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Ⅸ-3

 シーツに横顔を沈めて眠るヴァシレフスの目尻は泣き腫らしたせいで赤くなっていた──。  その寝顔を何度も何度もシエラは間近から見つめ、繰り返し頬に口付ける。  白い肌に跡が残るように首筋に強く口付け、シエラはいたずらが成功した子供のように小さく笑う。 「不思議だな、俺たちこんなにも違う肌の色してるんだな。同じ肌なのにこんなにも違う。ヴァシレフスの肌は本当に真っ白で、見た目は冷たそうなのに触れたらちゃんと温かい。この中に流れる血の色も俺と同じなんだろうか……」  ヴァシレフスの胸に頭を寄せてその奥で脈打つ心臓の鼓動に耳を澄ます。 「運命、か……。うん、そうだな。悪くなかった──」  シエラはそう言って今度は唇にゆっくり口付けた。 「ヴァシレフス。俺は信じるよ。お前が俺の運命だって──」 ──アイシテル。  夢の中でそう何度も聞こえた。  あれは確かにシエラの声だった──。  ゆっくり瞼を開いたその先にシエラが微笑んで眠っていた。 「夢……じゃなかったのか……」  微笑むシエラに安堵してヴァシレフスはそっとその頬に触れる。  だが触れると同時にすぐに目が冴え、飛び起きた。  起きた時に手をついたシーツがじっとりと濡れていることに気付く。  恐る恐る自分の濡れた手を見るとそれは鮮やかな赤で染まっていた。 「っ……!」  シエラの胸にはヴァシレフスの短剣が突き刺さり、迷いない彼の意思が伝わるように真っ直ぐに貫かれてあった。 「嘘だシエラっ! 嘘だっ、こんな……っシエラ! 起きろっ!!」  どんなに泣き叫んでも、その肩を揺すっても、微笑んで眠るシエラは全く目を醒まそうとしない── 「シエラ、シエラ……嫌だ──。シエラ、シエラ…………」  腕の中にあるシエラの体はまだ温かいのに──こんなにも穏やかに微笑んでいるのに…… ──なのに、魂はもうそこにない──。  ヴァシレフスは只々その名を呼んで、只々泣き崩れた──。

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