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Ⅳ-3

 目覚めて一瞬にして息が止まった。  お互いの鼻がぶつかりそうな距離に長い睫毛を伏せて眠るヴァシレフスがいたからだ。  シエラは肩を竦めたままヴァシレフスから離れようと体をゆっくりと動かしたが、強烈な痛みが腰を貫き、声にならない悲鳴を小さく上げて背中を丸めた。  僅かな振動にもヴァシレフスはすぐ反応し、目を覚ましたため、シエラは慌てて視線をほかへやった。 「痛むか? 足も怪我してるってのに……すまない」 「え?」  シエラは不思議そうにヴァシレフスを見た。 「なんだ?」 「……ううん。王子様って……謝ったりするんだな……」 「はあ?!」  あからさまにヴァシレフスの声が怪訝に化けた。 「だって、嫁げとか、運命だから従え、とか。嫌がってんのに俺のこと抱こうとしたり……」  最後の言葉はシエラが俯いたせいで殆ど消えて聞こえなかった。  小麦色の耳の先が赤くなっているのが見え、ヴァシレフスは小さく竦んだ肩に軽く歯を立てた。揶揄(からか)うような真似にシエラは腹を立てたのか、なにすんだとヴァシレフスを睨んだ。  だけどすぐに唇を塞がれ睨み付けたい対象を見失う。  抗議するべく暴れまわる両手首をヴァシレフスは簡単に懐柔して、長い指でシエラの指を絡めとった。  少しだけ離れてヴァシレフスはシエラの琥珀色の瞳をじっと眺めた。初めて見た時に寒気がするほど見惚れた肉食獣の命を宿したような強い瞳。  あんまりにも真っ直ぐに見られるものだからシエラは恥ずかしさから何度も瞬きしては視線を泳がせた。それに気づいたのかクスリと小さく笑ってヴァシレフスはゆっくりと瞼を伏せて優しい口付けをシエラに贈った。

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