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Ⅷ-2
重厚な東の塔の門を開き、ヴァシレフスは国王の元へと向かった。
東の塔は昔から立ち寄り難く、幼い頃からヴァシレフスはあまり好んで近寄ることはなかった。
この塔には国王のほか、母である王妃。その他に公爵、伯爵、司教たちがヴァシレフスの生まれる前より長くに住んでおり、勝手気ままに生きる王子たちをあまり快く思っていない四角四面の集まりだった。
それでもヴァシレフスが廊下を通ると彼らは敬意を示し、膝をついて道を開ける。
それすらヴァシレフスには白々しく思えた。
「父上」
国王は何かの文書に目を通している最中だったがヴァシレフスの声に反応して顔を上げたので特に急ぎの用ではないようだ。
「ヴァシレフス。久しぶりだな。どうかしたのか?」
王が扉の前の従者に合図をやり人払いをする。素直にヴァシレフスは父親の傍に寄った。
「少しお話が──」
「政治の話じゃあるまいな。おお、もしや婚姻か?」
国王は冗談ぽく笑い、息子に政治やこの国の事に口を出すなと軽く牽制する。
「アレクシアの従者の話です。ご存知ですか?」
その言葉に国王の顔色がやや曇ったのをヴァシレフスは見逃さなかった。
「ご存知だったんですね。では、その少女がこの国に売られて来た奴隷であったという事実も?」
「ヴァシレフス、何が言いたい」
「この国に奴隷はいないと私は教えられ育ちました。ですが実際は違うようです。それとも国王の耳に入っていないだけでしょうか? そうであるとすればこれは大問題です」
「お前はこの私が奴隷制度を許していると、そう言っているのか?」
侮辱にも似た息子の言葉に激昂する父に怯むことなくヴァシレフスは続ける。
「では反逆者を見つけ出し断罪に処してください。国王の意思に反する者は重い罪に問うべきです。そして少女たちを元の村へ返してくださいますようお願い申し上げます」
「私に進言する前にまずお前にはすることがあるだろう、ヴァシレフス」
強い眼光がヴァシレフスを睨みつける。
「星見が連れてきた者を囲っているそうではないか。聞いたところによると男だったそうだな。星見はお前になんと告げたのか、もう忘れたのか?!」
「──いいえ。わかっております。彼は……私の運命ですから」
「ほざくな!!」
国王はテーブルを強く叩いてとうとう怒りを露わにした。
「星見はこう申したのだ。あの川に運命の者が現れる、女であれば王子の伴侶となりこの国を救う宝を産むであろうと。だが、もし、男であれば……お前自身とこの国を滅ぼす恐るべき存在になるだろうと! お前はその男の存在を私に告げずにいた。それがどういうことか分かっているのか!」
王の怒りはヴァシレフスの肌を焼くように熱く、怒号は扉の向こうでじっと立つ家臣の事までも貫くようだった。
「元々父上は私より姉上を国王にするおつもりだったではないですか」
「それはお前が遊び呆けているからだ! 目の前の罪から逃れるからだ!!」
「……私はただ……、これ以上誰にも死んで欲しくなかっただけです」
「そうやって逃げるのか! お前はこのままこの国が滅んでも構わないと、そう言うのか!」
「私は罪を受け入れると言っているんです! 誰かを殺して生き延びるくらいなら、こんな国滅んでしまえばいい!!」
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