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#15

「女子高生が遊びに来てないかなぁ~~?」 そんな、どスケベな大吉の声が、どんどん遠ざかって消えて行った… すぐに体を起こして、あの子の消えたトイレへ向かった。 「豪ちゃぁん!豪ちゃぁん!ダメなんだぁ!哲郎とイチャ付いたらダメなんだぁ!」 ガチャリ… 目の前のトイレのドアが開くと、あの子はムスッと頬を膨らませて俺の胸を叩いて言った。 「なぁんで!あんな事したの!惺山は…!ばぁか!」 はは…こんなの、大好物だ! ギュッと抱きしめて大きなタンクトップの中に手を入れると、細くてしなやかなあの子の背中を手で撫でながら、自分の体に引き寄せて行く… 「豪ちゃん…バイオリンがとっても上手だったよ…?びっくりしちゃった…」 あの子の唇にキスしてそう言うと、舌を入れながらあの子の熱い吐息を口の中に入れて、誰にも渡したくないって…両手で抱きしめる。 あぁ…ダメだ…大好きだ… 小さな手で俺の髪を撫でると、襟足の毛を指の先に絡めて…くるんと離して…トロンとトロけた瞳で俺を見つめて来るんだ… 可愛いだろ… 「惺山…大好き…」 知ってるよ… お前が俺を大好きな事も…俺がお前を大好きな事も… 「俺も…豪ちゃんが大好き…」 そう言ってあの子を抱っこすると、有無を言わさずに寝室に連れて行く。 朝ご飯を手際よく作ってくれる君も… 嘘っぱちな天然の陽キャの君も… 根暗で陰キャで、哲学おたくの本当の君も… 俺の前だけで見せる…こんなにエッチで、堪らなくトロけた可愛い君も… 全部、大好き。 …そんな沢山の君の中に、もう一つの君が産まれたよ… それは、音楽を目で見て、楽器をいとも容易く使いこなす…感性の塊の君だ。 この要素は、特別俺を地面にひれ伏させて…畏敬の念を抱かせる。 好き…なんて言葉じゃ失礼に当たる… 「あぁ…豪ちゃん、どうしてあんなに上手に弾けるの…?」 あの子の体を布団に沈めてそう尋ねると、豪ちゃんは俺の髪を撫でながら言った。 「惺山の…バイオリンが…とっても好き…」 はは… それは…質問の答えじゃない… 「豪ちゃんは、惺山の物は何でも好きだね…?」 そう言ってあの子の首に舌を這わせてキスをすると、大きなタンクトップをめくり上げながらあの子の股間を自分の太ももで撫でてあげる。 「んん…!好きぃ…惺山の…物、全部好きなの…あなたが好き…あなたが大好き…!」 クラクラした瞳を揺らしながらそう言って、あの子はだらしなく開いた唇を俺に近付けて、唇にキスしながら言った。 「惺山が…大好き…」 あぁ…もう、堪らない…! 「豪…!愛してる…」 あの子の胸に顔を埋めると、ずっと触りたかった…あの子の可愛い乳首を見つめて指先で転がしながら言った。 「つんつん…ふふ、つんつん…」 体を仰け反らせて感じてるこの子は…さっきまで、素晴らしいバイオリンを…聴かせてくれていた子。そして、俺にお茶を注いでくれた屈託のない表情を見せていた子。 「可愛いね…」 舌で舐めて口の中に入れて、あの子の股間を撫でながら、気持ち良くて体を捩らせるあの子を体中に感じて一心不乱に溺れて行く。 いつ死んでも良いよ… こんなに満たされたんだ… いつ、死んでも良い… 「惺山…気持ち良いの…はぁはぁ…もっと、して…もっとして…」 あぁ…可愛いんだ。 この子は素直で…従順で、俺を愛してくれている。 そう…愛してくれている。 そして、その愛は…離れがたくなる程に、とても、心地良いんだ。 「惺山…大好き…大好き…惺山…」 甘くてトロける様なセックスの後、再びパソコンの前に胡坐をかいて腰かけると、俺の背中に抱き付きながらあの子がそう言った… 湖に行く気はないみたい… 「豪ちゃん…哲郎が心配するよ?」 背中のあの子にそう言うと、豪ちゃんはグスグス鼻を鳴らして言った。 「だってぇ…だってぇ…」 うん…俺から離れたくないんだよね… 目を離したく、無いんだよね… 俺も、離れたくないよ。 何も言わなくなったあの子を、背中に乗せたまま、パソコンの画面を見つめた… 後ろ髪に感じるあの子の指の動きに口を緩ませると、視線を落として、カチャカチャとキーボードを打ちながら編集作業を再開する。 …きっと、また…遠くを見てるんだ… 抜け殻の様になった空っぽの瞳で… トン…トン…トン…と俺の背中の上で手のひらで拍子を打つと、あの子はおもむろに歌を歌い始める…”大きな栗の木の下で…“ クスクス笑いながらあの子の歌声を聴いて、手元のキーボードで画面の中に拍数を入力していくと、俺の背中を何度も撫でながらあの子が言った。 「栗の木の下なんて嫌だな…毬栗が落ちて来るもん…。僕だったら…湖の前が良い…あの、シシリエンヌみたいに…真っ白な霧のかかった朝の湖で、あなたを思いながらあなたを待ちたい…」 画面を見つめたまま固まった… あのシシリエンヌ…?真っ白な霧のかかった朝の湖で…? 車の中で聴いた”藤森北斗“が演奏した”シシリエンヌ“には、そんな情景が…見えていたの…?それに、なんてロマンティックな事を言うんだろう…あなたを思いながら、あなたを待ちたい…だなんて。 「素敵な言葉だ…気に入った。」 そう言って両手を後ろに回して背中のあの子を撫でると、豪ちゃんはグスグス鼻を鳴らして言った。 「ん、だぁって…だってぇ!」 …なんだ、褒めたのに… 口を尖らせて眉を上げると、手元の楽譜を画面の中に入力していく。 「さあ…これで…全部、入力は終わった。後は調整をして…木原先生に送ってみるか…」 両手を伸ばして大きく伸びをしてそう言うと、俺の肩に顔を乗せたあの子が言った。 「その後は?」 …その後? そんな言葉に首を傾げると、その後…の事を考える。 付き合いのあった配信会社はそっぽを向いたし… 付き合いのあったコンマスも…そっぽを向いた。 …俺は孤独だ。 こんな状態で…作った曲を、どこに持って行けば良いのか… …お手上げだ。 「そうだな…考えてない!」 そう言って笑うと、重い腰を上げて背中に豪ちゃんを乗せたまま立ち上がった。 「あ~ははは!おんぶだぁ…!」 ケラケラ笑う俺の可愛い人がそう言いながらクッタリと背中に体を預けると、あの子のお尻をポンポンと叩いて言った。 「ほら、湖に行くぞ?」 「良いよ!」 そう言って俺の背中から飛び降りた豪ちゃんは、麦わら帽子を手に取ってポンと俺の頭に被せて言った。 「暑いから、ちゃんと被ってね?」 もう…ほんとに、この子は…俺の心配ばかりする。 「…はいはい、分かったよ。」 にっこりと微笑んであの子にそう言うと、豪ちゃんは嬉しそうに目じりを下げてほほ笑んだ。 今日も嫌になるくらい…天気が良い… でも、真夏の様なジメジメした空気が少しだけ…湿度を下げたのか、カラッとした心地よい天気だ。 「ふんふ~ん…ふふんふ~ん…」 そんな鼻歌を歌うご機嫌の豪ちゃんと、手を繋いで…正午になりたてのカンカン照りの太陽の下を歩いて進むと、三差路の道を左へ下りて行く… 「昔は裸足で歩いてたのに…最近は暑くて痛くて、サンダルを履いてる。」 そう言ってサンダルを見せるあの子の頭に、自分の麦わら帽子を被せると上からポンポン叩いて言った。 「被ってな?頭が痛くなっちゃうよ…」 俺がそう言うと、あの子は恥ずかしそうに顔を伏せて言った。 「うん…ありがとう…」 もう…豪ちゃん… 可愛いんだから… 「可愛い…豪、大好きだよ…」 瞳を細めてそう言うと、あの子のくれる言葉を聴いて、胸が苦しくなる。 「僕も…あなたが大好き…」 この子の、こんな表情も、こんな声も… この手も 繋ぐ事が出来なくなるなんて… それは、嫌だな… それは、嫌だ。 防風林を抜けて湖に出ると、穏やかな景色が目の前に広がった。 そんな美しい光景に、苦しくなった胸が少しだけ楽になると、あの子が笑顔で指さす湖面を見つめて、あの子の髪を撫でる風が立てる湖面のさざ波を見つめて、再び胸が苦しくなっていく… 「あ~~!やっと来た!」 そんな清助の元気な声が遠くで聞こえると、あの子を呼ぶ哲郎の声が聞こえた。 「豪ちゃ~~ん!」 上半身を露出した…地元のギャング団…4人組…この子を入れると、5人組。 日に焼けた端正な体つきの哲郎を遠目に見ながら、自分のありったけの胸筋に力を込めて、豪ちゃんを見下ろした。 「ん~!今、行く~!」 仲間に手を振りながらそう言ったあの子は、胸筋がムキムキになった俺を見上げて、にっこりと微笑んだ。 服の上からじゃ…分からないけど、全力で胸筋と腹筋に気合を入れて、あの子の微笑みに微笑み返すと、ふとあの子がハッとした顔をした。 …何だ…気付いちゃった?俺が実はムキムキだって… はは。ははは! 「あ…」 そう言って口元を緩ませて笑うと、あの子は俺を見つめて言った。 「聴こえる…あの…曲が聴こえるっ!」 は…? 満面の笑顔のあの子を見つめながら首を傾げて言った。 「何が聴こえるの…?」 「惺山の作ったポルカが、聴こえるの!」 そう言ってケラケラ笑うと、あの子は鼻歌であの歌を歌いながら、俺の手を引いてゆっくり走り始めた。 「ほらぁ!聴こえるでしょ?惺山!」 え…? そう言ったあの子に手を引かれて、一緒に水しぶきを上げながら波打ち際を走ると、どこからともなく…あの子の鼻歌に合わせて…ズンチャッチャ…と…ポルカのリズムが聴こえて来てくる。 「ほらぁ!聴こえてくるっ!」 俺の手を高く上げると、あの子はその下をくぐりながらスキップして走り抜けて行く。 「あぁ…本当だ…!」 目の前を通り過ぎたあの子の体から、まるで残像の様に音楽が聴こえて来て、魔法にでもかかったみたいに…耳の中にあのポルカが鮮明に聴こえ始めた。 「ははっ!なんだこれはっ!」 満面の笑顔になって豪ちゃんを見つめると、あの子は嬉しそうに笑いながら俺の周りをクルクルとスキップして回って言った。 「ポルカだ!」 そんなの知ってる… …なんだ、この感覚は…! 思い出した曲が頭の中を流れて行く様な感覚じゃない。 本当に聴こえて来るんだ…! まるでワイヤレスのイヤホンを付けている様に、鮮明に、鼓膜を揺らして… 聴こえて来るんだ… 「豪ちゃ~ん!何してるの~~?」 しびれを切らした哲郎がそう言って声を掛けると、あの子は麦わら帽子を片手で抑えながら、俺を見上げて笑って言った。 「惺山!ほらぁ!みんなを見てみて?もっと音が大きくなっていくよ?」 え…? 踏んで弾けた水しぶきが豪ちゃんの周りを煌めいて輝くと、キラキラと眩しすぎて、瞳を細めた。そんな俺の頬を両手で包み込んだあの子は、満面の笑顔のまま俺の顔を持ち上げて言った。 「見て!惺山!」 どうして…? どうしてなの…? 視線の先でこちらを見て笑う清助と晋作と、大吉と…ひとりだけふくれっ面の哲郎を見た瞬間… 耳に聴こえる音が、大きくなって来た… 「あぁ…本当だ…」 何だろう…この感覚は…まるで、魔法だ。 「はぁ~~!面白かったぁ!」 ギャング団のすぐ傍まで来ると、あの子は息を切らしながらケラケラ笑って言った。 「ね?惺山!」 そんなあの子を呆然と見つめて、駆け抜けた湖畔を振り返ると、俺は感じた事の無かった…初めての感覚に放心した。 凄かった… 感動なんて言葉じゃ足りない…美しかったんだ。 こんな光景をイメージしながら作った曲だったんだ… まるで…映画の中に入ったみたいに…情景と音楽が…一致した。 そんな、瞬間だった。 「遅いぞ!」 ムスッと頬を膨らませた屈強な体をした哲郎は、豪ちゃんの後ろに立つと、あの子の短パンを掴んで、あろうことか…一気にずり下ろした。 は…! 衝撃的な光景に一気に我に返ると、哲郎にタンクトップを無理やり脱がされるあの子を見て、惚けた瞳を覚醒させる。 「ん…自分で、出来る~!」 そう言って嫌がるあの子の服を全てはぎ取った哲郎は、裸同然の素肌にパンツいっちょのあの子を抱きかかえて、湖の奥にズンズン入って行った… 「あ~!やられる!」 大吉のその言葉に、清助がケラケラ笑って俺を見て言った。 「おっちゃん!見てて!」 そう言って清助が指さす豪ちゃんと哲郎を見ると、あの子が思いきり湖に放り投げられる光景を見て、不覚にもゲラゲラ笑った。 「だ~はっはっはっは!」 凄いな…さすがの俺でも、あの子を持ち上げて湖に放り投げるなんて…腕が死ぬ。 それを軽々と持ち上げて…遠くに投げるんだもん。 若いって…凄いな… 「んん~~!せいざぁ~~ん!!」 半泣きで俺に向かって逃げ出すあの子を再び捕まえると、哲郎はケラケラ笑いながら湖の奥へと連れて行く… あぁ…哲郎…お前はまた、やるのか… 「ん、やぁだぁ!てっちゃん、やぁだぁ!」 足をジタバタ動かして水しぶきを上げて嫌がるあの子に、ニヤニヤしたスケベな笑顔を向けると、立ち泳ぎをしながら哲郎が言った。 「やだじゃないよ。豪ちゃんがいつまで経っても来ないからいけないんだ!ほら、もう…足が付かないよ?どうするの?」 そんなあいつの言葉にムッと頬を膨らませた豪ちゃんは、後ろを振り返って哲郎の頭をバシバシ叩き始めた。 「ほら…また泣いちゃうから…そこら辺で止めておきなさいよ…」 波打ち際で哲郎に向ってそう言うと、あいつは両手を上げて、豪ちゃんを解放した。そして、間髪入れずに、犬かきで一生懸命泳ぎ始めたあの子の足を掴んで、ケラケラ笑いながら言った。 「あっはっは!進んでないよ?豪ちゃん…!」 …ドSだ。 間違いない。哲郎は…ドSだ。 「ん、やだぁ!離してぇん!てっちゃん!ん、やぁあ!」 あの子がそう言って暴れても、哲郎は手を放すどころか、豪ちゃんの両足を掴んでクルリと仰向けに体をひっくり返した。 「あぁ~!てっちゃんはやきもちを焼いて…はぁ…全く。」 大吉はそう言って俺の隣に来ると、首を横に振って、両手を上げながら肩をすくめて言った。 「豪ちゃんを怒らせるに…アイス1本。」 「乗った。」 「泣かせるは?」 そんな趣味の悪い賭けを始める晋作たちを無視して、溺れかけてるあの子を見つめて、心配になって、哲郎に言った。 「哲郎!いい加減にしろっ!溺れちゃうだろ!」 そんな俺の怒声に、仰向けになって暴れる豪ちゃんの腰を抱き寄せると、哲郎はあの子を抱きかかえながら俺を見て言った。 「ん~?これ位…大丈夫だよね?豪ちゃん?」 「んん~~!やだぁ!大っ嫌い!」 はぁ… 哲郎…お前は、ことごとく…引き際を間違えるんだ… 「ん、大っ嫌い!」 「なぁんだよ…」 湖から上がると、あの子は哲郎のシックスパックを殴りながら怒り始めた。 そんなあの子のへなちょこパンチを受けながら、嬉しそうに瞳を細める引き際の分からない…ドSの哲郎を見つめて、肩から力が抜けて行く… まったく…まるで、ガキだ…! あぁ… 哲郎は…ガキだった… 「こっちにウニがある!」 「どれどれ~~?」 ある訳ない。ここは湖だ…海じゃない。 清助と晋作の他愛のないやり取りを聞きながら、湖の浜に哲郎を埋め始める豪ちゃんを見つめる。あの子は、意地悪にほくそ笑みながらされるがままの哲郎に言い放った。 「満潮になって、沈んだら良いんだ!」 満潮にはならない。ここは湖だ…海じゃない。 いきり立った豪ちゃんが哲郎に砂をかけて埋め始めると、哲郎は楽しそうに笑いながら手を上げて豪ちゃんの埋めた砂を落として行く… 「ん、もう!動いちゃダメぇ!」 しびれを切らせた気の荒い豪ちゃんは、そう言うと、哲郎の体の上に跨って座ってあいつの両手を膝で挟んだ… おい…何を見せられているんだ… 「あはは…ずるいぞ~?豪ちゃん!」 そんなご機嫌な哲郎が、勃起して辱めを受ければ良い…なんて、思ってしまうのは、俺が豪ちゃんを大好きだから… 膝で挟んだ両手をこれ見よがしに外すと、哲郎は豪ちゃんの目の前に持って行ってブラブラさせながら言った。 「ほらぁ…抜けちゃったよ?ちゃんと膝で挟まないから…抜けちゃった!」 「ん…んん、だぁめ!動かないでぇ!やぁ…ん、だめぇ!」 豪ちゃんは怒りながらそう言うと、あいつの手を取って再び膝に挟んで、ギュッと締め付けながら言った。 「んん~~!」 「豪ちゃんって…ああいう時の声が、妙にエロイんだ。昔からそう…。だから、てっちゃんはわざと嫌がらせして、あの声を聴いて…勃起してるんだ。」 は…?! したり顔をした大吉は俺の隣に腰かけてそう言うと、哲郎を指さして言った。 「ドSの…むっつりスケベ…」 合ってる… 「しかも、豪ちゃんは怒った時の顔もエロイんだ…大きな丸い目がウルウルして、口をさ…アムアムって動かしながら怒るから…。てっちゃんはわざと豪ちゃんを怒らせて、そんな顔を見て、勃起してるんだ。」 …まじか… 「はは…友達をそんな風に言うんじゃないよ。お前は少し、そういう事から離れなさい。いつもそんな目で誰かを見ていると…将来、結婚する前にわいせつ罪で逮捕されるぞ?」 隣の大吉にそう言うと、彼は首を横に振りながらため息を吐いて言った。 「来週…決めるから。僕はお嬢様相手に、男になるって…決めてるから…」 はっは~~! 「そうか…捕まるなよ。」 体を震わせながらそう言うと、隣でしたり顔を続ける狸顔の大吉を見て吹き出して笑いそうになるのを必死に堪えた。 はぁ…全く、男ってやつは… 中学生の頃の俺も、この…隣の、どスケベな大吉と同じ…どうやって楽器を弾いたら格好よく見えるか、女の子にモテるか、触れるか…なんて事ばかり考えていたな… 彼らは、来週末に行われる“音楽祭”を楽しみにしてる。 この村の分校の…所謂、本家みたいな町の本校の生徒がやって来る事が決まった。 吹奏楽部に…弦楽部の子供たちが演奏を聴かせてくれるんだ。 そして、彼らは…その中の女の子を、口説こうと狙ってるんだ。 おっかしいだろ? でも、この年頃の男子にとったら…一世一代の一大イベントだ。 この村以外の女の子に会えるんだからね… この中のホープは、迷う事なく哲郎の一択。 その次は…俺の可愛い豪ちゃん。 その次は…どうかな、晋作か…それとも…物で吊る清助か…大穴の大吉が来る可能性もある… 甲乙つけ難い… 結果がどうなったとしても、彼らの奮闘を応援しない訳にはいかない。 だって…俺も通って来た道だからね。 他人事には思えないのさ。 ただ…あの子のバイオリン演奏が終わるまでは…気が抜けない。 そう…麗しの豪ちゃんの唯一無二のバイオリンだ。 「あ~!僕も混ぜて~!」 そう言って大吉が、砂に埋められ始めた豪ちゃんに駆け寄って、あの子の胸に巨乳の砂山を作り始めると、豪ちゃんはケラケラ笑いながら喜んで、哲郎は微妙な顔をした。 「あ~はっはっは!」 楽しそうに笑うあの子の笑い声が、胸に心地よく響いて、染み渡る。 不思議な子。 共感覚だったのかな… それとも、催眠術の様な…幻覚なのか… 凄い経験をした。 豪ちゃん… あれはまるで、形のない音を、目で見る様な体験だったよ。 体から音を出して美しく微笑むあの子の周りを、鮮やかに彩った五線譜の帯が…まるで羽衣みたいに回って、次々と天に昇って行くんだ… 天使だよ… 誰が何と言おうと…お前は天使だ。 それは主観なんかじゃない、圧倒的な事実だ。 「豪ちゃんそろそろ、惺山にご飯を食べさせるから~」 「はぁ~?そんなの自分で出来るだろ~?」 「出来ないんだ!」 豪ちゃんはそう言うと、俺の頭の上に麦わら帽子を被せて、地団太を踏む哲郎に手を振った。そして、俺を見上げてにっこりと笑って言った。 「チャーハン作ってあげるね。」 「…ふふ、嬉しい…」 そう言って笑うと、湖の水で濡れたあの子の髪を、指を立ててバサバサと乾かしてあげる。 「海と違くてさ、湖の水は塩が入ってないから、好き!」 あの子はそう言うと、俺の手を掴んでぐいぐいと先を進んだ。 …帰ったらお風呂で体を綺麗にしてあげよう… ぼんやりとそんな事を思いながら、あの子の首筋を眺めて…むしゃぶり付きたいなんて欲求を堪えながら歩いた。 「惺山、ベーコン買って帰ろう?」 そう言ったあの子に連れて来られたのは…昼下がりの晋作の店。 「お~豪ちゃん、今日は、また、良い男を連れて…お買い物かい?」 晋作の親父はそう言うと、俺を下から上まで舐める様に見て言った。 「おっちゃんの方が格好良いだろ?」 「ははっ!惺山の方が格好良いよ?」 豪ちゃん…本当の事を言えるんだね? そんなあの子に笑顔を引きつらせると、晋作の親父は息子同様…俺にトイレットペーパーを強く勧めて来た。 「沢山あっても困らないだろ?買っていくかい?」 「ん、もう…!おじちゃん、惺山はこの前、晋ちゃんに2つも買わされていたよ!」 豪ちゃんはそう言って推しの強いセールスを断ると、冷蔵庫を覗き込んで言った。 「ベーコンを、頂戴よ。」 「はいよ!」 手際よくベーコンを包む晋作の親父の手元を見つめていると、あの子がアイスをふたつ持って来て言った。 「これも買って?」 「良いよ。」 あっという間に晋作の店で買い物を済ませ、一緒にアイスをかじりながら徹の実家へと歩いて戻った。 豪ちゃんは…アイスをかじる派なんだ… 舐めないで…かじる派なんだ… ガリガリとアイスをかじるあの子を横目に見て、勝手に股間を縮こませると、お出迎えの様に寄ってくるパリスに言った。 「ただいま…パリス…」 「ふふ。すっかりこの子は、惺山に懐いてる。」 柔らかい笑顔を向けてパリスを撫でると、豪ちゃんは玄関から部屋の中に上がって、買ってきたベーコンを台所に置いて手を洗い始めた。 「ん、まず…体を洗って来なよ…」 不思議そうに首を傾げて俺を見上げるあの子に、タオルを差し出してそう言った。 「…ん、このままじゃ嫌?」 「嫌…」 だって…哲郎にベタベタ触られていたし…砂に埋められていたし、抱きかかえられて…湖に入っていたじゃないか… そんなの…嫌なんだ。 「洗ってあげる…」 豪ちゃんの手を掴んで連れて行くと、素直に後ろを付いて来る様子に口元を緩めた。 あぁ、可愛いな… 「豪ちゃん?手を上げて?」 有無を言わさずすっぽんぽんにしてあの子の体を洗い始めた俺に、豪ちゃんは不思議そうに首を傾げながら聞いて来た。 「…湖の水は汚い?」 「違うよ…でも、洗うの…」 口元を緩めてそう言った俺に、あの子は首を傾げながら口を尖らせて、肩をすぼめて見せた。そして、何気に俺の襟足の毛を見つめてくるから、クスクス笑って言った。 「ふふ…触っても良いよ?」 そんな言葉に頬を赤く染めて、豪ちゃんは伏し目がちに言った。 「だって、濡れちゃうもん…」 「なぁんで…濡らして良いよ…」 「ん、だってぇ…」 もじもじするあの子が可愛くて、堪らずキスをして泡だらけのあの子を抱きしめて、自分の体の中に沈めて行くと、物分かりの悪い、馬鹿みたいな思いがこみ上げて来た。 あぁ…この子をひとり占め出来たら良いのに… 大人の仮面を捨てて…哲郎に張り合って、この子を連れ去れたら良いのに… 「んん…惺山…。ん、もう…泡だらけになったよ?」 そう言ってあの子が瞳を潤ませるから…俺はにっこりと微笑みながら言った。 「じゃあ…豪ちゃんが脱がせてよ…」 駄目だ…大好きなんだ… この子が、あの…お似合いの哲郎と、一緒に居る様子を見せつけられて…年甲斐もなく妬いてしまった。 「ん、もう…惺山は…お馬鹿さんだね…?」 俺のシャツのボタンを泡の付いたヌルヌルした指先で、じれったく外すあの子を見つめて微笑むと、可愛い唇を貪るようにキスして体を撫でまわした。 「好き…」 「好きだよ…」 そんな甘い言葉の応酬を、訳もなく繰り返して…目の前の可愛いあの子と、うっとりと見つめ合いながら愛し合う… 今、心臓発作で死んだら… なんて、どうでも良い事を頭から追い出すと、可愛いあの子の体にお湯をかけて、泡を流し落としてあげた。 「素敵…」 「可愛いよ…」 ズボンのチャックを下げながらあの子を抱き寄せると、抱き付いて来たあの子の勢いに押されて、風呂場の壁にもたれかかった…。トロけた瞳のあの子の目を見つめながら自分のモノを握って扱く。 「ダメぇ…惺山…僕がしてあげるのに…」 あぁ…!豪ちゃん!!火が…付いたんだね… 俺の体にもたれかかると、可愛いキスをくれながら…あの子の可愛い手が俺のモノを握って…扱き始めた。 「もっと…強くして…」 あの子の髪に顔を埋めてそう言うと、クッタリと頬を俺の胸に乗せて、自分のモノと俺のモノを一緒に扱き始めるあの子を見て…恍惚の表情を浮かべる。 快感に身を捩って足を震わせながら喘ぐ姿は…悩殺だぁ… 「挿れたい…」 堪らずそう言うと、あの子は惚けた瞳を俺に向けて、何度も頬ずりして言った。 「はぁはぁ…うん…うん…」 あぁ…ずっとセックスしていたい… このトロけた堪らないこの子と…ずっと、ずっと、貪り合いたい… お尻を向ける豪ちゃんの中に指を入れて、あの子の柔らかいお尻のほっぺに自分のモノを擦り付けながら腰を揺らした…。可愛いあの子の体を片腕で抱き起こして、後ろを振り返るあの子の唇に、長くて溺れる様なキスをあげる。 「はぁはぁ…んん…気持ちい…惺山、あっ…んぁ…はぁはぁ…気持ちいの…」 可愛い… 哲郎には…こんな顔を見せないでよ… 例え、俺が死んでも…あいつにだけは、こんな顔を見せないでよ… 俺以外の男と…こんな事を絶対にしないでよ…誰にも触れさないでよ… 嫌なんだ… お前が…俺以外の男と、そんな風になるなんて…考えただけで、気が狂いそうになるんだ…! 「豪ちゃん…可愛い…大好きだよ。」 そう言ってあの子の背中に舌を這わせると、あの子の中に…自分のモノを埋めて行く… 壁に両手を着いて、体の中に響く圧迫感を堪えるあの子の苦悶の表情を見つめながら、ゆっくりと腰を動かして行く…。何度も擦って…気持ち良くなってくると、あの子の腰を掴んでグリグリと奥まで押し込みながら言った… 「豪ちゃん…気持ちいい…」 「はぁはぁ…うん…」 苦しいんだ… だって、ずっと眉間にしわが寄ってるもの… そりゃそうだよ…この子は腸にモノを入れられてるんだ。 気持ちが良い訳がない。 でも…一気にこの苦痛を快感に変えてあげる方法を、俺は知ってるんだ… 俺の腰があの子のお尻を突く度に、あの子の股間で揺れるモノを握ると、足が震え始めるあの子の背中に体を乗せて、抱きしめながら強く扱いてあげる。 「はぁああん!だめぇ…!んん!あっ!あぁ…!」 激しく喘ぎ声を出し始めるあの子に口元を緩めて、トロトロの汁が先っぽから流れ落ちるあの子のモノを意地悪に強く握って…グリグリと先っぽを虐めてあげる。 「あぁ…気持ち良いね…」 快感にしなる小さな背中に頬ずりしながら、顔を風呂場の壁に付けてトロけた顔をするあの子を見つめて興奮して行くと、細い腰を掴んだ手を胸まで滑らせて…敏感になった可愛い乳首を、意地悪に強く摘んで詰った。 「んんっ!だめっぇん!あっああん!」 豪ちゃんは乳首が弱いんだ… 体をビクビク震わせると、あの子は震えながら先にイッてしまった… でも、俺は意地悪なおっさんだから、あの子をこの程度で離したりしないんだ。 「イッちゃったの…?」 快感にうるんだあの子の瞳を覗き込むと、両手であの子の胸を抱き起して腰を強く振って、あの子の中をグチャグチャにして行く… 「はぁはぁ…!あっ…あぁあ…」 潤んだ瞳から涙を落して、だらしなく開いた口からよだれが溢れると、あの子の唇に舌を這わせて、低い声で言った。 「豪…舐めて…」 荒い息を吐きながら振り返って俺を見上げるあの子は、可愛い舌を伸ばして…俺の唇を舐めてキスをした。 堪んない… 「もっと…」 強くそう言うと、あの子は必死に俺の唇に舌を入れて絡ませてくる… その健気な姿に…ガチガチになった俺のモノはもっと硬くなって、あの子の中であちこちを擦りながら…勝手に気持ち良くなって行く… 「あぁ…!せいざぁん…だぁめぇ…イッちゃう!」 「だめ…」 細い首筋に顔を埋めてあの子のモノを強く握って、柔らかい先っぽをいやらしく何度も親指の腹でグリグリと押しながら擦った。 「ふぅ…はぁあ…だめぇ…だめぇん…んん、気持ちい…イッちゃう…んん、惺山…意地悪しないで…あっあ…気持ちいの…!」 体を捩ってそう言う豪ちゃんにすっかり興奮すると、俺はあの子のモノを強く握ったまま、可愛い乳首を摘んで言った。 「だめ…」 「あっああ…んん…気持ちい…惺山、大好き…大好き…!」 知ってるよ… 豪ちゃんが意地悪されて悦ぶ事も、俺の声に…敏感に反応する事も、焦らされてイクのが大好きな事も…知ってる。 「こんなに…トロトロにして…可愛いね、豪ちゃん…気持ち良くって、イッちゃいそうだ…」 あの子の耳を食みながらそう言うと、体をビクビクと震わせてあの子が言った。 「イキたいの…惺山、意地悪しないで…」 ふふ…可愛い… 「だめだよ…まだ、だめ…」 そう言ってあの子の耳元に吐息を吹きかけて、ゾクゾクと鳥肌が立って行く様子を見つめながら、舌を出して耳の裏をペロペロと舐めてあげる。 「んんっ!…あぁ…!だめぇん…気持ちいの…気持ちいの!」 快感に乱れたこの子は特段に可愛いんだ… 乳首をつねる俺の手首を掴むと、あの子のモノを握って虐める俺の手に自分の手を添わせながら…快感に溺れて…今にもイキそうに腰を震わせる。 …そんな豪ちゃんが、堪んなく、可愛い… 「豪…イキそう…」 息を荒くしてそう言うと、俺の胸に頭を擦り付けながら、豪ちゃんはおねだりするみたいに可愛く言った。 「だめぇ…!」 …それは…イクな!という事か…それとも…もっと虐めろという事か… 駄目です…イキそうなんです… 「可愛いね…」 余裕ぶってそう言うと、あの子のモノを解放して手のひらの内側で先っぽを包み込んで撫でまわした。 「ひゃぁ…あっああん!」 そんな可愛い悲鳴を上げながらあの子がイクのと同時に…あの子の中で…ドクドクと自分のモノがイクのを感じて、咄嗟にそのまま奥に突っ込んだ… …妊娠して…! 赤ちゃんを作って…! 馬鹿みたいだ…この子は、男の子なのに… 快感の余韻をあの子の背中を抱きしめながら感じると…ふと、中出しをした事を思い出して…慌ててあの子の中から自分のモノを出した。 「あぁ…ごめん…綺麗にしてあげるね…」 自分の精液が、あの子の中からトロリと垂れて太ももへと伝う様を見て…不覚にも興奮してしまった事は、内緒にしておく… 「ふふ…嬉しい…」 壁にもたれたままそう言うと、豪ちゃんは背中を震わせて顔を伏せた… 「ごめんね…嫌だった?ごめんね…綺麗にするからね…」 あの子のお尻を綺麗にしながら、泣いてしまったあの子を見てひどく落ち込んだ。 あぁ…中に出したらダメだろ。馬鹿惺山! 「どうして…」 ポツリと小さな声であの子がそう言ったから、聞き耳を立ててあの子の次の言葉を待った。 「どうして…僕は女の子じゃないんだろう…」 え… 「どうして、そんな事を言うの…」 あの子の背中を撫でてそう言うと、豪ちゃんは背中を震わせながら言った。 「…知らない!」 知らない… お尻を綺麗に流すと、あの子を抱きしめながら泣きじゃくる顔を覗き込んだ。 「俺はお前が男でも女でも…愛してるんだ…そんな事で悲しまないでよ…」 そう言ってあの子の唇にキスすると、あの子は応える様に首を伸ばして、キスをして、クッタリと俺の胸に顔を埋めた… どうしたんだよ…豪ちゃん… どうして、そんな事を気にするの…? お尻でエッチするのが辛いのかな… 「僕のチャーハンは美味しいんだよ?」 そう言って、台所に立ったあの子は、あんな風に泣いてしまった事が無かった事の様に、ニコニコと笑いながらベーコンを切り始めた。 俺はあの言葉の意味が知りたくて…ずっとあの子の傍で、あの子を見つめてる。 「なぁに?惺山…」 怪訝な表情でそう聞かれると、口を尖らせて視線を逸らしながら言った。 「…別に…」 「ん、もう…」 ため息を吐いてそう言うと、豪ちゃんは俺に卵を3つ渡して言った。 「割って…溶いておいてね?」 「ほ~い…」 どうしてだよ…豪ちゃん、俺は君が大好きなのに… どうして、そんな事で心を痛めてるんだよ。 腑に落ちない… 女が良かったなんて…これっぽっちも思っていないのに、あの子の口から…そんな言葉を聞いて、俄然、腑に落ちない。 「惺山?僕が泣いたから…気にしてるの?」 フライパンに手際よくベーコンを入れると、菜箸でかき混ぜながら背中を向けたままのあの子がそう言った。 「…別に…」 卵を溶きながらそう言うと、あの子はケラケラ笑って言った。 「もう…嘘つき…」 どっちがだよ… 豪ちゃん…俺は君が好きなのに… 堪らなくなってあの子の背中に抱き付くと、お日様の匂いがする髪に顔を埋めながら言った。 「どうして…?どうしてあんな事を言ったの…?言っただろ?俺にだけは本当の事だけ言って良いって…。言ってよ。豪ちゃん…どうしてあんな事を言ったの…?」 そんな俺の手から卵のボールを取ると、手際よくフライパンに流し入れて菜箸でかき混ぜて、炊飯器のお米をボールによそいながらあの子が言った。 「あんな事って…?」 「どうして僕は女の子じゃないんだろうって言っただろっ!俺はお前が好きなのに!どうしてそんな事で心を痛めるんだよっ!お前が女の子だったら良かったなんて…一度も思った事なんて無いぞ!」 そう言ってあの子の体を両手で強く抱きしめると、豪ちゃんはクスクス笑いながら言った。 「バカみたいな事だよ…ふふ、本当…バカみたいな事…。」 「言ってよ…」 俺がそう言ってあの子の首に顔を埋めると、あの子はお米を卵の上に落として、塩コショウ…鶏がらの粉末出汁を振りかけて、ため息を吐いた… なんだよ…豪ちゃん… 「…赤ちゃんが欲しいって思ったんだ。あなたの…赤ちゃんが欲しいって…」 え… あの子は縁側の向こうを見つめてそう言うと、フライパンに目を落としてため息を吐いた。 「ね…?下らないでしょ…?」 一言そう言って菜箸でお米と卵を掻き混ぜると、豪ちゃんは手を休める事無く、手際よくフライパンを振って中の米を炒め続けた。 「そ、そんな事ない…!」 すぐに否定出来るよ… だって、俺も…馬鹿みたいに男の子の君を…妊娠させようって思ったんだから… 「そんな事ないよ…そして、それは…嬉しい事だよ…」 そう言ってあの子の首にキスすると、両手にきつく抱いてしまった体を解放してあげた… 「ふふ…嬉しいの?」 背中でそう言うあの子を見つめると、口元を緩めて笑って言った。 「そりゃ、嬉しいよ…だって、愛してるんだ。」 愛する人に、俺の子供が欲しいなんて言われて、胸がいっぱいになると同時に、目の前のこの子が…いじらしくて、可愛くて、可哀想で、胸が痛くなった。 豪ちゃんは、それが出来ない事を…悲しんで、泣いてしまったんだ。 この子はトランスジェンダーな訳じゃない。女の子の様な見た目だけど、女の子に間違われると明らかに嫌な顔をして、確実に負ける哲郎との戦いにも果敢に飛び込んで行く、気性の荒い一面も持ってる…普通の男の子だ。 ただ、俺の子供が欲しくなった…15歳の男の子だ… 「出来た~!」 元気な豪ちゃんの声に我に返って、慌ててお皿を用意して言った。 「どぞ…」 「ふふ…!」 豪ちゃんの薄味のチャーハンがお皿の上に乗ると、テーブルの上の物を退かして、台拭きで綺麗に拭いておく。 「出来た…」 そう言ってあの子を振り返って、アピールする。…俺は気が利いて、出来る男だと、ドヤ顔でアピールする。 そんな俺を無視して、目の前にチャーハンを置いた豪ちゃんは、隣に自分の分のチャーハンを置いて言った。 「惺山…お茶持って来て?」 「ほいさ!」 すぐに指示に従って、すぐに体を動かす。これが今どきの出来る男のスタイルだ。 いそいそと、あの子の元にコップとお茶を運んで行って、アピールを忘れずにした。 「お、俺が持って来た…!」 下らない…そんな顔で見つめられたって、君が俺を好きな事は知ってるから、平気の平左えもんさ… 何事も無かったようにあの子の隣に胡坐をかいて、俺のお皿からスプーンでひとすくいするあの子を見つめて瞳を細めた。 「はい、あ~んして?」 ふふ… 「あ~ん…」 やっぱり…味が薄い。 でも…この子に食べさせてもらったら、なんでも美味しい… 「美味しい…」 そう言って豪ちゃんにキスをして、頬を真っ赤にしてもじもじと照れ笑いをする様子に鼻の下を伸ばした。 可愛いんだ… ご飯を食べながらモニターの電源を付けて、おもむろにエンターキーを押して言った。 「3曲分…作ってみたんだ。聴いてよ…豪ちゃん…」 そう、それは編集作業を終えた俺の作曲したひな形の3曲だ… 豪ちゃんはキョトンと目を丸くしながらチャーハンをパクリと口の中に入れて頷くと、目の前のスピーカーから流れて来たメロディに、瞳を見開いて喜んでくれた… 「あぁ…!すごい、とっても…綺麗だ…!」 感嘆の声を出すあの子を横目に口元を緩めると、楽しそうに体を揺らし始めたあの子の体の動きをすぐ隣に感じて…胸がいっぱいになって行く。 ずっと…こうして居たいよ… 俺が作曲をしている間…お世話をし続けてよ… 何年も何年も…この先、ずっと…傍に居て…俺に餌付けをし続けてよ… そして、この先作られる曲のすべてを…今の様に…一番に隣で聴いて、喜んだ笑顔を見せてよ… 「…この曲は、僕みたいだね…」 「そうだよ…良く分かったね?」 ご飯を食べ終えて俺の体にもたれかかったあの子は、2番目に作った曲を聴きながら瞳を閉じて、うっとりと口元を緩ませて微笑んだ。 「…気に入った?」 「とっても…」 あぁ… 嬉しい… 「良かった…」 ポツリと零れた言葉をそのままに、あの子の肩を抱いて、何度も髪にキスをした。 「やっぱりポルカは最高だ…。ねえ、あの音色は…何の楽器?」 3番目に作ったポルカを聴き終えたあの子が、不思議そうな顔をして俺を見上げてそう聞いて来た。 あの音色…? バンジョーかな…? 「あれは…バンジョーだよ。丸い形をしてる弦楽器で…4弦の物から、6弦の物まで多彩なんだ。音楽ジャンルにおいてもブルーグラスジャズや、カントリーミュージック…いろいろな方面で活躍をする楽器だよ。雰囲気のある音色をするだろ?」 そう言ってあの子の顔を覗き込むと、豪ちゃんは俺を見つめてうっとりしながら言った。 「やっぱり…惺山は物知り。」 こんな知識…特に役にも立たないけど、この子をメロメロにさせるのには役に立つみたいだ…ふふん。 「これを…こうして、木原先生のアドレスに…くっつけて…」 モニターの画面を見つめながらそう言う俺に、あの子が首を傾げながら聞いて来た。 「それが、その…矢印で持ってるのが…さっきの曲なの?」 「そうだね…パソコン上だと、データとしてやり取りするから、こんな見た目だ。」 クスクス笑うと、あの子にキーボードを渡して言った。 「ここの…大きなキーを押してごらん?」 「んん!怖い!」 あ~はっはっはっは!! ただのエンターキーだ! 「怖くないよ…ただのキーボードだ…ほらぁ…ほらぁ…豪ちゃんが送信してよ…!おっかない木原先生は豪ちゃんにメロメロなんだからぁ、豪ちゃんが送信してよぉ!」 あの子の顔に顔を近づけてムリムリと体を押し付けてそう言うと、あの子はクスクス笑いながらキーボードのエンターキーをチョン…っと押した。 あぁ、これで…とりあえず、ひと段落着いた… 「さあ…後は、交響曲をひとつ書いて…」 畳の上にゴロンと寝転がってだらけながら、俺を見下ろすあの子に両手を広げて言った。 「…おいで?」 「ん、でもぉ…大ちゃんがいつ来るか…分かんないもん…」 豪ちゃんはそう言いながら縁側をチラチラと気にして、もじもじして体を揺らすとちょっとだけ俺の胸に顔を乗せて、両手で俺を抱きしめた。 あっという間の幸せタイムは一分も満たない内に終わって、そそくさとお皿を持って台所へ向かってしまった豪ちゃんの後姿を、いじけた様に口を尖らせながら眺めた… あぁ…こんな時、縁側なんてオープン過ぎる空間が、煩わしく感じるよ。 雨戸を閉めちゃおうかな…でも、そうすると…風が入らないんだよなぁ… 「バイオリンに早く触りたいなぁ…。だって、惺山のバイオリンはね、歌ってるみたいで、音を擦って出してるって感覚にならないんだ…。不思議だよね?だから、どこを押さえれば分かったら…後は、勝手にバイオリンが勝手に歌ってくれるみたいで、楽しくって、大好きになったぁ!」 お皿を洗いながらあの子がそう言うから、俺はウトウトしながら天井を見つめて言った。 「ん…好きに…したら良い…」 そうだ…あの子の綺麗な音色を聴きながら…昼寝をしよう… そうだ、そうだ…そうしよう…むにゃむにゃ… 手を拭きながら戻って来たあの子は、落ちて来る瞼を必死に堪える俺の顔を覗き込んで言った。 「…ピアノの部屋に、バイオリンを取りに行ってくるね?」 「ん…どこにも行かないで、ここで…こうして、待ってる…」 あの子の顔を見つめてそう言ったっきり、限界の瞼が落ちて、いつの間にか眠ってしまった… 耳に聴こえてくる”愛の挨拶“…それは、夢でも見たんだろうな… とっても上手だった。 途切れる事も無く…音がブレる事も無く…まるでプロが弾いている様だ。 その癖、あの子の特徴のある、丸みを帯びた優しい音色を聴かせてくれるんだ。 ふふ…俺はとうとうあの子の音色の特徴を掴んで、頭の中で…再生させる事に成功したのかな…大好き過ぎてすぐに覚えちゃったんだ… 凄いな…俺… きっと、弾けるようになったら、こんな音色に… 「豪ちゃん!凄い!」 「は?!」 そんな声に驚いて目を開くと、ガバッと勢いよく体を起こして、声のした縁側の向こうを見開いた瞳で見た。 「凄い!これは…凄い!てっちゃんが…イッちゃうよ!」 地面に跪いて拝め始める大吉に…眉を下げて、困った顔をするあの子を見つめて、声を震わせて言った。 「い、い、今の…豪ちゃんが弾いたの?」 「うん…」 豪ちゃんはそう言うと、眉を下げて、俺を伺う様に上目遣いで見つめた… マジか… マジか… さっき弾いた時は”分からない”って言っていた箇所をクリアしてるじゃないか… 一体、いつ、出来る様になったの…? 「凄い…」 ポツリとそう呟いて豪ちゃんの元に行くと、跪いて拝み続ける大吉をそのままにして言った。 「…もう一回、弾いてごらん?」 「…うん。でも…大ちゃんがぁ…」 「気にしなくて良いよ。いない人だと思って…?俺を見ながら弾けば良い。」 あの子の頬を撫でてそう言うと、うっとりと瞳を色付かせてあの子が頷いて言った。 「うん…!」 信じられない… そんな気持ちを抱きながら、縁側に腰かけてあの子と見つめ合うと、バイオリンを首に挟んで弓を構える姿に惚れ惚れする… つい、この間まで、弾けなかったのに…どうして…そんなに様になるのさ… まるで幼い頃からそうして来たみたいに、構え方が板に付いて来た。 「ひ、ひ、弾いてみま~す…」 ぎこちなくそう言うと、豪ちゃんはじっと俺を見つめてゆっくりと弓を弦に置いた… おい、マジかよ… そんな言葉しか浮かばない。 今朝、聴かせて貰った時よりも、繊細に情緒が付けられた“愛の挨拶”は…まるで俺に話しかけるあの子の声、そのものだった… 高音の音色も美しく伸ばして…まるで音の太さを変える様に弓を巧みに使うと、教えた事も無い技法を使って…弦を震わせながら情緒を込めた”愛の挨拶”を弾いてみせるんだ。 凄い…信じられない! 「ブラボーーー!」 感嘆の声を上げて痛くなるくらい拍手をすると、あの子を抱きかかえて見上げて言った。 「はぁ~~!素晴らしい!なんてこった!」 「ふふ…」 嬉しそうに頬を染める豪ちゃんにキスしてしまいたい気持ちを抑えて、大吉がニコニコと生暖かい目で見つめる視線を無視しながら、あの子を大事に抱きしめた… これは、才能だ… 凡人が何時間かけても、何年かけても、太刀打ち出来ない…紛れもない才能! 午前中に聴かせてもらった”愛の挨拶”よりも、情緒のこもった上出来の仕上がりに、こんな短時間で持って行くなんて…信じられない!! こんな事があるなんて…信じられない…!! 「凄い…絶対に、バイオリンを習うべきだ…!そして、他の人にも、お前の素晴らしい音色を聴かせてあげるべきだ!」 興奮を抑えきれずにあの子の体を抱きしめたままそう言うと、豪ちゃんはもじもじ体を動かしながら言った。 「…惺山に聴いて貰えれば…それで良いの…」 はぁ~~~~~?! こんなに凄いのに? こんなに短期間で、こんなに情緒を込めたクオリティーの高い演奏が出来るのに? こんなに…こんなに…素晴らしいのに…!! 「どうして!?」 そう言ってあの子の顔を見ると、豪ちゃんは困った様に眉を下げて言った。 「だってぇ…他の人なんて、豪ちゃんは知らないもん…」 凄い… 凄いんだ…!! 興奮した勢いをそのままに居間に駆け上がると、携帯電話を手に取って木原先生に電話を掛けた。 首を傾げたまま縁側で俺を見上げるあの子を見つめたまま、電話の呼び出し音を聞くと、電話を受け取った先生に開口一番に言った。 「先生!豪ちゃんは凄い子です!“愛の挨拶”をいとも簡単に弾けるようになった!!誰よりも情緒のこもったあの子の演奏は…表す言葉の無い程に…美しかった!!」 先生の返事を聞かないまま電話を切って、ニヤニヤの止まらない大吉を無視したまま、豪ちゃんを抱きかかえてピアノの部屋に連れて行く。 そして、ピアノの上に携帯電話を置いて、録音ボタンを押して、矢継ぎ早にあの子に言った。 「…もう一回、弾いてみて?」 「…ん、やぁ、やぁだぁ!」 「どうして!?そんなに凄いんだ!もう一度聴かせてよ!」 突然機嫌が悪くなった豪ちゃんは頬を膨らませてそう言うと、俺の腕の中から体を捩らせて逃げ出した。 そして、ムスくれた顔を俺に向けて言った。 「やなの!惺山だけが聴けば良いの!僕は、あなたの為に弾いたんだ!なのに…なのに!」 「だって…そんな素晴らしい演奏が出来るのに…!どうして、弾かないんだ!!」 勢いが余ったんだ… あまりに素晴らしい才能を…この子が無下にするから、腹が立った… 俺の怒鳴り声に体を強張らせると、あの子は手に持ったバイオリンをピアノの上に置いて、じっと俺の足を力を込めた目で見つめて言った。 「もう…弾かない…」 「なぁんで!もったいないだろ!これは才能だ!欲しくても手に入れられない物だ!そんな物を持っているのに、どうして、そんなに粗末にするんだ!」 そう言ってあの子の肩を掴むと、無駄に強く揺さぶって怒りをぶつけた。 …凡人が喉から手が出るほど…欲しい物を持っているというのに…! もどかしい…!! 「離して!馬鹿!」 あの子はそう言って俺の手を振り払うと、踵を返してピアノの部屋を出て行った… …なんでだよ。豪ちゃん… そんな素晴らしい才能を持っているのに…なにが、惺山だけが聴けば良い…だよ。 意味が分からないよ… あの子の居なくなったピアノの部屋。 携帯電話の録音ボタンを止めると、怒りの感情をそのままピアノにぶつける様に鍵盤を打ち鳴らして弾き始める。 …“愛の挨拶”… 何でだよ…あんなに凄いのに、どうして聴かせてくれないんだよ…!! 惺山にだけ…聴いてもらえれば…それで良いの… そう言ったあの子の困惑した顔が…目の前に浮かんでは、消えて行く… 分からないよ…全っ然、分からない! 素晴らしい物を広める事は罪なの…? どうして隠して持っておこうとするの…? “子犬のワルツ”を弾きながら考えあぐねる… どうしてあの子がムスくれて怒ったのか… ピアノの上に置かれた自分のバイオリンを見つめて…目に溜めた怒りの力を鍵盤に落として、子犬が足を絡ませて転ぶような…ワルツを弾く。 美しくなんて無いし、可愛らしくもない。軽やかでも無いし…情緒も無い。 雑音だ! そのままショパンのワルツを弾き漁る…“ワルツ第7番…嬰ハ短調” 「あぁ…これは、あの子の曲だ…」 ポツリとそう言うと、何故かあの子の顔が思い浮かぶこの曲を弾きながら、頭の中に思い描いた寂し気な瞳を俺に向けるあの子に聞いた。 「どうして嫌なの…?」 “だって…惺山が聴いてくれたら、僕はそれで良いんだ…。どうして…?他の人に弾かなければいけないの?あなただって…胸の内は誰にも聴かれたくないでしょ?” そうだ… そうだけど… 「でも…君の演奏は群を抜いて素晴らしいんだ…」 “…僕はそんな事、望んでいないんだよ。分かるでしょ?” そう言って首を傾げるあの子を見つめて…ひとり、ため息を吐いて言った… 「そうだね…そうだね、君はそれを望んでいない…」 素晴らしいあの子を、見せびらかしたいのは…俺。 望んでもいない事を無理やりさせようとして…怒らせた… 哲郎と変わらない。 いいや、あいつは自分の性的趣向の為にしてるだけだ… 俺は、自分の見栄の為に…あの子を利用しようとした… 俺の方が…質が悪い… 善意に見せかけた、押しつけだ。 …自問自答を繰り返す様に、ショパンのワルツを順番通り弾くと、”別れの曲“を弾きながら、後悔する… どうしてあんなに怒鳴りつけてしまったのだろう… 可愛いあの人を、どうして…? ただ…目の前に現れた“才能”を、他の人にも伝えて知らしめたかった… “藤森北斗”にも引けを取らない…そんな逸材が居ると…誇示したかった。 それは誰の為…? そう、俺の為… 自慢したかったのか…? 違うさ… あの子が輝ける場所を用意したかったんだ。 俺が居なくなった後も、才能が伸び続ける様にと… 俺が大好きな音楽を…あの子にも好きになって貰いたかった。 …俺が楽しんだ様に、あの子にも楽しんで貰いたかった。 決して…そんな才能を見せびらかすためじゃない。 “ワルツ第16番ホ短調”…この曲を俺はゆっくり弾くのが好きだ… 揺らめく波の様に旋律が揺れて動くんだ。 だから、そんな揺らぎをゆっくりと感じながら弾くのが…好き。

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