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手は包帯のように体に巻き付いて、身動きが取れなかった。体ごと持ち上げられると首に手が伸びた。 「この娘のために命を捧げるか?」 影が僕たちに問いかけた。 「自分を犠牲にしてこの娘を助けるか?」 手に力が入った。 「答えは···とっくに決まってる」 クリスが僕とジュリアの顔を見て頷いた。 「質問が少し簡単すぎるわね」 そう言ってジュリアは微笑んだ。 「僕たちはマイルのために命を賭けます!」 「よかろう」 死を覚悟して目を瞑ったが、首を絞める力が弱まり 影が跡形もなく消え去った。 「マイル!」 倒れているマイルに駆け寄ると、気を失ってるだけのようだった。 「こんなに早く突破するとは···」 振り向くと光の精霊が立っていた。 「突破ってことは、試練は終わったのか?」 「ええ、誰かのために自分を犠牲にできるあなた達は私の力に相応しいです。私の名はヨミ」 「宜しくお願いします、ヨミ」 「上手く行ったようですね」 リラがどこからともなく現れた。 「リラ様、ご無沙汰しております」 ヨミはリラに頭を下げた。 「お互い歳を取りましたね」 そう言って微笑むと、リラはヨミの肩に腰掛けた。 「ええ本当に。時間が過ぎるのは早いですね」 リラとヨミは会えなかった時間を取り戻すように、 近況を話し合った。 「うーん···」 マイルが目を覚ました。 「マイル、大丈夫?」 「はい···。久しぶりにお母さんの夢を見ました」 「お母さんは何か言ってた?」 「行ってらっしゃいって言ってました」 そう言うマイルは嬉しそうで寂しそうだった。 「ヨミ、この後は頼みましたよ」 「お任せください」 「もう行っちゃうの?」 ジュリアが聞くと、リラは頷いた。 「幸運を祈ります」 そう言って、リラは姿を消した。 「私の手を握ってください」 恐る恐る両手でヨミの手を握ると、暖かい光が溢れ出して体の内側から力がみなぎる感じがした。 「光の力を授けました」 本を開くと光属性の呪文が追加されていた。 「他の属性に比べて魔力の消耗が激しいので、くれぐれも気をつけてください」 「分かりました」 「必要なら、いつでも私たちを呼んでください」 ヨムがそう言うと、ラムたちがこちらを見つめて 同時に頭を下げた。 「頼もしいな」 クリスは精霊たちを見て微笑んだ。 「いよいよって感じね」 ジュリアがクリスの隣に並んだ。 「絶対勝ちます!」 マイルが大声で叫んだ。 「うん、絶対に」 本を握りしめ、神殿を後にした。

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