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石が背中に埋め込まれたゴルの姿が頭から離れず、
戦いの準備が進まなかった。
「どうした?ボーッとして」
「あ、いや···ゴルのこと考えてて」
クリスは俯く僕の肩を揉んだ。
「ゴルの気持ちは本人にしか分からないよ」
クリスが言ってることは理解できるが、どうしたらあんな風に強くいられるか知りたかった。
「今は戦いのことだけ考えよう」
「···はい」
「先に行ってるぞ」
部屋を出たクリスを急いで追っかけた。
宿屋を出ると、マイルたちもすでにいた。
「ケイ、これあげます!」
マイルから渡されたのは押し花だった。
「お守りみたいだね」
そう言うと、みんなポカンとしていた。
「あ···お守りっていうのは願いがこもったものです」
「ケイの世界ではそういう風に言うのね」
「お守りか。大切にしないとな」
「失くしたら怒りますよ!」
マイルがそう言うと、みんなで笑った。
「何が面白いのかしら?」
振り返ると、さっきと違う服を着たゴルがいた。
「衛兵はどうした?」
ゴルの後ろには誰もいなかった。
「戦うのは私だけで十分よ」
その言葉にゴルの覚悟を感じた。
「随分な自信だな」
「失礼しちゃうわ」
マイルがゴルにも押し花を渡した。
「綺麗な花ね」
「おまもりです!マイルの願いがこめられてます」
「何を願ったのか教えてくれる?」
「みんなが生きて帰ってこれますように」
ゴルはしばらく押し花を見つめてから、ポケットにしまった。
「準備はいい?」
ゴルの言葉にみんな頷いた。
「ついてきて」
着いた先は見張り塔のような背の高い建物で、階段を上って砂漠を見下ろすと、魔物の大群が砂埃を上げながら、こちらに迫ってきているのが見えた。
「ライカ、僕の言ったとおりにお願いします」
「分かっている」
深呼吸をして、クリスの隣に立った。
「いよいよだな」
「そうですね」
「ケイ」
クリスが名前を呼んで僕を見た。
クリスの瞳に僕が映っていた。
「クリス」
自然と顔が近づいて、キスをしようとしたがゴルに
止められた。
「そういうのは終わってからにしてくれる?」
僕とクリスの顔の間に手が差し込まれた。
「邪魔するな」
クリスはゴルの手を払って唇を重ねた。
「いい男なのに見る目がないのね!」
ゴルはプイッと振り向いて双眼鏡を覗いた。
「クリスはケイしか見えてないから」
ジュリアが慰めるようにゴルの肩に手を置いた。
「なんであんたに慰められなきゃいけないのよ」
「慰めてあげてんだから感謝しなさいよ」
「2人とも大人げないです!」
マイルの一言に2人とも黙った。
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