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#23
「コッコッコッココケ~コ!コッコッコッココケ~コ!」
パリス…お前のご主人様は…思った以上にやる男だった…。
おかげさまで…俺は心身ともに疲れ切って、ぐっすりと寝る事が出来たよ。
「はぁ…全く、豪ちゃんは不言実行だから困るよ…。あの頑固さは、いったい誰に似たんだろうね?」
親父?まさか…あいつはクズだ。
ヨロヨロと体を起こすと、寝室の引き戸を引いて暗い部屋の中を玄関へと向かった。
今日は美味しいものが出るんだ…
「小松菜の味噌汁…」
ポツリとそう呟いて、肌寒くなった朝の空気の中、両腕に立てた鳥肌を撫でながら可愛いあの子の家へと向かう。
コンコン…
いつもの様にノックすると、いつもの様に引き戸の玄関を開いて、いつもの様に台所に立って俺を見返すあの子に言った。
「豪ちゃん…おはよう…」
「惺山!」
満面の笑顔で俺に駆け寄った豪ちゃんは、両手を広げて抱き付いて来た…
この子が…愛おしい…!
両手でしっかり受け止めて、あの子の首に顔を埋めキスしながら言った。
「…お腹、空いた…」
クスクス笑う可愛らしい声に、デレデレとにやけながら、抱きしめた腰を引き寄せて、うっとりと瞳を潤ませるあの子にキスをした。
布団の中からジト目で俺を見続ける…そんな視線なんて気にしないさ。
「今、作ってるの…だから、離してぇ…?」
「ん~…ふふ、やぁだぁ!」
豪ちゃんの腰を抱いて駄々をこねるみたいに体を揺らしながら、クッタリとあの子の胸に甘ったれて抱き付いた。
…あぁ、幸せ…
「離さないもん!離さないもん!絶対、離さないもん!」
そう言いながらあの子のTシャツに手を入れると、腰から背中にかけて両手でさわさわと撫でて抱き寄せる。
あぁ…勃っちゃう!
「…うぉおい!」
そんな大声に顔を向けると、豪ちゃんの兄貴が驚異の速さで蠕動運動をしながらこっちへ向かって来た…
怖い…!
「あ…おはようございます。」
…知ってた。
君が起きているのは、知っていた。
でも、敢えて言おう…おはよう。と…
「…豪!飯!」
豪ちゃんの兄貴はそう言うと器用に体を蠢かせながら、豪ちゃんの足を小突いて、俺から離した。
「全く…どうなってるんだ、この大人は…」
芋虫の君に言われたくないさ…
豪ちゃんの兄貴は蠕動運動を続けて食卓に着くと、ムクリと体を起こして半開きの瞳で俺を睨みつけた。
「…その中は…どうなってるの?器用に動いてるけど…どうやって動いてるの?」
彼の纏った布団を指さしてそう言って、ニヤける顔をそのままにちゃぶ台を挟んだ向かいに腰かけて、首を傾げ続けてやった。
背筋と腹筋のバランスが良いのかな…
真似しようと思っても…こんな芋虫みたいに、動けない…
「はぁ、うるさいなぁ!良いだろ?俺がどんな動きをしようと勝手じゃないか!」
豪ちゃんの兄貴はいきり立ってそう言うと、疲れた芋虫の様に食卓に頭を乗せて二度寝し始めた…
何度見ても…この光景は、滑稽だ…
「惺山…こっちに来て?」
「ほいほい…」
あの子が俺をお呼びだ!
ピクリと反応した兄貴を無視して、豪ちゃんの元に駆けつけた俺はあの子が差し出したお玉の中を覗き見て首を傾げた。
「…お味、見て?」
そう言ってフゥフゥするあの子を見つめると、可愛い唇をそっと親指で撫でて言った。
「とっても…甘くて、美味しそう。」
「あ…」
頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませるあの子に、そっと顔を寄せて可愛い唇を食んで言った。
「豪ちゃ…」
バシンッ!
「うぉおいっ!おぉいっ!あんたには遠慮とか、恥じらいとか、そう言うもんは無いのか?!」
なぁんてことだ!豪ちゃんの兄貴が…俺を引っ叩いた!
驚いた豪ちゃんが体を固める中、兄貴はあの子が差し出したお玉の中身を啜って豪ちゃんを見つめて頷きながら言った。
「んまい!はい、お終い!」
「ん…もう…」
悲しそうに眉を下げてそう言った豪ちゃんは、物足りなさそうに口を尖らせて卵を割り始めた。
きっと、もっとイチャイチャしていたいんだ…!
可愛いじゃないかぁ…
「…手伝うよ?」
俺は一発の平手打ちなんかじゃ、めげない男なんだ…
豪ちゃんの背中に覆い被さって、クスクス笑う豪ちゃんを胸の中に入れしまうと、あの子の後ろから手を伸ばして卵を割った。
「ふた~つ…みっつ~…」
合計3個の卵を割り終えると、あの子が拭いてくれる指先を見つめながら、鼻の下を伸ばす。
あぁ…可愛い…可愛い…!
「じゃあ…混ぜ混ぜして?」
俺を見上げてあの子がそう言うから、体を揺らしながらボールを手に持って混ぜ混ぜする!
「まぁ~ぜ、まぁ~ぜ!」
「はぁ~~!気持ち悪いな!!」
ラブラブな俺たちが目障りなんだ…小林先生の彼氏の豪ちゃんの兄貴はそう言うと、俺の肩を掴んで豪ちゃんから引き剥がした。
そして、未だに揺れる俺の体を手で止めて、深いため息を吐きながら言った。
「…10が最高だとしたら…俺の前では、3で終わらせてくれ…耐えられない!」
…本心だろう。
カップルのイチャ付き程、他人にとって害悪な物は無いからな…ましてやそれが兄弟の物となると、より害悪になるんだから不思議だ。
「分かった…」
コクリと頷いた俺は、切実な兄貴の嘆願を聞き入れて豪ちゃんにベタベタし過ぎる事を少しだけ抑えた…
これを“共生”や“譲り合い”なんて言うんだ。
そんな俺たちを横目に見ながらクスクス笑った豪ちゃんは、手慣れた様子で卵焼きを焼き始める。
豪ちゃん…
昨日…君が居なくなったって分かった時…俺は狼狽したよ。
もう二度と会えないんじゃないかって、とても怖かった。
君は…毎日、そんな気持ちで過ごしていたんだよね。
でも…どうしてかな…
昨日の夜、君を家まで送ったあの時。君は、別れ際の俺を見て…微笑みかけたね。
まるで…腹をくくったみたいに、穏やかな笑顔だったのが印象的だった。
あんなに動揺して、あんなに我を忘れたのに…今朝だって、いつもと変わらない笑顔を見せて…落ち着いている。
この子は、きっと、覚悟を決めたんだ…
俺を失いたくないともがき苦しむ事を止めて、交響曲が出来上がるまで、俺の傍に居る事を…決心してくれた。
本当は、一日でも早く自分から離してしまいたいだろうに…
堪える事を選んでくれた。
俺の…わがままを聞いてくれたんだ。
…お前は悪魔なんかじゃない、天使でもない…俺の可愛い大切な…尊い人だよ。
ありがとう…豪ちゃん…
「いただきます!」
豪ちゃんの隣に座って両手を合わせてそう言うと、目の前の兄貴がどんぶりを片手に持って米をかっ込む姿を横目に、可愛いあの子が茄子の漬物を乗せてくれるのを、じっとお茶碗を差し出して待ってる…。
「しょっぱい…?」
「ちょっと、しょっぱい…」
俺がそう言うと、豪ちゃんは首を傾げて漬物と一緒にお米を箸で掴んだ。そして、俺の口に運んで言った。
「お米と食べてごらん…?」
「ん…」
そう言って口を開くと、あの子が口に運んでくれた、茄子の浸かり過ぎた漬物とご飯をモグモグと食べて言った。
「ちょうど良い…」
「そうでしょ?」
でも…今日中に食べないと、もうお茶漬けにするしかない位、しょっぱくなってる…
「ん、小松菜…柔らかい!」
お味噌汁の中の小松菜を食べてそう言うと、あの子はニコニコの笑顔を俺に向けて言った。
「採れたてだからね?栄養がたくさん入ってるよ?」
あぁ…
豪ちゃんとなら、俺は農業をしても良いって…思えちゃうよ。
腰に負担がかかっても…肉体労働でも…何でも、出来る気がする…
「豪、さつまいもは育ってるのか…?」
そう言うと兄貴は空になったどんぶりを豪ちゃんに差し出して言った。
「おかわり!」
「はいはい…」
あの子は慣れた様子でどんぶりを受け取って、台所の炊飯器へと向かった。
「ふふ、さつまいももしっかり育ってるよ?ただ、もう少し寝かせるの。収穫したら惺山の所の庭で焼き芋を焼こうね?」
あの子はケラケラ笑ってそう言うと、兄貴に山盛りの米を手渡して、俺の隣に座り直した。
焼き芋か…良いな…
「卵焼きが旨い!」
そんな兄貴の声を聞き流して、可愛いあの子を見つめながら、惚けて、幸せをかみしめてる。
そんな俺に笑顔を向けて、豪ちゃんが卵焼きを俺のお茶碗に乗せて言った。
「惺山…ぼんやりしてると、兄ちゃんに全部食べられちゃうよ?」
ふふ…
「だって…お前が、可愛いから…」
そう言って微笑みかけて、頬を赤くしたあの子の顎をチョンと撫でて触った。
こんな毎日がずっと続けば良いのに…
この子の隣で、この子が作ったご飯を食べて、手を伸ばせば触れられる距離に必ず居る様な…こんな生活が…
ずっと続いてくれたら良いのに。
「ごちそうさまでした…!」
両手を合わせてご馳走様をすると、お茶碗を集めようと手を伸ばした俺に、豪ちゃんの兄貴がモゾモゾと言った。
「じき、東京に…戻るの…?」
あぁ…
口元を一文字に結んで、豪ちゃんの兄貴を伏し目がちに見て言った。
「そうだよ…。交響曲を書き終えたら、ここを離れて東京へ戻る。」
「豪が…言ったから?」
続けてそう聞いて来る兄貴を見つめると、軽く頷いて言った。
「そうだよ…。俺はね、豪ちゃんのお願いには弱いんだ…」
「それで…良いの…?」
俺を射るような目つきで見つめると、豪ちゃんの兄貴が続けて言った。
「もし…全くの見当違いで、東京に戻った後…死んだりしたら…?」
そんな彼を見つめ返すと、じっと瞳の奥を見つめて言った。
「…死なない。」
そんな事…なってみなきゃ、分からない。
それでも…俺は正面から見つめて来るあの子の兄貴にそう言った。
そして、隣でポタポタと涙を落として俯く、あの子の頬を撫でて、自分に顔を向かせて言った。
「…この子が、俺を守ってくれるから、死なないんだ。」
それが間違いでも…見当違いでも…どうでも良いんだ。
この子が安心出来るのなら、それで良い。
もう…怯えて、震えて、過ごして欲しくない…
可愛いこの人に…安心を提供出来るのなら、何だって言う事を聞く。
「…そうか。」
豪ちゃんの兄貴はポツリとそう言うと、珍しく自分のどんぶりを台所の流しまで持って行って、水に浸して、フラフラと洗面所へと向かった…
…ん?
いつもと違う兄貴の様子に、隣に座ったあの子と見つめ合って一緒に肩をすくめると、お茶碗を重ねて後片付けのお手伝いをした。
「…小松菜はね、ナムルにしても美味しいんだよ?茹でた小松菜に、ごま油と…中華の素を少しかけて…お砂糖も少し入れて、ゴマを掛けるだけ。簡単でしょ?…今度作ってあげるね?」
「うん…!食べたい!」
犬みたいにウハウハして喜んだ勢いのまま、お茶碗を洗うあの子の背中に抱き付いて、腰をヘコヘコ動かした…
最低だろ…?
そうなんだ。でも、俺は今ワンちゃんになってるから、セーフなんだ!
それに、そろそろ…兄貴の、うぉおい!って突込みが入る筈なんだ…
なのに…いつまで経っても突っ込んで来ないから、俺も止め時を測りかねてる。
「ん~~!豪ちゃぁん…!豪ちゃぁぁん!」
「ん…もう!やめてよっ!」
止め時が分からず興奮してくると、かなりエロいストロークで腰を動かして、あの子に怒られて頭を引っ叩かれてしまった…
ちぇ…
俺としたことが、引き際を間違えたみたいだ…
兄貴の合の手の様な突込みが無いと…調子が狂うな。
おずおずと豪ちゃんから体を離して、ちゃぶ台の上を拭いていると、豪ちゃんの兄貴が俺の目の前に立って言った。
「…俺は、健太。(けんた)豪の3つ上の兄貴。」
歯磨きをしながら突然の自己紹介を始めた彼は、俺に手を伸ばして言った。
「よろしく…」
へ…?
「俺は…森山惺山。豪の大事な人。よろしく…」
訳も分からずそう言って彼の手を握り返すと、健太はふ~ん…みたいな声を鼻から出して踵を返して、洗面所に戻って行った。
…豪ちゃんは確かに変わっている子だ。
だけど…この兄貴も、健太も…十分に変わっていると、俺は思った。
「豪ちゃん…ご馳走様。また後でね…」
後片付けを済ませていつもの様にそう言うと、台所で俺を振り返ったあの子が言った。
「うん、惺山…。また、後でね…」
にっこりと微笑んだ笑顔は、いつもの寂しそうな悲しそうな瞳ではなく、穏やかで…優しい瞳だった。
「豪~!兄ちゃんも行くぞ!」
玄関に突っ立った俺を押し退けて靴を履いた健太は、豪ちゃんに元気にそう声を掛けた。その様子を見て、ため息を吐いた豪ちゃんは、やれやれ…と、手を拭きながらやって来て言った。
「はぁい。兄ちゃん…気を付けてね?行ってらっしゃい。」
ハッと思い出した様に顔をしかめた健太は、俺を横目に見て言った。
「…兄ちゃんは、まだ、警戒態勢を解除してないからな!もし、今日…帰って来た時、また変な書置きなんて残してたら、許さないかんな!」
「ん…もう…」
バツが悪そうに眉を下げてそう言うと、豪ちゃんは健太の手を掴んで自分の頭の上に置いた。そして、まん丸の瞳を潤ませると上目遣いに言った。
「ほらぁ…してよ。いつもみたいに…ポンポンって、して?」
可愛い…
こんな弟、ダメだろ?
間違いが起きる直前だぞ…?
「…ふんだ。」
まんざらでも無い様子でそう言った健太は、豪ちゃんの頭をポンポン叩いて言った。
「行ってくる!豪!」
「うん、行ってらっしゃい…気を付けてね~!」
気を付けるさ。
…そりゃ、こんな可愛い弟がいたら、何にだって、気を付けるさ。
通り過ぎる人が、もしかしたら刃物を所持してるかもしれない!って思いながら通り過ぎて、食べる物が、もしかしたら毒物が入ってるかもしれない!って思いながら、食べるさ。
健太に押し出される様に玄関を出ると、おずおずと歩きながら振り返った。
そこには…いつもの様に俺を見つめる、ふたつの真ん丸の瞳…
いつもと違うのは…あの子の瞳が不安に怯えていない事だけ。
それは…醸し出す雰囲気さえも変えて、見つめ返した俺の表情さえも…穏やかに変えて行く…
愛しているよ…豪ちゃん。
俺の可愛い人…
次の瞬間、あの子を見つめる俺の耳の奥で“You Are My SunShine”なんて…外国の曲が流れ始めるんだもん。口元を緩めて笑ったよ…。
まさに、君は俺の太陽だ…
バイクに跨ってヘルメットを付けた健太を横目に見ながら、頭の中のBGMに体を揺らして、彼の頭をポンポン叩いて通り過ぎて行く。
「健太、気を付けてな~!」
「お、おぅ…」
彼は豪ちゃんの事を言えないくらい、変わってる。
芋虫の様に蠕動運動が出来たり…弟への偏執的な執着心を隠さなかったり、ご飯を毎日どんぶりで二杯食べる事をノルマにしたり…十分変わってる。
クスクス笑ってバイクのエンジン音が遠ざかって行く音を背中に聞きながら、日が昇って来た帰り道を、テクテクと歩いて徹の実家へと戻った。
「コッコッコッココケ~!!」
垣根を抜けて敷地に入ると、パリスが俺に駆け寄って来て、何かを訴えかける様にしきりに首を動かしてみせた…
「どした…パリス…」
俺を誘導する様に先を歩いて進むパリスを追いかけると、庭に、黒いまだら模様の…雄鶏の姿が…
「な、なぁんだ、お前はっ!!」
咄嗟にパリスを抱き抱えて、威嚇する様に大声を出して、追い払おうと雄鶏を追い掛け回した。
どこの…鶏だ!
俺のパリス嬢に近付くなんて…!許せない!!
黒い体で格好つけやがって!!
「あっち行け~~!こっちに来るな~~!」
そう言いながら走り回る俺に恐れをなしたのか…雄鶏は、負け犬の様に裏の草むらへと逃げて行った…。
息を切らして草むらを睨みつけて、ふと、腕の中のパリスを見下ろした。彼女は俺を見上げたまま、喉の奥を鳴らして言った。
「コッコッコココケ…」
うん。なんて言ってるのかなんて…分からないさ。
でも、きっと…こう言ってる。
…惺山って格好いい!
「そんな事ないさ…パリス。男なら…当然の事だ。」
そう言ってパリスの小さな頭を撫でると、胸に抱きなおした…
野良の雄鶏が麗しいパリス嬢の存在を知った…
これは、うかうかして居たら…おかしな事態が起こりかねないぞ…
パリスを小脇に抱えたまま玄関を入って、いつもの様に雨戸を開けて外の空気を部屋の中に通す。そして、あの黒い雄鶏が消えた草むらを睨み付けながら、段ボールの中にパリスを入れて縁側に腰かけた…
…一体、どこの馬の骨だ…!!
「あんな奴に心を許したらダメだ。あいつはそこらじゅうのメスと交配してるはずだ。嫌だろ?そんなの…お前には相応しくない!」
「惺山!来たよ?」
段ボールの中に話しかけている俺に声を掛けた豪ちゃんは、首を傾げながら近づいて来て、段ボールの中を覗き込んだ。そして、上を見上げるパリスを見つけると、首を傾げながら俺に言った。
「どうして、ここに入ってるの?」
「黒い雄鶏が庭に出たんだ!パリスを狙ってた…!この子を放し飼いにしたら、知らないうちに孕まされてしまうかもしれない!!」
両手を頬に当てて絶叫しながらそう言う俺を見て、豪ちゃんはケラケラ笑って言った。
「山の向こうで、黒さつま鶏を育ててる養鶏家がいるんだ。きっと、その人の所から逃げて来た子なんだ…。捕まえて返してあげよう。」
おもむろにパリスを抱き抱えた豪ちゃんは、ニコニコしながら彼女を庭に放してしまった。
「だめだぁ!」
「…どうして?」
「妊娠させられる!」
「あ~はっはっはっは!」
ゲラゲラ笑って俺に抱き付くと、豪ちゃんは笑い涙を溜めた瞳を拭って言った。
「惺山…鶏は交配して着床すると有精卵を産む。それは、排卵で卵を産むのと変わらない形でだ。有精卵と無精卵、その違いがはっきりするのは…卵を温め始めた数日後なんだ。だから、無精卵を必死に温め続ける雌鶏も居るし、有精卵なのに関心を持たずに、温めない雌鶏もいる。」
そう言って俺の膝に座ると、あの子は指を立てて俺の鼻をトントンと叩きながら言った。
「妊娠なんて…大げさに騒ぐのは人間だけ。彼らにはそんな概念も…そんな欲求も無い。ただ、本能で…繁殖をして、本能で卵を温めて、本能で産まれて来た雛を守る。そして、仲間を増やして…群れを作るんだ。」
あぁ…全く、この子は…
「ドライだね…?」
あの子の頬を撫でてそう言う俺に、豪ちゃんはキョトンと瞳を丸くして言った。
「…事実だよ。毎日、産まれてくる命の素を僕は分けて貰って、卵焼きを作ってる。ねえ…?有精卵の中で、育ち切らないで死んでいく子も居るし、産まれても…大人の鶏に踏まれて命を落としてしまう子もいる…それは、可哀想な事かもしれないけど…毎日起こる、事実なんだ。」
そう言って俺の頬を撫で返すと、あの子は伏し目がちに眉をひそめた。
「人の命…鶏の命…肉になる為に産まれて殺されていく家畜の命…どれも変わりない…命。軽かったり…重かったりするのは、全て、受け取る側の…主観のせいなんだ。」
俺の襟足を指先に絡めながらそう言うと、あの子は焦点の合わない虚ろな瞳でぼんやりと遠くを見ながら続けて言った。
「僕にとったら…あなたの命は何よりも尊い。でも、それは僕の主観…。事実は、有精卵の中の命と同じ…。そして、僕の命も…同じ…」
あぁ…
この子は、いつも“死”について考えすぎているから…こんなにも達観した死生観を持っているのかな…
まるで、”死“を理解する事で、やり場のない思いを納得しようとして来たみたいだ。
「…豪ちゃんは、鶏博士になれるね?」
虚ろになったあの子の瞳を覗き込んで、可愛いほっぺをプニプニして抱きしめた。
卵の中の…命と同じ。
それは数日過ぎないと生理現象で生み出される卵と何ら変わりのない…命…
俺の命も…この子の命も…同じ。
家畜や、ペット…差別を受けて迫害される人間も、差別をして驕る人間も…同じ。
みんな、卵の中の命と同じ…
それを軽い…重いと選別するのは…全て、人の都合の良い“主観”…
事実は、同じ…
真理だ。
「お前は…本当に、よく考える利発な子だ。」
感心した様に首を傾げてそう言うと、澄ました顔をするあの子の頭を優しく撫でた。
俺はこの子の見た目の可愛さも好きだけど、こんな風に哲学を語る姿も好きなんだ。人はこれをギャップ萌えなんて言うのかな…?可愛らしい顔をしながら、命について卵と同じなんて言ってのける…そんなこの子に、時々胸を鷲掴みされる。
視線を庭先に移して、雄鶏を探し回るパリスを見つめながら豪ちゃんに聞いた。
「…では、雌鶏のパリスが雄鶏と交配しても、それは自然の事で、レイプされる!とか…忌々しき事態だ!と、騒ぐのは…俺の主観って事…?」
あの子は俺の胸に顔を付けてクスクス笑うと、顔を見上げて言った。
「そうだよ。惺山…それは、主観だ。」
木原先生が、この子に”主観“なんて言葉を教えて、豪ちゃんは水を得た魚の様に、何でも主観と主張する様になった…
前言を撤回しよう。
考える事は良い事だけど、何でもかんでも“主観”と主張するのは、ただの偏屈なひねくれ者だ!得意気になって、さも賢そうに振舞ったとしても、頭の中で考える事と、実際の経験は全く違う様に、人の心なんて、言葉では表せない様な感情に満ちている。十人十色の心の模様があって、それのどれも、理屈に合った様な考え方や合理的な判断を下すとは限らない。
この子は、まだ15歳。経験値が少ない上に、人の忠告なんて聞き耳を持つ筈の無い、強情の頑固者だ…
そんな机上の空論者、賢山賢太郎(かしこやまかしこたろう)な豪ちゃんには、主観に溺れてドロドロにトロけちゃう様な感覚も…味わう必要がある。
なぜなら、影を見ずして…光は見れないからだ!
ひとり頭の中で納得すると、何度もコクコクと頷いて、膝に乗って俺に甘える豪ちゃんを抱き抱えて、立ち上がった。
「わぁ~!惺山は力持ち!力持ち!」
ケラケラ笑って喜ぶあの子を布団が敷きっぱなしの寝室へ連れて行くと、ゆっくりと布団の上に下ろしてあげた。
「ん、もう…!朝になったら布団は畳まないと…!カビが生えるよ?」
そう言って布団を畳み始めたあの子を抱きしめて、背中を支えたままお尻から一気に体を持ち上げて、布団の上に沈め込んだ。
「え…?!なぁに?」
キョトンと首を傾げるあの子に覆い被さってニヤリと口端を上げて見せると、細い首に顔を埋めて、野獣の如く唇で噛みついた。ゴリッと完食が分かるくらい力を込めて甘噛みしながら、鼻からあの子の匂いを嗅いで腰を擦り付ける様に動かした。
「豪ちゃん…豪ちゃん…!」
止まらなくなった欲情は、年齢の老いを超越するんだ!
「ん…ダメだよ、惺山…今日、てっちゃんと…」
てっちゃん…?!
「なぁんだよ…!」
哲郎と一体何を約束したんだ…!
ムスッと頬を膨らませて苛ついたまま体を起こすと、あの子を後ろから抱きしめていじけた。だって、俺は、豪ちゃんとふたりきりで、仲良く遊びたかったんだい…
不貞腐れた様に鼻息を出して、目の前の赤くなった細い首を見つめながら舌先でぺろりと舐めた。そして、そのまま治まらない欲情をぶつける様に、豪ちゃんのズボンの中に手を入れて、半勃ちのモノを握って撫でた。
「ねえ、哲郎と何するの…?」
あの子の首を舐めながら意地悪にそう聞いて、体を捩る豪ちゃんの背中をきつく抱きしめた。
豪ちゃんは、勃起したモノを扱き続ける俺の手に、自分の手を重ねて止める様に力を入れて言った。
「んん…てっちゃんと、庭で…」
庭で…
青姦をするのか…?!
けしからん!!
苛立つ気持ちのままに、あの子の半ズボンを下げて剥き出しになった可愛いモノを強く握って扱くと、嫌がっていたあの子の手が俺の腕を掴んで快感に爪を立てる。
「んんっ…!あぁ…ん!せいざぁん…はぁはぁ…んんっ!」
可愛い…
ちょっと触っただけで、この子はすぐにトロけちゃう…それは大好きな俺に触られているって言う“主観”のせいだ。
「じゃあ…哲郎が来るまでは良いだろ?」
あの子の耳を食みながらそう言うと、快感に仰け反るあの子の体に手を這わせて、胸を撫であげながらタンクトップを捲り上げていく。
可愛いんだ…
この…仰け反った体に、ピンと立った…エッチなサイズの乳首が、堪らなく可愛い…
クラクラしながらあの子の頬を舐めて、低くて意地悪な声で言った。
「あぁ…豪ちゃんってば、こんなにすぐ気持ち良くなって…もう、俺が居ないとダメじゃない…」
あの子の耳元でクスクス笑って、捲り上げたタンクトップの下に見える可愛い乳首を指先で摘んで捩じってあげると、俺に虐められて興奮した豪ちゃんは頬を真っ赤に染めて息を荒くして悶えた。
「はぁん…!あっああ…ん、気持ちい…惺山、気持ちいの…」
身を捩って俺の胸に頬ずりする豪ちゃんの顔を覗き込んで、満足げに口元を緩めて笑うと、誘う様に言った。
「キスして…豪ちゃん…」
「ん~~!」
堪らんわい…そんな言葉が漏れ聞こえて来そうな唸り声をあげた豪ちゃんが、両手を伸ばして俺の首に掴まった。そして、吐息が溢れる唇を俺の唇に近付けて、グラグラと瞳を揺らして言った。
「大好き…」
「…は、だったら、哲郎が~なんて言うなよっ!萎えるだろっ?!」
「んんっ!いやぁ!大好きなの…!大好きなのぉ!」
柔らかい唇が俺の唇に触れて、可愛い舌が口の中に入って来る感覚に、満足げに口元を緩めて笑った。
あぁ…可愛い…
「もっと…絡めてよ。もっと強く吸って、絡めて…気持ち良くしてよ…」
柔らかい髪を撫でてそう言うと、頬を真っ赤にしたあの子が瞳を潤ませながら頷いて、俺の唇に再びキスをくれる。
俺に扱かれる度に、俺に摘まれる度に、体をビクビクと震わせて、可愛い口から喘ぎ声を漏らしながら、必死にキスしてくるんだ…
エロイだろ…?
堪らない…
「あぁ…こんなにして、もう…イッちゃいそうじゃないの…」
クッタリと体を預けて喘ぐだけになったあの子の唇にキスしながらそう言うと、あの子はきつく扱く俺の手に自分の手を添えて言った。
「はぁはぁ…んん…イッちやうの…」
はぁ!可愛い!
「だめだよ…」
意地悪くそう言って、あの子の手に自分のモノを握らせて言った。
「…ほらぁ、自分でしてごらん?」
「はぁん…なぁんでぇ…んんっ!せいざぁん…!」
何でって?
だって、可愛いんだもん!
「うっうう…はぁはぁ…ん、あっ…んん…」
唇を震わせながら、言われた通りに自分のモノを握って扱くあの子を見つめると、仰け反った体に目立つ可愛い乳首を両手で摘んで、あの子にキスしながら微妙な加減を加えてつねってあげる。
「ん~~!んふっ…んん…あふっ…ん…」
自分に…Sっ毛がある事は、今まで生きてきた中で何となく感じていた事。
でも、この子を前にすると…そんな”何となく“なんて吹っ飛ぶ程、焦らして、意地悪な事を言って、虐める事の悦びを体中に感じてる自分が居て、改めて自覚するんだ。
…俺はSっ毛があるみたいだ。
「あ~…可愛い。豪…イッても良いよ…」
トロけ切ったあの子の瞳を見つめながら、あの子の唇を舌で舐めてそう言うと、自分のモノを扱くあの子の手を上から掴んで強く握った。
「はぁあん…!イッちゃう…イッちゃうぅ…!んん…あっああん!」
ビクビクと腰を震わせてイッたあの子は、自分の手に付いた精液をぼんやりと眺めながらクッタリと体を俺の中に沈めた…
あぁ…イッちゃった…可愛い…
「豪ちゃんは…ほんと、エッチな子だね…我慢出来ないの?」
クスクス笑いながら、あの子のイッたばかりのモノを手のひらに乗せて、優しく親指で撫でて仰け反る首筋に舌を這わせた。
「はぁはぁ…あぁ…惺山…ん…」
だらしなく開いたあの子の口から、吐息と、喘ぎ声と、よだれが落ちる。そんな可愛い口元を舌でペロリと舐めて、クスクス笑いながらもっと虐めてあげる。
この子は…どМ。
だから、この位しないと興奮しないんだ。
これは本当に意地悪してるんじゃない、ギブアンドテイクの…プレイだ。
「ほらぁ…豪ちゃん、こっちを気持ち良くしてあげるから…自分でおっぱい触って気持ち良くして?」
両手であの子のモノを扱いてそう言うと、豪ちゃんは快感に腰を震わせながら俺の体に背中を預けて、仰け反った自分の胸を両手で撫でて言った。
「んふぅ…はぁはぁ…ん、気持ちい…イッちゃう…」
早くないか?2回目だよ?
そんな事…思っても言わないさ…
この子は感性の子だからね…感情が、感覚と繋がってる。
だから…興奮すると、“主観”がどうのこうの…なんてすっかり忘れて、うんと感じちゃうんだ。
それで良いんだ…
そして…それを、“乱れる”って言う。
この子は、トロけやすくて、乱れやすくて、大好きな俺に意地悪な事を言われて興奮しやすい…感性の子なんだ。
”主観“がどうのこうのなんて…下らない詭弁を使うなよ…先生の受け売りなんて、覚えるなよ…
沸々と頭の中に、苛立つ様な気持ちが芽生えていた事に気が付いて…先生に感化されたあの子に、ひとり占めしたいなんて…下らない幼稚な嫉妬心をぶつけてる。
…俺も、相当ガキなんだ…
この子は俺しか愛していないのに…先生との奇妙な仲良しぶりを見せつけられて、あの人の言葉に少なからずとも影響されてるこの子を見て…嫉妬していたんだ…
熱くなって行く豪ちゃんの背中を体の中に抱きながら、勃起して限界スレスレのモノを手の中できつく握って扱くと、自分の股間に当たるあの子のお尻に、自分のモノを押し付けてゆるゆると動かした。
「あぁあっ!せいざぁん…イッちゃう…はぁはぁ…らめぇん…」
小刻みに震えて、しなやかに体を仰け反らせるあの子の背中に舌を這わせてキスすると、細い腰を両手で掴んで、自分に引っ張り寄せた。そして、お尻を突き出す様な体勢になったあの子の小さな背中に覆い被さりながら、フルフルと震える背中をキスしながら舐めて行く。
あぁ、かんわいい…堪んない…
「どしたの…?ここに何して欲しいの…?豪ちゃん、惺山にお尻を向けて…エッチだね?ねえ…何して欲しいの?言ってごらん?豪ちゃんのお願いなら何でも聞いてあげるよ?だって…大好きなんだ…」
真っ赤になった耳たぶをペロペロと舐めて、あの子のモノを強く握って扱きながらそう言うと、豪ちゃんは腰砕けになって四肢を震わせた…
「ん~…!いやぁ…あっああ…らめぇ…ん、はぁはぁ…あっああ…」
ビクビク体を跳ねさせてそう言うから、クスクス笑いながらあの子のお尻にスウェット越しの勃起した自分の股間を当てて、もう一度耳元で言った。
「はぁはぁ…豪ちゃん…言ってごらんよ…ほらぁ…惺山に何して欲しいの…?」
敷布団に頬を付けてよだれを垂らして喘ぐあの子を見つめながら、豪ちゃんのお尻に自分のモノを擦り付けて、意地悪な言葉攻めに勤しんでいると、強く扱き続けるあの子のモノからトロトロとよだれが垂れて、手の中から落ちて行く…
エロイな…この子は、本当に…エロい…
「ん…んはぁ…あぁん…僕の…僕の、お尻…触ってぇ…」
唇をフルフルと震わせながら、豪ちゃんは惚けて赤くなった頬とトロけた瞳を俺に向けて、おねだりするみたいに…上目遣いをした。
あぁ…可愛い!
悩殺だ!
でも…細かい指示が無いじゃないか…
大事な事だよ…?
「良いよ…ここをこうするのが…好きなの?」
クスクス笑いながらあの子のお尻のほっぺをナデナデしてあげると、むんずと鷲掴みして、自分の勃起したモノをあの子のお尻の割れ目に当てて擦った…
「ふぅ…ぁん…ちが…違うのぉ…!挿れて…挿れてぇ…!惺山の指でして…僕の中に挿れてぇ…ん!」
グチョグチョといやらしい音を立て始めるあの子のモノを扱きながら、じれったいと、苛立った様に布団に顔を擦り付けてそう言ったあの子を見下ろして、口端を上げて満足げに言った。
「あぁ、ここに…こうするのが良かったの…?」
あの子の中に指を入れて、中を撫でる様に指先に力を入れながら何度も出し入れしていくと、よだれを垂らしたあの子のモノが、今にもイキそうにギンギンに硬くなった。
「あぁ…だめだよ。我慢して…何度目だよ…」
クスクス笑ってそんな言葉をぶつけても、惚けたまま快感に持って行かれてしまった豪ちゃんは、恍惚の表情を浮かべて、喘ぐぐらいしか答える事が出来なくなっている。
そんなあの子の乱れっぷりに…口元を緩めて笑った。
エロい…
滅茶苦茶…エロい…
「豪ちゃん…惺山の、勃起して痛くなっちゃったよ…お口でして…」
そう言ってスウェットのズボンを下げると、惚けたあの子の目の前に出して言った。
「噛まないでね…」
そう…それだけが、心配だ…
「はぁ…あぁ、気持ちいい…」
俺のモノをペロペロ舐めながら口の中に入れて、可愛い唇で扱く様に何度も頭を上下させるあの子を見て…速攻でイキそうになる…!
やばい…
惺山って、口ほどにも無く早いね!って言われちゃう!
いいや、この子はそんな事言わない…
ただ、悲しそうな瞳で俺をジトジトと見つめるだけだ…!
「あぁ…豪ちゃんのも、してあげる。」
そう言ってあの子の股間を自分の目の前に引っ張って持って来ると、あの子が戸惑う中、勃起してよだれを垂らしたあの子のモノを口の中に入れて、強く吸いながら扱いた。
「はぁあん…!だめぇん…だぁめぇ…!」
「豪…お口から出さないで…ほらぁ…ちゃんと咥えてよ…」
快感に震えるあの子の唇にモノを押し当てて、可愛いお口の中に無理やりねじ込んでしまうと、ゆるゆると腰を動かした…
「あぁ…気持ちい、やばい…イキそうだ…」
あの子の口の中で勃起したモノをねっとりと動かしながら、目の前のあの子のモノをいやらしく扱いて口の中で吸ってあげる。
「んん~~~!!」
イキそうなんだ…こんなに体をビクビクさせて…めっちゃ可愛い…
程なくしてあの子が俺の口の中でイクと、体を起こして、柔らかい髪を撫でながら、自分の股間にあの子の顔を押し当てて、腰をゆるゆると振った。
「んっぐふ…!んん…!」
嫌がるあの子の顔を抑え付けて、何度も何度も喉の奥を吐いて、強制イラマチオしてやる。
「あぁ…イキそうだ!」
そう言って腰を震わせた俺は、咄嗟にあの子の喉の奥からモノを引き出して、小さな舌の上で射精した。
「ん…!」
さすがに怒ったのか、豪ちゃんは惚けた俺の胸を何度もグーでぶん殴って来た…
ウケる…
でも、これは普通のカップルでやったら…別れしか待っていない非道なプレイだ。
決して真似はしちゃダメだ…
ドМとドSじゃない限りは…受容範囲を軽く飛び越えてしまうからね。
「なぁんだ…」
そう言ってあの子を軽々と押さえつけて、布団に沈めこんでしまう。そして、細い体に覆い被さりながら、あの子の体を舌でねっとりと舐めた。
「嫌だったの?ふふ…ごめんね…」
口先だけで謝ると、あの子の乳首をペロペロと舐めて、すぐに感じて仰け反って行く腰を掴んで自分に引き寄せた。
「豪ちゃ~ん!」
は…?!
この声は…哲郎氏。
縁側で豪ちゃんを呼ぶ哲郎の声が聞こえた。
俺は、開きっぱなしの寝室の引き戸を眺めて、腕の中で惚けたあの子に言った。
「どうする…?豪ちゃん…哲郎が、豪ちゃんとエッチしたいって言ってるよ?」
「ん~!」
怒ったあの子が俺の頭を引っぱたくから、俺はニヤニヤしながら言った。
「エッチな声が聴こえちゃうね…?」
惚けて潤んだ瞳をまん丸にした豪ちゃんは、俺の胸を押して自分の体から退かそうと、もがき始めた。
はっは~!ダメさぁ…!
俺はドSだからね…
あの子の暴れる両手を押さえつけて、勃起した自分のモノをあの子のモノに擦り付けながら、可愛い乳首を舌先で転がして口に含んで吸った。
「んんっ…はぁはぁ…らめぇ…ん…!気持ちい…」
「豪ちゃん、声が大きいと、哲郎が仲間に加わりたくなっちゃうよ?」
囁き声にすら感じてしまう豪ちゃんは、十分にトロけ切ってる。そんなあの子の中に自分のモノを沈めて奥まで押し込んでしまう。
「ん~…」
「豪ちゃ~ん!いないの~?」
すぐ、壁の向こうで…バリくそイケメンの哲郎が、この子を探して回ってる…
それを想像しただけで…勃起したモノがもっと興奮していくのは、背徳感ってやつなのか、それとも俺の性癖か…?!
いいや、優越感だ…!
可愛い顔が喘ぐのをじっと見つめて待ちながら、ゆるゆると腰を動かし始めると、恥ずかしそうに頬を真っ赤にしたあの子が、声を漏らさない様にか…口を押さえながら、気持ち良さそうに揺すられている姿を見て…
火が付いちゃった!
口元を抑える手を掴んで布団に押し付けると、あの子の体に覆い被さりながら腰をねっとりと動かして、あの子に聞いた。
「…はぁはぁ…豪、気持ち良い…?」
「んん…らめぇん…惺山、だめぇ…」
何がダメなんだよう…
こんなに気持ち良さそうに、ハフハフ言ってるのに…
「じゃあ…もっと、してあげるね…」
腰の位置を変えて、ねっとりとあの子の中を抉る様に腰を動かした。
その瞬間、細い腰がフルフルと震えて、顔を埋めたあの子の首筋に鳥肌が立って行くのが分かった。
「気持ちいの…?」
頬ずりしながらそう聞くと、あの子は堪える様な苦悶の表情を浮かべてコクコクと頷いてみせる。
「…声が出ちゃうの?」
ねっとりと腰を動かしながらあの子の顔を見つめてそう聞くと、あの子は潤んだ瞳を歪めてコクコクと頷いた…
「豪ちゃん?どこ行ったんだよ!まぁったく、今日、ここに小屋を作るって言ってたのに!」
そんな哲郎氏の悔しがる言葉にほくそ笑んで、快感に溺れる豪ちゃんの顔を見つめながら首を傾げて言った。
「豪ちゃんは…哲郎と小屋を作るよりも、惺山とエッチする方が好きなのにね…?」
「ばかぁ…」
弱々しくあの子が唇を震わせてそう言うから、ニヤニヤ笑いながらあの子にキスをして、腰の動きを早くする。
「はぁはぁ…らめぇ…イッちゃう…」
「おっさんと、どっかに行ったのかな…?パリス。知ってる?」
おっさんと、今からイクんだ…哲郎!
哲郎のぼやきを聞きながら、あの子の惚けて潤んだ瞳を見つめ続けて、キスを執拗にして舌を絡めて、あの子の中をガンガンに犯していく…
「あぁ…!豪ちゃん…イきそう…!」
快感を堪えながらあの子を見つめてそう言うと、惚けて潤んだ瞳のあの子と目が合って…だらしなく開いた唇から、震える舌先を見て…イッた…
…この可愛い顔は…反則だ。視覚で極まっちゃうんだもの…
ほぼほぼ同時にイクと…あの子のモノが吐き出す精液と、自分のモノが吐き出す精液が、あの子のお腹の上で混ざった。
「あぁ…気持ち良い…」
そう言って豪ちゃんのプニプニのお腹を拭いてあげると、腰を抱き寄せて、お日様の匂いがする柔らかい髪に顔を埋めて行く。
「豪ちゃん…豪ちゃん…可愛い俺の豪ちゃん…」
大事に大事に可愛いあの子を両手に抱きしめる俺に、豪ちゃんはそっと背中を撫でながら言った。
「惺山…大好き…」
あぁ…堪んない…
こんなに意地悪しても、怒らないで、逆に大好きなんて言ってくれるなんて…
絶対この子はどМだ…
「豪ちゃ~ん!居ないの~?…もう!」
「うぇっほん!」
わざとらしく大きな咳ばらいをした。
これは健太に教えて貰った…”俺、ここに居るよ?“というアピール方法だ…
顔を真っ赤にした豪ちゃんに胸を引っぱたかれながら、大急ぎで、シャツと脱ぎ捨てたパンツとズボンを穿いた。
そして、何食わぬ顔をして寝室の入り口から顔を覗かせて言った。
「哲郎、何か用…?」
「あ…おっさん…」
俺の顔を見た哲郎は、何かを察したように顔を背けるとボツリと言った。
「…なんか、ごめん…取り込み中だったの…?その…ひとりで…」
は…?!
ふたりですけどね?
「はは…どうしてそう思うんだ。ははは…」
余裕の笑みを浮かべてそう言う俺に、哲郎は首を傾げながら言い辛そうに言った。
「…なんか、スッキリした顔をしてたから…ひとりで、取り込んでたのかと思ったんだ。」
…ふたりですけどね?
「まあまあ…良いだろう…」
腑に落ちない…でも、まぁ良いだろう。
俺の登場に、キョロキョロと部屋の中を見渡し始めた哲郎に言った。
「豪ちゃんは…湖に水を汲みに行った。」
「はぁ?何の為に?」
確かに…咄嗟についた嘘にしては…最悪な嘘を吐いたもんだ。
怪訝な顔をする哲郎をジト目で見ると、縁側に腰かけてしみじみと言った。
「パリスに…良い卵を産んでもらう為だと…言っていた…」
「えぇ…?そんな…。湖の水って…そうなのか…」
んな訳無い!
しかし、急に納得し始めた哲郎を見つめて一安心した。
「豪ちゃんに用があるなら…また後で来たら良いよ…」
「ここで待ってる。戻って来るんだろ?」
哲郎はそう言うと、俺から離れた縁側に腰かけて、足元に寄ってくるパリスの頭をチョンチョンと撫でた…
…なんだと。
お前がそこに居たら…豪ちゃんが寝室から出て来れないじゃないか…
この縁側からは居間…台所までは一直線に死角なしに見渡せるんだ。そして、寝室は居間のすぐ隣…チョコンと顔を覗かせればすぐにバレる様なオープンな作りになっている…
どうした物か…
「なあ…おっさん…」
哲郎は俺を横目に見て言い淀むと、足元に視線を落として足をブラブラさせながら言った。
「…前、言ってた事。覚えてる?…ほら、豪ちゃんは…おっさんが居なくなれば…また普通に戻るって…俺がヤキモキするような事も無くなるだろうって…」
あぁ…覚えてる…
俺がお前に腹を見せて、降参した日だ。
「…覚えてる。」
あいつを見つめながら、あの時のことを思い出して、頷いてそう答えた。
哲郎は口端を片方だけ上げて、パリスを見つめながらヘラっと笑って言った。
「…どうしてか、そんな気がしないんだ。」
その言葉に…何も言えなくなった。
ふと、背後でこちらの様子を伺う…まん丸の瞳の視線を感じて、俺は黒い鶏が消えた草むらを指さして言った。
「そ、そう言えば…あ、あそこに…黒い鶏が現れたんだ。」
「えぇ…?」
怪訝な顔をする哲郎の腕を、強引に引っ張って、縁側から草むらまで連れて行った。そして、腰の高さまである草むらを指さしながら言った。
「豪ちゃんが言うにはね、あれは山の向こうの養鶏家の所の、黒さつま鶏だって言うんだ。でも、あいつはそんな可愛い名前の鳥じゃない…。格好だけ付けた暗黒期師団の鶏だ。そして、俺の所の可愛いパリスの操を狙ってる。」
「どっかの誰かみたいじゃないか…」
哲郎はそう言うと、俺をジト目で見て肩をすくめた。
はは…言われてみれば、確かに…
つい口元が緩んでヘラヘラすると、スッと表情を戻して言った。
「あいつには懸賞金付いてないの?」
「…聞いた事ないな…」
なんだ…
哲郎に捕まえて貰って…早く心の平穏を戻したいのに。
「せいざ~~ん!」
そんな豪ちゃんのいつもの元気な声を背中に受けると、哲郎と後ろを振り返った。
あの子は俺が咄嗟に付いた嘘をカバーする様に、手にバケツを持って現れた。そして、パリスを追い掛け回すと、バケツから水をこぼしながら言った。
「パリス…湖の水だよ?丈夫な卵が…産まれるよ?」
ウケる…
「豪ちゃん!ほらぁ!材料持って来てんだよ?待たせんなよ!」
満面の笑顔になった哲郎は、ケラケラ笑いながらそう言って、一目散に豪ちゃんに駆け寄って行った。
あぁ…哲郎、ごめん。
その人は、俺の可愛い人なんだ…
俺は、突然現れた黒い鶏の様に…あの子をお前から奪ってしまった。
「ここ…?」
哲郎が足をトントンさせて豪ちゃんの顔を見つめてそう尋ねると、あの子は両手を動かして言った。
「うん、ここら辺…。藁を敷ける様な広さの…20匹くらい入るサイズの小屋…」
なんだ、工作か…?ははは、微笑ましいじゃないか…
眉を下げて二人の様子を眺めて縁側へ戻る俺に、豪ちゃんが声をかけて来た。
「惺山、ここに小屋を作るの。」
「あ~はいはい、好きにすれば良い…」
適当にそう答えて、縁側を上がった。そして、ほっと一安心した喉に、台所の美味しい水を供給してあげる。
はぁ~…ギリギリを行くお前が好きだけど、程々にしないといつか酷い目に遭うぞ…惺山。こらこら、全くだ!
「さてと…」
ピアノの部屋に籠って…交響曲でも、考えてみるか…
“半年”…なんて期限を切ったけど…本来なら、ボリュームのある交響曲の作曲なんて、何年も跨いで手がけるもんだ。
主要なメロディや構成が順調に出来たって…調整して、編集して、形をブラッシュアップして、納得のいく形に持って行くまで膨大な時間と労力がかかる物なんだ…
果たして、半年なんて短期間で…納得の出来る物が出来るのかな…
「豪ちゃん!そっち持って!」
「ん~!重いぃ!」
角材なんて使って…本格的な建築作業が庭で始まろうとしている…
そんな様子を、ぼんやりと台所から眺めると、軍手を何度も直すあの子を見て口元を緩めて笑った…
…あの子は、俺の言った”半年“という期限を信じて…覚悟を決めたんだ。
今すぐにでも離れてしまいたい気持ちを、丸っと抑え込んで…いつ死ぬのかも分からない俺を、見守る覚悟を決めた…
まるで…自分の体温で火傷をしてしまう金魚を、手のひらに乗せ続ける様な…そんな罪悪感と、恐怖心を引き受けてくれている。
いいや、これは…やまあらしのジレンマだ。
傍に居たいのに…傍に居る事が、出来ない。
自分の傍に居ると俺が死んでしまうと…心を痛めて、見えない血を流してる。
早く離れたいのに…俺がしがみ付くから、あの子は心を痛めながら、血を流しながら、笑顔で俺を抱きしめてる…
「はぁ…」
ため息を吐いて首を横に振ると、ピアノの部屋に行って、項垂れながらピアノに腰かけた…
「俺はいつ死んでも良い…でも、あの子が悲しむのは嫌なんだ…」
ポツリとそう言うと、あの子と演奏した”きらきら星変奏曲“をピアノで弾きながら、ぼんやりと空の五線譜を眺めた…
「豪ちゃ~ん!何してんの?俺もやる~!」
そんな元気な清助の声が聴こえて来ると、続けて大吉…晋作の声も聞こえ始めて…庭にはいつものギャング団が勢ぞろいした様だった…
哲郎の…豪ちゃんとラブラブタイムはあっという間に終わったな…
そんな余計なお世話を心の中で焼いて、ふと、気付くと、いつの間にか”愛の夢“なんて弾いている自分がいて、口元を緩ませて笑った…
「ふふ、俺は意外と、ロマンチックだな…」
そのまま、豪ちゃんを思い浮かべながら”愛の夢”を情緒を込めて弾いてみた。
激情的に盛り上がる後半部分で俺を愛してくれる…あの子への愛を込めると、主題をしっとりと美しく…穏やかなあの子の笑顔を思い浮かべて…胸が苦しくなる気持ちと一緒に、音色で奏でる。
「はぁ…豪ちゃん…」
深いため息を吐いて弾き終えると、続けて”亡き王女のためのパヴァーヌ“の繊細で、情景の豊かな旋律を、じっくりと弾いて楽しむ…
君を思いながら弾くと…
不思議だな。
全て、君の曲みたいになる…
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