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炎都−1−
クリスに抱きしめられた感触が残っていて、なかなか寝付けずにいた。何度も寝返りを打っていると、
クリスと目が合った。
「眠れないのか?」
「まだ···起きてたんですね」
「誰かさんの寝返りがうるさくてな」
「···ごめんなさい」
「冗談だ。ちょっとこっちに来い」
言われるがまま、クリスの隣に座った。
「俺が小さい頃、お袋がよくこうしてくれたんだ」
そう言うと、両手で優しく顔を包んだ。男らしい手から伝わる体温に鼓動が早くなった。
「どんな人だったんですか?」
「お袋はいつも優しくて強かった」
「クリスより?」
「俺なんかひとたまりもないな」
寂しそうに微笑むクリスの顔を両手で包んだ。
「僕にできることは何でもします。だから、無茶はしないでください」
「ありがとう、ケイ」
緑色の瞳に吸い込まれそうだった。
「お腹すいたー!」
マイルの大声に驚いて2人とも同時に手を離した。
マイルも起きてると思ったが寝言のようだった。
「ずいぶんデカい寝言だな···」
「···ですね」
「眠れそうか?」
「もう一回いいですか?」
顔を近づけると、おでこを叩かれた。
「調子に乗るな」
そう言って、背を向けて横になった。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
クリスの広い背中を抱きしめたくなった。
翌日、朝一でルケーノに向かった。マイルに寝言のことを聞いてみたが、なんの夢を見ていたか覚えてないようだった。
昼過ぎにルケーノの入り口に到着した。衛兵にルルからもらった紹介状を見せると、すぐに中に通してくれた。
まずは腹ごしらえをしようと、酒場に入って料理を注文した。隣に座っていた見るからにいかつい2人組が声をかけてきた。
「あんたら、見ない顔だな」
品定めするように僕たちを見ていた。
「べネールから来た。ちょっと聞いてもいいか?」
「ああ、酒を奢ってくれたらな」
「わかった。石はどこにある?」
「あんたら、参加者じゃねぇのか?」
そう言って見せてくれたのは、1枚の紙だった。そこには2人一組で参加する大会の要項が書いてあった。
「これ見てください!」
マリルが指差したところには、大会の優勝特典として賞金と石の場所を教えると書いてあった。
「これって···」
「多分やつを捕まえるための作戦だろうな」
「募集は今日までだぞ。まあ、あんたらには悪いが
俺たちが優勝するけどな」
うるさい笑い声を無視して、クリスにどうするか聞いてみた。
「もちろん、俺たちも出る」
「でも···」
「やつは必ず来る。俺たちが勝ち上がっていけば、必ずやつと戦うことになる」
「そうですけど···」
「一緒に戦ってくれ」
クリスの真剣な眼差しに頷くしかなかった。
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