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崩落−1−
魔術士がいなくなり、魔物も姿を消した。地下に隠れていた街の人たちが様子を見に地上に出てきて、みんなを運んでくれた。
フルは無言で帰ってきたカイリをそっと抱きしめて
声を上げて泣いた。その姿を見て、街の人たちからも泣き声が聞こえてきた。
「守れなくてごめんなさい」
フルは僕を見て、力なく首を横に振った。
「あなたは何も悪くない。カイリに甘えっぱなしの私がいけないんです···」
声を震わせながら、フルはカイリとの思い出話を
してくれた。
「私が5歳のとき両親が亡くなり、私の世界は暗闇に包まれました。死を悼む間もなく、キーパーとして
15年間この国を守ってきました。カイリはそんな私の家族であり、友人でもあり、暗闇に差し込む一筋の希望のような存在だったのに···」
そう言うと、腰に忍ばせていたナイフを自分の喉元に当てた。
「···もう生きる意味などない」
「フル、やめて!」
フルの目つきが変わり、ナイフを滑らせた。
「さよなら」
最期に微笑んでカイリを抱きしめたまま力尽きた。
カイリに続いてフルも失い、魔術士の言葉が頭の中で響いて耳を塞いだ。石は暴走を止める者がいなくなり、揺れはさらに激しさを増した。
揺れに耐えきれず天井や壁の瓦礫が落ちてきたが、
どうしても体でが動かず目を瞑った。
「このままだと街ごと落ちるぞ!」
意識を取り戻したクリスが大剣をなぎ払い、瓦礫を破壊した。
「それは何としても避けないとね」
ジュリアも目を覚まし、短剣を回転させて瓦礫から
街の人たちを守った。
「ケイ、立てますか?」
マイルの言葉に頷き、立ち上がった。
「ライカ、まだ間に合いますか?」
「魔力が安定するのが先か、街が崩れ落ちるのが先か微妙なところだ」
クリスにそのことを伝えると、ジュリアとマイルに街の人たちが安全に地上に避難できるように、誘導
するよう頼んだ。
石に手を向けると、反発する力がかなり強く体ごと
吹き飛ばされそうになった。クリスが後ろから支えてくれて何とか持ちこたえることができた。
「瓦礫は俺に任せて、集中しろ!」
「分かりました!」
少しずつ魔力を調節しながら暴走を抑えていくと、
揺れが緩やかになった。このまま抑え込もうとした時、石に亀裂が入った。
「ケイ、そこから離れろ!」
ライカの言葉が聞こえたのと同時に、石が砕け散り
抑えていた魔力が一気に放たれて、衝撃波となって襲いかかってきた。
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