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#14_01
「豪ちゃんってバイオリン上手だな?俺も弾けるかな?」
晋作はそう言うと、豪ちゃんの顔を覗き込みながらバイオリンに手を伸ばした。
「ん、だぁめ…!こっちはだめ…あっちなら触っても良いけど…壊したら小林先生に晋ちゃんが謝ってね?」
晋作から逃げる様に体を翻してそう言うと、あの子は俺のバイオリンを両手で撫でながら言った。
「惺山の…嬉しい。」
はぁぁぁぁあああん!!
それは効果音を付けるとしたら、ズキュン!…だ。
「…そこまで弾けるようになったんなら、”愛の挨拶“はクリアした様なもんだ…」
驚いた気持ちをひた隠しにして冷静にそう言うと、俺のバイオリンをナデナデし続ける豪ちゃんを横目に見て…心の中で驚愕する。
この上達ぶりは、正直、怖いくらいだ。
好きこそ物の上手なれ…なんて言うけど、この子はバイオリンが好きな訳じゃない…俺の事が好きで…俺に見せたくて、上手になってる…
だから、あまりオーバーに驚いたり、プレッシャーをかける様な事を言いたくないんだ。この子の上向いてるやる気を、余計な事で削ぎたくない。
はぁ…しかし、驚異的だ。ぶったまげた。腰を抜かす…
ヘロヘロになって縁側に腰かけると、いつもの様にニコニコの笑顔を向けながら、俺の隣に座った豪ちゃんが言った。
「惺山のバイオリン…大好き…大好き…!」
大好きな俺のバイオリンを貰って、弾いて…あんなに上手に弾ける様になったとしたら、それはもう、感性で上達していると言っても過言ではないよ。
この子は…もしかしたら、とんでもなく凄い奏者になるかもしれない…
ただ…進み方を少しでも間違えたら、この子の芽は簡単につぶれる。そんなギャンブルの様にハイリスク、ハイリターンな危うさも持っている…
「そう…気に入ってくれて良かったよ…」
そう言ってあの子の髪を撫でると、うるんだ瞳を向けるあの子の視線から逃げる様に、居間に上がって作曲作業を再開した。
駄目だ…あんな瞳で見つめてたら…押し倒しちゃう…
あの子の音色にやられた俺は、自制心なんて信用出来ない物を頼りに、必死にあの子から離れた…
だって、クラクラして…このまま…甘い君の中に溶けてしまいたくなるんだ。
「あぁ…豪ちゃん、凄い…素敵だったぁ…」
そんな中、哲郎は豪ちゃんの顔を覗き込んで、うっとりと瞳を染めると首を傾げるあの子の頬を優しく撫でて言った。
「とっても…綺麗だったぁ…」
はん!
あいつは俺と同じ様に、豪ちゃんのバイオリンの音色に…骨抜きにされてる!俺と違うのは…あいつはあの子のほっぺを触れて、俺は触れないって事だけだ!
だらしない、甘ったるい声を吐く哲郎にムカムカすると、モニターを睨みつけながら、ギャング団よ、早く、どっかに行け!なんて…大人げなく苛ついて来た。
「てっちゃんも好き?豪ちゃんもね…好きなの…。なんだか、胸がポカポカして来て…嬉しいんだぁ…」
…な、何だと?!胸がポカポカだと?!
そんな言葉に目じりを下げた哲郎は、おもむろにあの子の胸を撫でて言った。
「ここ…?」
「あ…うん。そこぉ…」
…何を見せられているんだ。
「豪ちゃん!お茶、持って来て!」
良い雰囲気を作り始めた縁側のふたりに腹を立てて、いてもたっても居られなくなった俺は、モニターを見つめたまま、元気な声で豪ちゃんにお茶を催促した。
「何だよっ!おっさん、自分で持って来いよっ!」
うるさい!哲郎!お前はひとりで、違う所でもポカポカさせておけば良いんだぁ!
「良いの。惺山は、良いの!」
豪ちゃんは満面の笑顔でそう言うと、バイオリンを大事にケースにしまって、慌てて台所へ向かった。
「ちっ!なんだよっ!おっさん!自分の事くらい自分でしろよっ!なぁにが、んぁああ!豪ちゃぁん!お茶ぁ~!だよっ!」
良いんだ…
負け犬の哲郎の声なんて…俺はミュートに出来る。
涼しい顔をすると、縁側からやいのやいのとヤジを飛ばす哲郎を無視して、マウスを動かしながら作業をしている振りをしてやり過ごした。
「はい、惺山…お茶だよ?」
うぅ…うう…傍に居て…!もう、あの男の傍に行ったらダメだぁっ!
そんな幼心をひた隠しにしてそっけなく頷くと、俺の隣に座ってお茶を注ぐあの子の脇の下を眺めて、ガラ空きのタンクトップの袖口から垣間見える可愛い乳首に、ムラムラしてくる。
「ちょんちょん…ちょんちょん…」
「え…?」
怪訝な表情をして俺を見下ろすあの子に、いやらしい手つきをしながら、指を立ててぐるぐる回しながら言った。
「ちょんちょん…ちょんちょん…」
「…はっ!ちょっ!」
顔を真っ赤にして動揺する豪ちゃんを見つめながら、俺は縁側に背を向けて、あの子を見つめて言った。
「舐め舐めしたいお。」
「んんっ!はぁっ!ちょっ!だぁめぇ…」
言葉だけで興奮した豪ちゃんは、顔を真っ赤にして動揺すると、俺の隣にちょこんと座った。
きっと、この子はしばらく立てないだろう…
どうしてかって?
勃起したからだよ。
「豪ちゃ~ん!湖に行こうぜ~!」
「ん、んん…後で行く…!」
「後でイクの…?豪ちゃん…ふふ…」
モニターを見つめたまま、縁側の向こうに聴こえないくらいの小声でそう言うと、俺の体の陰で死角になったあの子の足をいやらしくナデナデした。
「ん…惺山…ダメぇ…」
「なぁにが…」
「豪ちゃん?大丈夫?顔が真っ赤だよっ?熱があるんじゃないの?」
哲郎はそう言うと、靴を脱いで縁側から入って来ようとした。
「てっちゃん!豪ちゃん!お腹痛いの我慢してたの!と、と、トイレに行ってくる!」
豪ちゃんはそう言うと、ドタドタとダッシュでトイレへ向かった…
「…大丈夫かな?」
首を傾げながらそう言う哲郎をモニターの反射で見つめて、口元を緩めて微笑むと、余裕の笑顔で言った。
「トイレから出たら、正露丸でも飲ませておくよ…。まあ…湖に、先に行っていたら良いさ…。哲郎氏。」
「哲郎氏…?」
怪訝な表情で俺の背中を見つめる彼を、不適の笑みを浮かべながらモニター越しに見つめた。
知ってるさ…下らないマウントを取ってるって…俺は幼稚なんだ。
15歳の、完璧な少年に嫉妬してる…30歳の幼稚なおやじだ。
「てっちゃん!早く行こう!豪ちゃんは後で来るんでしょ?先に行ってようよっ!」
大吉が縁側から身を乗り出して、呆然と立ち尽くす哲郎に言った。
…そうだ、哲郎。行くんだ、哲郎。
「…ちゃんと、薬をあげてよ…」
俺の背中に一言そう言うと、哲郎氏はすごすごと縁側から立ち去るのであった…
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