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パウロの案内で治癒士の元へと急いだ。 「誰もそいつを止めようとしなかったのか?」 「したよ。でもみんなやられちゃった···」 パウロの表情が暗くなった。 「大丈夫。必ず倒すから」 「···うん。もうすぐ着くよ」 街の中でも一際大きな発電所の前に着いた。 「ここの地下であいつが薬を作ってる」 扉を開けると、機械音が聞こえた。 「働いてる人はいるの?」 「いるけどみんなおかしくなってる」 パウロの言うとおり姿は見えたが、さっき見た人たちと同じように目が虚ろだった。 「不気味だな」 発電所の中を進み、地下に下りる階段がある建物の奥に着いた。 足音が出ないようにそっと下りると、ガラス張りの 研究室のような部屋があった。部屋には白衣を着た 白髪交じりの男が1人で薬を調合していた。 「行くぞ」 クリスの合図で、部屋に入った。 「客人とは珍しいですね」 男は驚く様子もなく、作業を続けた。 「ずいぶん余裕だな。これからやられるのに」 クリスが剣を構えた。 「お話でもと思ったのに残念です」 「みんなを元に戻せ!」 パウロが叫んだ。 「私は皆さんを救っているのですよ」 そう言うと、男は手袋とマスクを外した。 皺くちゃな手は真っ黒に染まっていた。 「私がこの薬を作るのにどれだけ時間をかけたのか 貴方達には分からないでしょうね」 「お前の話には興味ない」 そう言って、クリスが剣を振った。 男は年齢を感じさせない動きで攻撃をかわした。 「自信ありげな割に随分と遅いですね」 男はクリスの足を払い、体勢が崩れたところに打撃と蹴りを入れた。クリスの体が反対側の壁まで吹き飛んだ。 「クリス!」 クリスに駆け寄って、マイルからもらった回復薬を飲ませた。 「私はルケーノに繋がる地下道で働いていました。 安い賃金で朝から晩まで働かされて、人間扱いはされていませんでした。そんな時、国からこの植物を育てるように言われました。賃金は倍以上貰えるということで、みんなこの話に飛びつきました。でも育てていくうちに同僚がおかしな言動をするようになり、次々と倒れていきました。何かがおかしいと思った私は、国に説明を求めましたが無駄でした。結局、私達はただの捨て駒だったのです。だから、私はこの薬で国に復讐しようと考えました」 「それでもあなたのしたことは許せません」 本を開いていつでも攻撃できるようにした。 「ええ、そんなことは分かっています。でも、私はこういう生き方しか知らないのです」 そう言うと、男は微笑みながら薬を掴んで口いっぱいに詰め込んだ。薬を飲み込むと泡を吹きながらその場に倒れた。

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