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Ⅳ-2

「ま、待って……あ」  シエラよりずっと高い鼻梁をしたヴァシレフスが器用にそれをかわしてシエラの小さな唇を捕まえる。いたずらするように舌先を噛むたびにシエラは嘘みたいに甘い声を出した。ヴァシレフスはそれが無性に堪らなくて辛そうにそうにしているシエラをわざと無視する。  閉じることなく口の中を大きな舌で追われ、シエラは唇を腫らしながら雫で頬を濡らす。苦しいのに腰の奥がジンジンして、力の入らない両腕をヴァシレフスに胸に何度もぶつける。  気がつけばシエラの体には左足に巻かれた包帯が残るだけで、小麦色の焼けた裸体が白いシーツの上で大きく波打つ。あまりにの恥ずかしさにシエラは奪われたキトンを引き戻そうと手を伸ばすが、呆気なくヴァシレフスの大きな手に捕まってしまう。  腹が立って睨みつけるが首筋を強く吸われすぐにぎゅっと目を閉じてしまった。  恥ずかしいし、悔しい。どうしてこんな目に──。  腹が立つのに、情けなく思うのに、ヴァシレフスの肌と体温が怖いくらいに気持ちよくて、あの深い海の色をした瞳に見つめられるとおかしくなる。それが恐ろしくてシエラは目を伏せた。  大きな抵抗の無いのをいいことに、ヴァシレフスはどんどんシエラを侵食する。耳朶を噛んで、顎のラインを舌で撫でる。そのまま薄い胸に唇を這わすとシエラは魚のように飛び跳ねた。硬く尖った場所を何度も舌で嬲るとシエラの呼吸は益々乱れ、途切れ途切れに届く声はヴァシレフスの雄を更に熱くした。  さらに欲張ってその中心に触れるとシエラは短く鳴いた。怖かったのか、涙を溢しながら何度もかぶりを振っている。力ない細い指を伸ばし、ヴァシレフスの手を必死に払おうとするが、繰り返される強い刺激に耐え凌ぐことしか出来ないでいた。  ヴァシレフスは小さく笑って涙で目を開くことが出来なくなったシエラに深く口付ける。シエラはもう何一つ抵抗せずに自分の中を這うヴァシレフスの舌をされるがままに受け止めた。 「あっ……、ああっ。やめ……、もう、やめ……っ」  うまく言葉を繋げないでいるシエラを待ってやることもせずにヴァシレフスは長く節の高い指をシエラの小さな尻に這わす。シエラが何度も吐き出したもので夜色の肌がいやらしく濡れて艶っぽく光る。臍のまわりを濡らしている雫を軽く舐めとると、シエラの細い腰がびくりと跳ね上がった。  そのまま誰も触れたことのない場所に指を這わすと、シエラはより一層驚いて体を飛び退かせるが、大きな手がシエラの腰を捉えていて、それ以上逃げる事は叶わなかった。 「待って、ヴァシ……っ、そこはっ……」  悲鳴にも似た短いシエラの叫び声が天井に跳ねた。  体の中に初めて知る圧迫感を覚えながら、シエラは歯を食いばった。痛くて怖くて涙が止まらない。ヴァシレフスが自分の名前を呼んでいるのが薄らと聞こえる。だけど怖くて目を開けることすら出来ない。どうにか息を吐いて、詰まった呼吸を整えようと短く何度も息を繰り返し、痛みを堪えようと努力した。 「シエラ!」  何度目かのその強い呼び声にようやくシエラは目を開いた。大きな手のひらで両頬を包まれようやく目の前にヴァシレフスの顔があることに気付いた。  滲む視界に心配そうにこちらを覗くヴァシレフスが見える。涙を指で拭われ、口付けられる。何度か繰り返される甘い口付けに身を委ねると、いつのまにか呼吸が楽になっていた。シエラはゆっくりと瞼を閉じ、引き寄せられるがるままに体を預けた。  ヴァシレフスの体温に包まれ、シエラは次第に意識が遠のく。強張っていた体の緊張がゆっくり解けて、無意識にその大きな背中に両腕を回した。  そばにある丸い額に何度も優しく口付け、ヴァシレフスはそのままシエラと一緒にシーツに横になった。  相手はまだ怪我も治っていないというのに、ヴァシレフスは自分の身勝手な暴走に懺悔した。 「シエラ……」  そう呼びかけた相手はすっかりと寝息を立てて一目散に夢の世界へ逃避していた。ヴァシレフスは謝罪の言葉を掛けそびれてしまったが、そのまま小さな頭を抱き寄せて共に眠りについた。

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