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精霊−1−

精霊の女王がいるという森は見たことのない花や木が生えていて、どれも色鮮やかだった。リリに言われたとおり、声を聞き逃さないように耳を澄ませて 進んだ。 しばらく歩くと、左手に湖が見えた。水面は穏やかで鏡のように景色を反射していた。底が見えるほど水が透き通っていて、喉を潤そうと手を入れると、水面に映る自分に腕を掴まれ引きずりこまれた。 もう息がもたないと思って目を開けると、湖の底に立っていた。不思議と息は苦しくなく、服は濡れていなかった。 「君が一番怖いものは何?」 後ろで声がして、振り向くともう1人の僕がいた。 誕生日に守からもらったコートを着ていた。 「君が一番怖いものは何?」 もう1人の僕は同じ質問を繰り返した。 「···この世界が終わること」 そう答えると、左手が固まって動かなくなった。 「本当のことを教えてよ」 そう言うと、もう1人の僕は一歩近づいた。 「君が一番怖いものは何?」 「···みんなが死ぬこと」 今度は右手が動かなくなった。 「本当のことを教えてよ」 僕はもう一歩近づいた。 「君が一番怖いものは何?」 「そんなのわからない!」 次は左足が固まった。 「本当のことを教えてよ」 僕はもうすぐそこに来ていた。 「君が一番怖いものは何?」 「···分からない」 右足の動きが止まった。 「本当のことを教えてよ」 もう1人の僕は泣きながら僕の胸に手を当てた。 「僕が一番怖いものは何?」 自然と涙が溢れてきて、息が苦しくなった。 「僕が一番怖いのは···好きな人に裏切られること」 そう言うと、もう1人の僕は泡になって消えた。 体が動くなるようになり、水面を目指した。 水面から顔を出すと、女性の声が聞こえた。 「迷い人よ、私の声が聞こえますか?」 首を縦に振ると、どこからともなく一匹のイルカが現れた。体は薄いピンク色をしていて、手を伸ばすと近くに来てくれた。弾力がある柔らかい肌に触れると、嬉しそうに鳴いた。 「その子は私の友達のロム。ロムがこんなに早く 人に懐くなんて···」 声の主はロムの様子に驚いていた。ロムは僕の周りを気持ち良さそうに泳いで、軽やかに飛び跳ねた。 「ロムの背中にお乗りなさい」 背びれを掴んで背中に乗った。 「自己紹介が遅くなりましたね。私は精霊の女王のリラ、会うのを楽しみにしています」 リラの声が消えると、ロムが泳ぎ出した。 徐々にスピードが上がっていき、広大な湖に小さな波が立った。湖から見渡す森はあまりにも美しく、 見惚れてしまった。

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