6 / 8
エピローグ 午後三時のはじらいごと
引越し業者のトラックを見送った途端、祐司の身体は鉛のように地面に引きつけられた。部屋に戻り、そのままベッドに倒れ込んだ。
「やべー……このまま寝そう……」
睡眠一歩手前で後ろからの声に呼び戻された。
「荷物、今日中にほどくんじゃないんですか」
もぞもぞと身をよじって顔だけその方向に向けると、腕を組んだ竜が不機嫌そうに立っていた。
「明日にしない? 竜も疲れたでしょ」
時刻は午後3時。春の日差しは優しく眠気を呼んでいる。
「そうやって気遣うふりして、自分が寝たいだけじゃないですか」
そう言いながら竜は二人分の広さのベッドに近づいてくる。
「ほら、起きてください。夕飯いらないんですか」
祐司をベッドから引き剥がそうとした竜の腕が引っ張られ、竜はそのままバランスを崩した。祐司はすかさず竜を腕の中に収める。
「祐司さん、あの」
「昼寝しようよ、今日から俺らの部屋なんだから。ここで息抜きしないでどこでするの」
祐司が肩に顔をうずめると、竜は逃げるように身じろぎした。まだスキンシップには慣れないらしい。結局、諦めの悪い祐司に竜が折れた。
暖かい光が部屋に差し込む。今日は二人の門出を祝うかのように空がご機嫌だ。
突然、竜が首を押さえて起き上がった。
「どうしたの?」
「あんたのせいだろ!」
「なんのことだか」
「〜〜〜〜〜っ、変態! 俺、荷物ほどいてきます!」
竜は鼻息荒く部屋を出て行った。その様子を祐司はにやにやしながら見ていた。
「俺もおっさんかもなぁ」
竜の首筋には、小さな痕がくっきりと残っていた。
ともだちにシェアしよう!