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「父は···ずっと事故で死んだと思ってました」
パウロのお母さんが静寂を破った。
「···俺のおじいちゃん?」
「そう、パウロのおじいちゃん。お母さんも写真でしか見たことないんだけどね」
そう言うと、クリスの方を向いた。
「これは私が持っててもいいですか?」
「もちろんだ」
クリスはノートを渡した。
「···ありがとうございます」
お母さんの声が少しだけ震えていた。
「私の宝物が1つ増えました」
そう言うと、ノートと一緒にパウロを抱きしめた。
「母ちゃん、苦しいってば···」
「もうちょっと我慢して」
2人の姿を見ていて泣きそうになった。
「黒幕は分かってるのか?」
クリスが男に聞いた。
「当時の衛兵隊長です。今はキーパーの右腕として
絶大な権力を握っています」
「それって、ブレンさんのことですか···?」
パウロのお母さんがまさかという顔をしていた。
「知ってるのか?」
「知ってるもなにもこの国でブレンさんを知らない人はいません。魔物が街に襲って来たときも、先陣を切って退治してくれましたし···。私達のような庶民にも分け隔てなく接してくれます」
「善人の裏の顔ってわけね。よくある話だけど」
ジュリアがそう呟いた。
「当時から街の人達からの信頼も厚くて、私が黒幕だと言っても誰も信じてくれませんでした。地下道でのことも、単なる事故として処理されました···」
男は自分の無力さを悔やんでいるようだった。
「そんな···」
パウロのお母さんだけじゃなく、地下道で働いてた人たちの家族は事実を知らないままだということに胸が苦しくなった。
「そのブレンってやつはどこにいる?」
クリスの語気が強くなった。
「···まさか戦うつもりですか?」
「そのつもりだ。文句あるか?」
クリスは剣を握りしめた。
「ブレンは世界でも指折りの剣士ですよ!」
「だからってこのまま野放しにはできないでしょ」
ジュリアも短剣を手に取った。
「こうなったら誰も止められません。僕たちと一緒に戦いませんか?」
男はゆっくり立ち上がって頭を下げた。
「宜しくお願いします。私はネロです」
「パウロはどうするの?」
「マイルと一緒に街を回って薬を配る」
「やっぱり私も一緒に行こうか?」
ジュリアが言うと、マイルは首を横に振った。
「マイル1人でも大丈夫です!」
「俺が邪魔ってことか?」
「足引っ張ったら許しません!」
「2人とも喧嘩しないの!」
パウロのお母さんが2人の喧嘩を仲裁してくれた。
ネロの案内で、ブレンがいる場所へと急いだ。
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