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地下道の奥から誰かが歩いてきた。
「慶、会いたかったよ」
現れたのは、この世界にいるはずのない守だった。
「···どうして?」
「決まってるだろ。慶に会いに来たんだ」
懐かしい笑顔にどこか安心してる自分がいた。
「···守には奥さんがいるでしょ」
「そんな悲しいこと言わないで」
現実じゃないと分かっていても体が動かなかった。
「もう一度やり直そう」
「もう顔も見たくない!」
そう言い放つと、守の手が伸び首を絞めた。
「慶がずっと邪魔だった。だから死んでよ」
絞める力がさらに強くなり、息ができなかった。
「···目を覚ませ···」
遠のく意識の中、声が聞こえた。
「ケイ、目を覚ませ!」
クリスの声がして、体が動いた。
「サンダースピア!」
守の体を真っ直ぐ貫き、泥のように崩れた。
「ケイ!大丈夫か?」
目を覚ますと、クリスたちが顔を覗き込んでいた。
「···何が起きたんですか?」
「原因は多分これです」
マイルが見せてくれたのは小さな葉っぱだった。
「この植物は幻覚を引き起こす作用があって、栽培は禁止されてるんですけど···」
「ノートに書かれてたのはこれのことかもね」
「それなら人が通らなくなったのも納得できるな」
地下道の壁一面に毒々しい緑色が生い茂っていた。
「マイル、どうすればいい?」
「燃やすのが一番です!」
「分かった」
体を起こして呪文を唱えた。
「ファイアースパイラル!」
螺旋状の炎が植物を焼き尽くした。
「これで先に進めるわね」
「まだ油断は禁物だ」
「分かってるわよ」
またクリスを先頭に歩き始めた。
歩き続けると休憩できそうなスペースがあった。
「今日はここで休もう」
クリスの隣に荷物を置いて座った。
「地図を見てもいいか?」
クリスに地図を渡した。
「やつもピゴーロに向かい出したな」
地図を見ると黒い点が動いていた。
「魔力は大丈夫か?」
「寝るときに使わなければ大丈夫です」
「そうか···」
クリスは何か言いたそうだった。
「聞きたいことがあればどうぞ」
「答えなくてもいいが、幻覚で何を見たんだ?」
「···守が出て来ました」
「それで?」
「顔も見たくないって言ってやりました。今の僕にはクリスがいますか···」
言い終わる前にクリスに抱きしめられた。
「どうしたんですか?」
「その男の名前はもう呼ぶな。俺のことだけ見ろ」
そう言うと、両手で顔を包んだ。
「クリスのことしか見てません」
クリスの手に自分の手を重ねた。
「あのー私たちもいるんですけどー」
ジュリアとマイルがこちらを見ていた。
「見世物じゃないぞ」
「そっちが見せつけて来たんでしょうが」
「うるさい。もう寝ろ」
「言われなくても寝ますよ!」
クリスとジュリアの言い合いは子供の喧嘩みたいで面白かった。
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