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お互いに距離を取りながら相手の出方を窺った。
ブレンの持っている剣は槍のような形をしていて、
かなり攻撃範囲が広かった。
「私から行かせてもらいますよ」
ブレンが剣を回しながら迫ってきた。
「アイスクリスタル!」
氷の粒がブレンに降り注いだ。
確実に当たったはずだったが、ブレンは剣で攻撃を凌いで無傷だった。
「あなたの力はそんなものですか?」
「まだまだ!アクアアロー!」
無数の矢がブレンを追いかけた。
「甘いですね」
華麗な動きで矢をかわしながら、次第に距離を詰めてきた。ブレンの動きをよく見ると、右足を少し引きずっているのに気付いた。ブレンが着地した時を見計らって、呪文を唱えた。
「マッドスネイク!」
泥の蛇がブレンの右足に噛み付いた。余裕そうに
微笑んでいた顔が痛みで歪んだ。
「ウインドブレード!」
すかさず攻撃をしたが、ブレンはすぐに体勢を整えて剣で防いだ。
「あなたを少し甘く見ていました。戦いの素人では
なさそうですね」
ブレンの目付きが変わった。
「ここからは本気で行きますよ」
そう言うと、コートを脱いだ。逞しい体には戦場をくぐり抜けてきた証がいくつもあった。
「行きますよ」
ブレンの姿が目の前から消えたと思ったら、いつの間にか後ろに立っていた。
「さようなら」
このままだと間に合わないと思って目をつむると、剣同士がぶつかる音がした。
「油断するな」
クリスの声がした。
「お目覚めですか」
そう言うと、ブレンが距離を取った。
「大丈夫なんですか?」
「気絶してたたけだ」
クリスにブレンの右足のことを耳打ちした。
「分かった。それなら俺たちに勝ち目があるな」
クリスはそう言って少し笑った。
「もう話は終わりましたか?」
「もういいぞ」
「今度は殺します」
ブレンの素早い攻撃をクリスはギリギリのところでかわし続けた。右足の痛みからか、徐々にブレンの動きが鈍くなり始めた。
「今だ!」
「サンダースピア!」
クリスが振りかざした剣に魔力が宿り、攻撃を受け止めたブレンの剣を伝って電気が流れた。
「くそっ···」
ブレンが膝をつくと、クリスが剣を首に当てた。
「殺さないのか?」
「国民の前で今までやったことを謝罪しろ。そして
地下道で亡くなった人を公表すると約束するなら、
俺はお前を今殺さない」
そう言うと、ブレンが笑いだした。
「何がおかしい?」
「命など惜しくないと思って戦ってきたのに、今は
どうしてだか命を失うのが怖い」
「お前も結局ただの人ってことだよ」
「···そうかもしれません」
笑顔が消え、ブレンはうなだれた。
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