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混沌−1−

ライカと魔物はほとんど互角の強さで、僕たちが 攻撃する隙はなかった。 「ライカ、どうすれば?」 「やつの動きを止めてほしい」 「分かりました」 みんなにそのことを伝えて、体の大きさからすると 少し頼りない脚を集中的に攻撃することにした。 「行くわよ!」 ジュリアが投げ縄の要領で、鎖に繋いだ短剣を魔物に向かって投げた。見事に魔物の右足に刺さった。 「ラム、お願い!」 ラムは炎を纏いながら、鎖を足場にして魔物の足に噛み付いた。噛み付いたところから炎が上がり、魔物が少しよろけた。 「まだまだぁ!」 その瞬間を狙って、クリスが斬撃を飛ばした。 魔物は苦しい声を上げながら、ゆっくりと倒れた。 「後は任せよ」 ライカはそう言うと、空高く舞い上がり口を大きく開いた。一点に集めた魔力を魔物めがけて放った。 辺りが一瞬光に包まれ、目を開けたときにはもう 魔物の姿は灰になっていた。 「ライカ、やりましたね!」 「いや···まだだ」 「え?」 魔物が現れた穴から無数の黒い手が伸び、僕たちに襲いかかってきた。 「みんな、僕の近くに!」 指輪をはめて、風の壁で防御を固めた。 「街の人たちが!」 マイルの声で視線を移すと、黒い手に捕われた街の人たちが空を飛んでいた。 「行かなきゃ!」 「マイル!」 マイルが壁を越えて、街の人たちを助けに行った。 「追いかけなきゃ!」 ジュリアも出て行ってしまい、壁を解除してクリスと一緒に追いかけた。 「ライカ、あの手の正体は?」 「純粋な闇の塊だ。触れたら即死だろう」 「そんな···」 街の人たちは為す術なく、次々と餌食になった。 「このままじゃみんな死ぬぞ!」 何か策はないか考えてみたが、焦りからか頭が全く 働かなかった。ジュリアがマイルに追いつく前に、手がマイルに伸びた。もうだめだと思った時、ゴルの声が聞こえた。 「諦めるな!」 ゴルがマイルを抱きかかえて、ギリギリのところで 手から逃れた。ゴルはマイルをジュリアに渡して、 地面に手をかざした。砂の壁が僕らと残った街の人たちを囲んだ。 「怪我はないですか?」 マイルはこんな状況でも、街の人たちに声をかけて 傷を治療していた。 「あの娘は強いわね···。キーパーの私ですら、怖くて手が震えているのに」 震える手を隠すようにゴルは腕組みをした。 「覚悟を決めてるからな」 ゴルはクリスの言葉が腑に落ちたようだった。 「いい仲間を持ったわね」 ゴルが微笑んだと同時に、地面から手が伸びてきて 背中にある石を剥ぎ取った。ゴルは優しい笑顔のまま、地面に力なく倒れた。

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