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水都−1−
負傷した衛兵の手当をしていると、銀髪の女の子が衛兵を連れて近づいてきた。
「ちょっとどいてもらえるか?」
小さな体からは想像もつかないような威厳のある声だった。衛兵から離れると、女の子が衛兵に手をかざして傷を治した。
「す、すごい···」
「あの子がべネールのキーパーだ」
後ろに立っていたクリスが教えてくれた。
「え!?」
「驚くのも無理はないな」
そう言いながら、女の子が笑った。
「す、すみません···」
「そのような反応には慣れておる。我が名はルル。べネールのキーパーであり、この国の女王じゃ」
頭が混乱していると、クリスが切り出した。
「魔物は最近よく出るのか?」
「うむ。石が盗まれてからというもの、毎日のように出てきており困っている」
「あんただったら魔法で一掃できるだろ」
「確かに、石があればあんな魔物は雑魚じゃのう」
意外と口が悪くて驚いた。
「だが、今は結界を張るだけで精一杯じゃ。お主には見えるはずだが」
街をよく見ると薄い水色の膜のようなもので覆われていた。
「水色の膜みたいなのが見えます」
「ほう、色まで分かるとはやはり只者ではないな。
お主どこから来た?」
「あ、えーと···」
クリスの言葉を思い出して、嘘をつこうとしたが
見透かされそうで正直に話すことにした。
「異世界から来ました」
「うむ、知っておる」
「知ってたのに聞いたんですか?」
「お主を試したのじゃ。名は何と言う?」
「試したって···。ケイです」
「後ろの大猿はケイの連れか?」
大猿と言われて、クリスは怒りで顔が赤くなった。
笑いを堪えながらクリスを紹介した。
「あの鍛冶職人の息子とは。確かによく似ておる」
「親父を知ってるのか?」
「当然じゃ。わしはこう見えて50才だからの」
「50才!?」
クリスと声が重なった。
「その反応も慣れておるわい」
そう言ってルルは笑った。
「衛兵に代わってわしの家でお礼をさせてくれ」
「いや、悪いが俺は先を急ぐ」
ルルは歩き出そうとしたクリスの胸に手を当てて、傷を治した。
「そう急がんでもいいではないか。お主の父の話を聞きたくはないか?」
「···わかった。じゃあ1日だけ世話になる」
「そうと決まれば、使用人にご馳走を用意するよう頼んでおくわい」
ルルは何だか楽しそうだった。
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