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「浜口、ちょっといいか」
何が起きたのか状況が読み込めないまま、部長の早瀬さんについていった。痛いほどの視線を感じながら、誰もいない会議室に入った。
「まずいことになったな···」
そう言って早瀬さんは大きなため息をついた。
「今はどこで情報が漏れるか分からない。あの写真が外に出たら、新商品の話はなくなるかもな」
「そ、そんな···」
一生懸命考えた商品が発売されないのはどうしても避けたかった。
「浜口が悪いことをしたわけじゃないが、早めに
手を打ったほうがいいっていうのが上の判断だ」
「手を打つって···」
「···言わなくても分かるだろ。これからも一緒に仕事できると思ってたのに、残念だよ」
肩を叩いて早瀬さんは出ていった。
泣いたら負けだと思って、必死に涙を堪えて自分のデスクに戻った。
「浜口···大丈夫か?」
山西が心配そうに聞いてきた。
「僕の代わりにいい商品作ってね」
これ以上いたら泣いてしまうと思い、荷物をまとめて会社を出た。
帰り道、重い雲から雨が落ちてきた。折りたたみ傘は鞄に入れていたが、差す気にならなかった。ずぶ濡れになりながら家に着くと、そのまま玄関に座り込んで声を上げて泣いた。
気付いたら雨が上がっていて、夕日が窓から差し込んでいた。やっとの思いで立ち上がり、服を着替えた。山西から何回も着信があったが出なかった。
守に会いに行きたかったが、また写真を撮られないかと怖くなり行くのをやめた。ベッドに倒れ込み、いつの間にか寝てしまった。
目が覚めると、スマホが光っていた。また山西からだと思って見てみると、守からだった。折り返すと
すぐに電話に出た。
「守、どうしたの?」
「···慶、ごめん」
「何が?」
「ほんとにごめん···」
「だから、何が?」
「あの写真撮ったの、俺の奥さんなんだ」
「え?」
「···俺が浮気してると思って、つけてたみたい」
「ちょっと待って、奥さんって何?」
「既婚者だって言ってなかったっけ?」
何とも思ってない口ぶりに無性に腹が立った。
「聞いた覚えはないけど」
「奥さんとは離婚調停中なんだ。だから、離婚できたら慶と一緒になりたい」
あまりにも自分勝手な守の話を聞いてるのが馬鹿らしくなり、電話を切った。
あんな男と今まで付き合ってたかと思うと、情けなくて吐き気がした。
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