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 運命の夜。現れたのは男だった──。  ヴァシレフスはその事実に眉根を寄せた。  暗闇に雪崩落ちるように現れたのは薄汚れたネズミにも似た、今にも息絶えそうな少年(こども)だった。  左足首がおかしな方を向いていて、破れてボロボロになったキトンは元の色がわからない程に血や泥で染まり酷い有り様だ。 「本当にお前がそうなのか──?」  ヴァシレフスは誰に問うわけでもなく呟いた。  足元で乱れた呼吸を繰り返す少年を月明かりの中じっと眺めた。  夜みたいな肌だと思った。  それはここが暗くて彼自身汚れているせいでもあったが、見たことの無い肌の色をしていた。流れる汗のせいでときより肌が光って見えた。  何故か、漠然と、美しいと思った──。  そんなことを思う自分にヴァシレフスはうろたえた。 「おい、生きているのか?」  ぶっきらぼうにヴァシレフスは少年に声を掛けた。  その声に反応したのか、少年は少しだけ顔の向きを変えた。そして薄く、本当に一瞬だけその瞼が開く。  そこから覗く琥珀色の瞳が月のせいか一瞬金色に強く光って見え、ヴァシレフスはギクリとした。  放っておけば今にも散りそうな命にその瞳はあまりにもアンバランスだった。細い体躯も、疲れきった精神も肉体も関係なく、その瞳だけは別の魂を宿した生き物のようにヴァシレフスの心を貫き、恐ろしいほどに揺さぶった──。

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