。
「…豪ちゃん、お、音楽祭で…バイオリンを弾くの…」
「…ほんと?」
「…うん。」
…しかも、“愛の挨拶”が弾きたいなんて…言った。
あぁ…僕はやっちゃったかもしれない…
「ふふっ!凄いじゃないか~~!偉いぞ!豪ちゃん!」
意外にも…
惺山はそう言って目いっぱい微笑むと、僕を持ち上げて…くるくる回してくれた。
信じられないって…呆れられるかと思ったのに、彼はそれはそれは喜んでくれた。
…だったら、良い…
彼が喜んでくれるのなら…たとえ…笑われても、良い。
「ふふっ!わぁ~い!」
そう言って両手を彼に伸ばすと、ギュっと抱きしめて彼にしがみ付く。
あぁ…大好き…!
この人が大好き…!
僕の予想を裏切って…いつも、僕を褒めてくれるんだ。
彼だけ…僕を否定しない…。
いつも、いつも…!
「じゃあ…持っておいで!バイオリンを練習しなくちゃ…」
満面の笑顔になった彼がそう言うから…僕は同じ様に満面の笑顔になって言った。
「うん!」
そして、“音楽祭”の準備を手伝うみんなと別れると、僕は自分の家に戻って、バイオリンを手に取って…彼の元に走って戻る。
「やった…やった…!」
まだ何も弾けもしないのに…僕の心はすっかり浮足立って…浮かれて…浮ついて…
やった…やった…なんて、不気味な独り言を言って…ニヤニヤしっぱなしの顔で、彼の元へ走って戻るんだ。
ピアノの部屋…
椅子に腰かけてニヤニヤする惺山を見下ろして、バイオリンを首に挟んだ。
「ふふ…様になってる…」
そう言って彼が笑うから、僕は顔を赤くして俯いて言った。
「…昨日…先生が教えてくれた…。大事にしろって、教えてくれた…」
「…うん、弾いてごらん?」
首を傾げて彼がそう言うから、僕は、右手の弓の馬の毛で、バイオリンの弦を撫でて弾いてみる。
「あぁ…!ふふっ!良いね…綺麗な音色だ…!」
どうしたのかな…
惺山がとっても、嬉しそうなんだ…
ずっと、楽しそうに…笑ってる。
そんな彼の笑顔を見つめると…自然と僕まで、ニヤついて来てしまうんだ。
「”愛の挨拶”を弾きたいって…言っちゃったの…」
ピアノに座る彼にそう言うと、困った様に眉を下げて、口元を緩めて笑った。
そして、おもむろに僕の後ろに来ると、体をピッタリと背中にくっ付けて…バイオリンの弦に左手を伸ばして、右手で僕の手首をつかんだ…
「力を抜いててね…?」
耳元でそう言った彼の声に胸を高鳴らせると、コクリと頷いて、息を飲んで答えた。
彼の指がバイオリンの弦を押さえると、僕の右手に持った弓を彼が動かして…目の前で…バイオリンが美しい音色を出して”愛の挨拶“を奏でて行く…
「あぁ…」
あまりの感動と、あまりの美しさに体中が震えると…身動きも出来ない僕は、両目から涙をボロボロと落として泣いた…
「綺麗…とっても、綺麗だね…」
彼を見上げてそう言うと、惺山は瞳を細めて僕のおでこにキスをしながら、バイオリンを弾き続ける…
あぁ…なんて凄いんだろう…
彼しか…勝たん…なんて、言ってしまいたくなる程に…彼は完ぺきだった。
そして、演奏が終わると…ボロボロと溢れてくる涙を何度も拭いながら、バイオリンを壊さない様に大事に抱えて持った。
「うっうう…う…うう…うわぁん…!」
「どうして泣くんだよ…」
困った様に眉を下げて彼がそう言うから、僕は溢れる涙を何度も拭って、顔を上げた。
だって…とっても素敵だったんだ。彼が弦を押さえる指先も…弓の角度を変えたり…押し込んだりする様な、繊細な右手の動きも…
全てが素敵で…自然と涙が溢れてしまったんだ。
…背中に感じた彼の温かさが僕の体を溶かして…バイオリンの音色が体を透過していく様な…そんな、体が無くなった様な感覚を味わった。
それはまるで…彼の体に入ってしまった様な感覚…
それが、嬉しかったんだ。
ひとつになれたみたいで…嬉しかった。
だから…涙が、溢れたんだ。
「さっきの指を置いた場所を…書いてあげる。それを覚えて…。後は、弓の練習をみっちりしようか…?繊細な動きが必要なんだよ。バイオリンはね、こっちの方が難しいかもしれない。」
「…うん。ありがとう…惺山…」
ボロボロと涙を落としながらそう言うと、彼が何も書いていない楽譜を横にして、黒い丸を書いて行くのを…彼の背中に抱き付いて眺める。
大好き…
大好き…
この人の、すべてが大好き…
「この…右側の線は無視して…この線が…この弦だよ?」
「うん…」
「じゃあ…これは、自主練習…。今は、弓の使い方を教えてあげる。」
付きっきりで教えてくれる彼に惚けた瞳を向けると、姿勢をぴんと伸ばして、弓の動かし方を練習する。
「こうすると…こんな音が出るね?じゃあ…こうすると、どんな音が出るのか…確かめてごらん?」
楽しそうに瞳を細めると、惺山は僕の手を掴んで弦を引いた…
…このまま、彼とひとつになりたい…
右手の手首で揺れる…僕が作ったミサンガを見つめながら、彼の右手が伝えてくる加減を自分の手に覚えさせて…同じ様に弾いてみる。
「うん…良いセンスだ。豪ちゃんが今、15歳…。これから練習を始めたって…全然いける。それ位…良い音を出すんだ…。ふふ、一緒に弾けるなんて…嬉しい。」
そう言った彼の言葉に全身を貫かれると、右手が震えるのを堪えながら弦を引いた。
…僕も、そう思ってたんだよ?
惺山…あなたと演奏が出来るなんて…嬉しいって、思ったんだ。
だから、こんな…弾けない物を必死に練習してる…
あなたの隣に立って…あなたのピアノと一緒に演奏したいから…必死に覚えようとしてるんだ…
「ふふ…ビブラートしてるみたいだね…」
クスクス笑ってそう言う彼を見つめると、愛を伝える様に…開放弦を弾き続ける。
押して…引いて…を繰り返して、自分の右手に覚えた彼の力加減を意識しながら、バイオリンの弦に馬の毛を均等に当てて…音を鳴らし続ける。
「指を置いてみてごらん…」
そう言う彼を見つめて頷くと、彼が書いてくれた…”指を置く場所を書いた紙“を確認しながら、弦を押さえてみる。
そして、ものの見事に…要らない弦まで押さえて、要らない弦を弓で弾いて…こんがらがって、パニックを起こす。
「あぁ…めちゃくちゃ…」
「ふふ…大丈夫…指を押さえる練習だよ?違う音が鳴っても、止まらないで…」
僕の頭を撫でてそう言うと、彼は僕の目の前に左手の指を立てて見せた。
「こうして、指を起こして弦を押さえてごらん?」
見よう見まねで、彼の指先の様に指を立ててみる。
「つ…つりそう…!」
一気に左手が引き攣ってバイオリンが落ちそうになると、慌てて右手で抱え込んで抱き止めた。
…あ、危ない…!
落としちゃう所だった…!!
「おぉ…っと、こういう時は、首で…グッと挟んじゃえば良いんだよ?どれ…今日は、もう…お終いにしようか…?」
惺山はそう言うと、僕の胸の中からバイオリンを取り出して、小林先生に触っちゃいけないって言われた駒を、トントンと直して言った。
「弦が張ってあるここはとっても繊細だから、さっきみたいにギュって抱きしめちゃダメ。豪ちゃんが抱きしめるのは…俺だけだよ?」
あぁ…
「…うん。」
そう小さく頷くと、右手に握った弓をダラリと下ろして、俯いて顔を歪めた。
バイオリンを…落としそうになった…
それがとっても、嫌だった…
…まるで、守るって言った癖に、簡単に諦める自分を見せつけられたみたいだ…。
口ほどにも無い…大ぼら吹き…
「落ち込むなよ…大丈夫。落とさなかったんだから…」
僕の頭を優しく撫でると、彼は僕の俯いた顔を下から覗き込んでほほ笑んだ。
そんな彼から視線を外すと、口を尖らせて頬を膨らませながら…いじけて言った。
「違うの…難しいの…」
嘘じゃない…
やる前は…何とかなる!なんて、漠然と思っていたのに、それは予想以上に難しくて、難解で、前途多難なんて言葉がしっくり来るほど、軽く見ていた事を…激しく後悔する。
大体…どうしてこんな形にしたんだ…
左の手首は不自然に曲がるし、肩は痛くなるし、指だってあんな風に動かない。
首に挟む行為だって…意味なんて無いじゃないか…!
いっそのこと、床に置いて演奏すれば良いのに…!!
あぁ…それは…琴か。
上手に出来ないイライラと…バイオリンを落としそうになったショックを心の中で暴言を吐いてやり過ごすと、肩を落として…右手に持った弓を揺らす。
…こんなんじゃ、上手くなれる訳ない…
「はぁ…」
ため息を吐いて惺山の隣に座って呆けると、彼がクスクス笑って僕の髪にキスするのをぼんやりと受け取った。
「初めは誰だってそう…。俺だって、初めからピアノが弾けた訳じゃない。みんな初めは試行錯誤したり、悩んだり、嫌になったり…同じさ。だから、落ち込む必要なんてないんだ…。良い音色を出す。それだけで…十分なんだ。」
彼はそう言うと、隣に座った僕の体をトントンと体で小突いて、ピアノを弾き始めた。
あぁ…綺麗だ…
…名前の分からない素敵な曲に耳を澄ませて瞳を閉じると、体中を綺麗な音色でいっぱいに満たしていく…
まるで…充電してるみたい。
残量がゼロになった僕に、彼が素敵な音を充電してくれているみたい…
「ねえ…豪ちゃん、俺の襟足が好きなのは…親父に似てるからじゃないだろ…?」
「…うん。」
お父さんは僕を抱っこなんて、してくれなかった。
水に沈めても、抱き上げてはくれなかった…
返事をしたっきり黙りこくる僕に、彼は優しく撫でる様な声で言った。
「どうして、嘘を吐いちゃうの…?」
それは…
それは…
「…本当の事を言っても、良い事は無いって思ってるから…」
彼の体にもたれかかってそう言うと、惺山は僕の体に寄り添って…頬ずりしながら言った。
「俺にだけは…本当の事だけ言って良いんだ。」
うん…
うん……
そうだね…
そうだね。
「うん…」
涙を流してそう言うと、彼の腕に顔を擦り付けて甘える。
このまま…彼とひとつになって…一緒に死んでしまいたい。
大好きになった人が僕を拒絶しないで、認めて、包み込んで、愛してくれる…
もう…離れられないよ…
僕を腕に付けたまま…動き辛い筈なのに、彼は上手にピアノを弾いて聴かせてくれる。
それは…とても華やかで、軽快…
「惺山…その曲は、なんて名前なの…?」
「これは…“華麗なる大円舞曲”…ショパンのワルツだよ…」
…ショパン、ワルツ…“華麗なる大円舞曲”…
豪華で、舞踏会の様な…煌びやかな曲…途中、何故か船着き場をイメージしてしまうのは…きっと、僕の幼稚な感性のせい…
「ベネチアの船着き場が目の前に浮かぶ…!」
行った事も無いのにそう言うと、彼はギョッとした顔をして苦笑いをした。
「…そう。」
きっと、引いたんだ。
そんな声の色をしていた…
でも…どうしても、ベネチアの船着き場が頭の中に浮かんで…長い棒を大きく動かした船頭が見えてくるんだ。
「ほらぁ…まただ!」
そう言って彼の腕に顔を擦り付けると、引きつり笑いする彼を見て口元を緩ませた。
「…じゃあ、ここは…?」
そう言った彼の声に笑顔になると、僕は迷うことなく言った。
「大きな綺麗な所で…100人以上の人が一糸乱れぬ大円舞を繰り広げている。それは…まるで、お芝居みたいな光景…」
「はは…凄いな…」
そんな彼の苦笑いの声を聴きながら、目の前を流れて行くイメージを瞳を細めて眺める。だって、どの光景も…美しくて、綺麗なんだ。
「ねえ…惺山の名前は、素敵なんだよ?」
彼の腕に頬ずりしてそう言うと、僕の顔を覗き込みながら口を尖らせて、彼が言った。
「森山惺山…山が2つも名前に付いてるって、小学校の頃、笑われた!」
「違う!そんなバカみたいなからかいなんて気にしちゃダメ。…あぁ、そっか…苗字も入れると、不思議な事が起こる…見て…?」
そう言って彼の何も書いていない楽譜の隅に”森山惺山“と名前を書いてみせると、隣に絵を描きながら言った。
「麓に森が広がった…山と山の間に…小さな星が、沢山きらめいてる。」
僕がそう言うと、彼は僕の絵を見つめて、瞳を細めて優しく微笑んだ…
「ふふっ!…あぁ、本当だね…」
「そんな美しい情景が…あなたなんだ。」
うっとりしながらそう言うと、惺山は瞳を潤ませて僕にキスをくれた。
「豪は素敵な子…」
そんな、素敵な言葉も一緒に…くれた。
あぁ…
天使…素敵な子…
彼は、本当に…僕を良く褒めてくれる。
今まで一度も言われた事の無い…心地の良い、胸の奥がくすぐられる様な言葉で、僕を彩ってくれる。
そして、僕は、すっかり彼に甘えて…もっと、言って欲しいなんて…欲を出すんだ。
その欲が…バイオリンなんて、厄介な物に手を出させた…
はぁ…
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