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雷は次第に近づき、防音の利いた室内でもびりびりと振動する程だった。カーテンを透して閃光が入り込む。秋穂は音と光に怯え、なかなか眠れずにいた。冬馬は一緒にベッドに入り、そんな彼を抱き締め続けた。
十二時前になり、やっと外が静かになった頃、秋穂は小さな寝息を立て始めた。冬馬はしばらくその寝顔を眺めていたが、起きる様子がなかったのでベッドから離れた。
部屋を出ると、隣の部屋の前で詩雨が蹲っていた。冬馬に気がつき顔を向けた。ゆっくりと立ち上がって近づいてくる。
「秋穂、寝た?」
「ああ、やっと寝た。あいつ、雷が駄目なんだ」
「ふうん」
小さく鼻を鳴らす。
詩雨の纏う空気がいつもと違うように感じる。そのせいか、ふたりの間に、微妙な緊張感が生まれた。
冬馬はそれにまったく気づいてない振りをして、
「晩飯、食べ損ねたな」
そう言って笑った。
間近にいる詩雨も、薄い笑みを浮かべている。冬馬のそれとは意味の違う、何処か酷薄そうな微笑。
「──秋穂のことも、喰い損ねた?それとも、もう喰っちゃったのかなぁ?」
彼の言葉の意味を察し、一瞬きつい眼差しで見返す。だが、すぐに眼を閉じた。横をすり抜けて行こうとする肩は、思いの外強い力で押さえられる。
「ああ、なんだ、やっぱり見守ってただけ?──おまえ、かわいそうだなぁ」
詩雨が冬馬の股を割って、片足を滑り込ませる。腿に彼の熱を感じて、くすっと笑う。
「オレが──相手シテやろうか?」
少し背伸びして耳許で囁く。
「馬鹿言うな──こんなのただの生理現象だ」
肩に置かれた手を払おうとしたが、強い力で押さえつけられ動かせない。
「そんなに怒るなよ。子どもの遊びみたいなもんだろ。前にふざけて抜きっこしたことあったよな。それと変わらない」
口調は軽いのに、肩を掴む力は更に増し、シャツの上から爪が食い込んでくる。
「──つぅ」
痛みに顔をしかめ、眼の前の男の顔を見返す。
間近にある薄い色の瞳に、青みが増したように見えた。紅い唇と口許のほくろがやけに淫らに感じる。
(誰だ、こいつ──こんな顔知らない──)
遊びと言いながら、詩雨が欲情しているのがわかった。腿に自分と同じ熱さを感じたから。それに煽られてか、冬馬の熱も更に高まる。
吐息が混じり合うくらいに顔を近づけ、詩雨は冬馬の唇の端を、ぺろりと舐めた。
「腹減ってるなら──オレを喰えば?」
手を引かれ誘われた先には、詩雨の部屋の扉があった。
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