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真実−1−

「見つけた日誌の内容と一致してるな」 クリスが剣をしまって男に近づいた。 「どうするつもりですか?」 「この国で何が起きたのかをこいつは知っている。だから、まだ生きててもらう」 そう言うと、男を肩に担いだ。 「こいつがみんなをおかしくしたんだぞ!」 パウロは納得できないようだった。 「こいつをおかしくしたのはこの国だ」 そう言って、クリスは階段を上り始めた。 「パウロ、とにかくマイルたちのところに戻ろう」 肩に置いた手を振り払って、パウロは駆け出した。 倉庫に戻ると、治療薬が完成していた。 「俺···母ちゃん連れてくる!」 パウロが出て行ったあと、マイルとジュリアに男のことを説明してから薬を飲ませた。 「パウロの気持ちを考えたら···辛いわね」 「···マイルも複雑な気持ちです」 しばらくして、男が目を覚ました。 「お目覚めか?」 男は状況が飲み込めていないようだった。 「なぜ生きてるんです···?」 「マイルが作った薬で治しました」 マイルが男の脈拍を確認して頷いた。 「治した?私が長年かけて作った薬を?」 信じられないといった顔でマイルを見つめた。 「マイルの腕は確かです」 「治癒士の仕事は治すことですから」 マイルはそう言って笑った。 「私はなんて馬鹿なことをしたんだろう···」 男は潤んだ瞳を手で隠した。 「母ちゃん、連れてきたぞ!」 パウロがお母さんの手を引いて戻ってきた。 虚ろだった目は薬のおかげで生気が戻った。 「母ちゃん!大丈夫か?」 「パウロ···ここで何してるの?」 「母ちゃん!」 パウロは泣きながらお母さんに抱きついた。 「もう、この子ったら。泣き虫なんだから···」 お母さんに何があったのかを簡単に説明すると、 パウロをきつく抱きしめた。 「勇気を出して助けてくれたのね」 パウロは首を縦に振った。 「助けてくれてありがとうございます」 お母さんは僕たちに頭を下げた。 「地下道でこれを見つけた」 クリスがノートを男に渡した。 「これは私の同僚のものです。娘が産まれたばかりで仕事中も会いたいっていつも言ってました。でも 娘に会うことがないまま、死んでしまいました」 そう言って、男はノートをクリスに返した。 「あの···亡くなった方の名前は分かりますか?」 お母さんは名前を聞いた瞬間、目を見開いた。 「母ちゃん、どうしたの?」 「···そのノートは私の父のものだと思います」 「じゃあ、娘っていうのは···」 「多分、私のことかと···」 思わぬ偶然が重なり、みんな黙ってしまった。

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