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マイルが観客席に戻った後、緊張が襲ってきた。
「無茶しないでくださいね」
クリスに声をかけたが、返事はなかった。
「これより決勝戦を始めます!」
不安な気持ちを抱えたまま、ステージに向かった。
対峙している魔術士の表情はフードで見えないが、
口元は緩んでいるように見えた。
試合開始の音が鳴ると同時に、クリスが剣を振り抜いた。しかし、魔術士は人間とは思えないスピードで攻撃を避けた。足元を見ると、宙に浮いていた。
「戦士のあなたに興味はありません」
そう言うと、背後に黒い穴が現れ、ヘビに似た魔物が何体も出てきた。触手のように蠢いて、クリスの手足を縛った。
「クリス!」
「よそ見してる余裕はないですよ」
すぐそこまで魔物が迫ってきていた。
「ウィンドブレード!」
風の刃で攻撃しても、すぐに体が再生してしまい
逃げ場がなくなっていった。
「あなたの力はそんなものですか?」
一か八かルルから教えてもらった呪文を唱えた。
「ポセイドン!」
巨大な三本槍が魔術士めがけて飛んでいった。
確実に当たったはずだったが、魔物を盾にしたのか魔術士は倒れていなかった。
「なかなかの攻撃ですが甘いですね」
「そんな···」
腕輪は黒く変色していて、魔力は残り少なかった。
「あの戦士には死んでもらいましょうか」
そう言って、クリスの方に手を向けた。気付いたら
走り出していて、クリスを突き飛ばした。
「愚かですね」
目が覚めるとベッドに横たわっていた。体を起こそうとしたが思うように動かせなかった。視線を移すと、クリスが僕の手を握ったまま寝ていた。
クリスを突き飛ばしたところまでは覚えていたが、その後どうなったかは思い出せなかった。
「ケイ!目を覚ましたんですね!」
マイルは目を潤ませていた。
「マイル···泣いてるの?」
「泣いてません!」
そう言うと涙を拭いて、ぎこちなく笑った。
「試合は?」
「倒れたケイをクリスが場外に運んで、魔術士の
優勝が決まりました···」
「そっか···」
その時、クリスが目を覚ました。
「ケイ、大丈夫か?」
「クリス、勝手なことしてごめんなさい···」
「謝ることじゃない。俺も勝手に体が動いてたよ」
「クリスを守りたい一心で···」
「ありがとう。生きててよかった」
そう言って、優しく頬を撫でてくれた。
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