16 / 78

炎都−1−

クリスに抱きしめられた感触が残っていて、なかなか寝付けずにいた。何度も寝返りを打っていると、 クリスと目が合った。 「眠れないのか?」 「まだ···起きてたんですね」 「誰かさんの寝返りがうるさくてな」 「···ごめんなさい」 「冗談だ。ちょっとこっちに来い」 言われるがまま、クリスの隣に座った。 「俺が小さい頃、お袋がよくこうしてくれたんだ」 そう言うと、両手で優しく顔を包んだ。男らしい手から伝わる体温に鼓動が早くなった。 「どんな人だったんですか?」 「お袋はいつも優しくて強かった」 「クリスより?」 「俺なんかひとたまりもないな」 寂しそうに微笑むクリスの顔を両手で包んだ。 「僕にできることは何でもします。だから、無茶はしないでください」 「ありがとう、ケイ」 緑色の瞳に吸い込まれそうだった。 「お腹すいたー!」 マイルの大声に驚いて2人とも同時に手を離した。 マイルも起きてると思ったが寝言のようだった。 「ずいぶんデカい寝言だな···」 「···ですね」 「眠れそうか?」 「もう一回いいですか?」 顔を近づけると、おでこを叩かれた。 「調子に乗るな」 そう言って、背を向けて横になった。 「おやすみなさい」 「おやすみ」 クリスの広い背中を抱きしめたくなった。 翌日、朝一でルケーノに向かった。マイルに寝言のことを聞いてみたが、なんの夢を見ていたか覚えてないようだった。 昼過ぎにルケーノの入り口に到着した。衛兵にルルからもらった紹介状を見せると、すぐに中に通してくれた。 まずは腹ごしらえをしようと、酒場に入って料理を注文した。隣に座っていた見るからにいかつい2人組が声をかけてきた。 「あんたら、見ない顔だな」 品定めするように僕たちを見ていた。 「べネールから来た。ちょっと聞いてもいいか?」 「ああ、酒を奢ってくれたらな」 「わかった。石はどこにある?」 「あんたら、参加者じゃねぇのか?」 そう言って見せてくれたのは、1枚の紙だった。そこには2人一組で参加する大会の要項が書いてあった。 「これ見てください!」 マリルが指差したところには、大会の優勝特典として賞金と石の場所を教えると書いてあった。 「これって···」 「多分やつを捕まえるための作戦だろうな」 「募集は今日までだぞ。まあ、あんたらには悪いが 俺たちが優勝するけどな」 うるさい笑い声を無視して、クリスにどうするか聞いてみた。 「もちろん、俺たちも出る」 「でも···」 「やつは必ず来る。俺たちが勝ち上がっていけば、必ずやつと戦うことになる」 「そうですけど···」 「一緒に戦ってくれ」 クリスの真剣な眼差しに頷くしかなかった。

ともだちにシェアしよう!