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第25話自由のために戦えますか?
その魔族の村には、伝説があった。
かつて、世界を滅ぼそうとした魔導書の伝説だ。
村の長は、1冊の魔導書を守り続けていた。
それは、今は、眠っているが、いつか目覚めて魔族を救うとされていた。
村人は、魔導書を研究し、もう、目覚めるのを待つばかりであった。
だが。
魔導書が目覚めるより早く、村は、人間に襲撃された。
村の戦士たちは、力ない者たちを守って戦ったが、人間たちは、魔族の力を封じる魔石を持っていたため、やがて、力尽きて倒れた。
彼の母親となる村の長の娘は、捕らえられるさいもその魔導書を離さなかった。
それは、一族の最後の希望だったから。
彼の母親は、クスナット教国の王のもとへと売られていった。そこで、王の慰みものとなった後も、彼女は、決して諦めることはなかった。
彼女は、やがて、王の子を宿した。
時が満ち、その子は、この世に生を受けた。
その子は、獅子の獣人となったが、産まれてすぐにその力を危惧した人々によって封じられた。
なんの力も持たない少年は、母の持っている魔導書の物語を母から聞かされていた。
だが。
彼にとっては、それは、ただの本に過ぎなかった。
少年が12才になる頃、だった。
王は、少年を鞭で打擲するようになった。
鞭で打たれ、傷つき、なぜ、自分達はこんな目にあわなくてはならないのか、と考えた。
そして、少年は、母の魔導書に願った。
この世界の壊滅を。
その時。
世界の壊滅を願いながら、少年は、涙していた。
少年の涙を受けた魔導書が光を放った。
そして。
魔導書は、目覚めた。
一人の少年の姿になった魔導書は、強大な力を持っていたが、その力は、全て、一人の半人半魔の少年のためのものだった。
その力の存在を知った父である王は、考えた。
これで、世界を手に入れられる、と。
えっ?
俺は、二人の話をきいて、言った。
ということは、レイブンは、何歳なの?
「今年で15才だ」
ええっ、マジで?
俺は、驚いて声をあげた。
てっきり、20才は越えてると思っていた。
「悪かったな、老けてて」
二人が愛を確かめあうのに、しっかりと立ち会わされた俺は、その後、二人にいろいろな話をきかされた。
まあ、主に、二人の馴れ初め、みたいな。
それをきいて俺が思ったことは。
レイブンの封じられた力を解放する方法はあるのか?
「いや、封印は、とけると思うが、我々には、解けない」
その封印は、人の子の手によって解かれなくてはならないのだという。
なら。
俺は、言った。
適任を俺は、知ってるよ。
というわけで、俺は、二人に俺を縛っている封をまず解いて欲しいと頼んだのだが、それは、彼等にはできないことだった。
「この魔石の封印を解けるのは、人間だけだ。俺たちには、触れることもできない」
じゃ、誰か、人間連れてこいよ。
俺は、言った。
それか、俺を人間のとこに連れてけよ。
「お前をここから動かすことはできない」
なんで?
「王は、お前を新しく飼育するつもりでいるからな。ここに閉じ込めて調教するつもりでこの部屋にお前を封じているんだ」
マジか?
俺は、あの中年男の慰みものにされるところを想像して、全身がぞわぞわしていた。
嫌、だ!
俺は、叫んだ。
それは、絶対に、嫌だ!
少し、考え込んでいたレイブンは、何かを決意した様子で顔をあげると、俺に言った。
「ちょっと待ってろ。封印を解ける人間を連れてきてやる」
ちょっと、というわけにはいかなかったらしく、俺は、長い時間、待たされた。
てっきり、もう、奴は、帰ってこないのではないかと俺が思った頃に、レイブンは、1人の人間を連れて戻ってきた。
頭からずっぽりとフードを被っているその人物は、部屋に入るとフードを脱いだ。
それは、俺の知っている人物だった。
「久しぶりね。ユウレスカ姫」
それは、ネシウス公国に妃候補として来ていたメイサ姫だった。
まだ、5才の少女でありながら、ネシウス公国に送り込まれていた少女は、妙に大人びていた、というか、小さな大人という印象だった。
あんたが、俺の封印を解いてくれるのか?
「ええ。私があなたの封印を解きましょう」
メイサ姫は、銀の髪に青い瞳の美少女だった。
「だけど、私は、父のたくさんいる側室のうちの1人が産んだ姫にすぎない。まあ、レイブン兄様や、この子みたいに扱われてないだけましというだけよ」
この子、ほんとに、5才なの?
問うた俺にメイサ姫は、答えた。
「私たちは、年齢相応だと生きていけない環境に生きているのよ。あなたみたいな湯水に浸かって生きている訳じゃないの」
はぁ・・・
感心している俺にかまわず、メイサ姫は、俺の方へと手を伸ばしすと、俺を縛っている封印の紐をナイフで切った。
あっ、力が、みなぎってくる。
俺は、伸びをしたくなったが、やめておいいた。
ここで、人化しても、きっといいことなんて1つもない。
俺は、すぐさま、転移ゲートを開いた。
俺を抱いたコウと、レイブンと、メイサ姫は、ゲートへと入っていった。
「驚いたよ、ユウ」
夜着にガウン姿のクリスが執務室のデスク越しに俺と並んでソファに腰かけているコウとレイブン、メイサ姫を前にして言った。
「で?君がもう1人の『Rー15』なわけか?」
「はい」
コウは、頷いた。
「コウ、です」
「君たちは、みんな、アストラル王国に亡命希望なわけ?」
「そうです」
レイブンは、答えた。
「というか、コウと、メイサ姫は。俺は、戻らないと」
「なんで?」
クリスに問われて、レイブンは、答えた。
「母が、クスナット教国にいるので」
「マジで?」
なんか考えていたクリスは、言った。
「君たち魔族は、みんな、封印されているわけなのか?」
「はい」
レイブンが頷いた。
「魔族は、みな、魔石で封じられています」
「その魔石から解放されたらどうなる?」
クリスがレイブンにきくと、レイブンは、少し考えてから答えた。
「たぶん、暴動がおきます」
「その暴動をコントロールすることは、できるか?」
クリスは、きいた。
「例えば、魔族による反乱的な感じにすることは、可能かな?」
「それは」
レイブンが言った。
「可能だと思います」
レイブンは、続けた。
「まず、上層部にいる魔族の戦士たちを解放し、彼等に奴隷にされている魔族たちをコントロールさせれば、可能です」
「では」
クリスは、にっこりと微笑んだ。
「それを実行しようじゃないか」
慌ただしい足音がきこえて、バンっとドアが開いて魔導師団の制服姿のアークが息を切らして駆け込んできた。
「ユウは?」
「アーク!」
アークは、俺のもとへと駆け寄ると俺をぎゅうっと抱き締めた。
「ユウ、無事でよかった!」
クリスが、咳払いをした。
「あー。ポンコツ魔導師団長がきたところで、作戦会議だ」
翌朝。
アストラル王国の魔導師団の制服を着た俺とコウは、それぞれの主であるアークとレイブンを伴って、クーナの山城の前に広がる庭に集まったアストラル王国の騎士団と魔導師団を前にした立っていた。
レイブンは、アークの手で封印を解かれて、獅子の獣人の姿で騎士の格好をしていた。
クリスは、全員に聞こえるように大声で言った。
「いいか。騎士団と魔導師団は、協力して作戦を実行する。騎士は、魔導師を守れ!魔導師は、それぞれ魔石によって封じられている魔族の人々の封印を解くんだ。レイブンは、魔族への念話を城から送り続けてくれ。ユウとコウは、クスナット教国の魔導師たちを攻略すること。アークは、2人の監督兼補佐だ」
「我々も、協力しよう」
ディエントスとアルカイドが進み出た。
「人と、魔族の共存への第一歩へ」
「ありがとう、感謝する」
クリスが言った。
「では、これより、『クスナット教国攻略作戦』を開始する」
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