14 / 38

4 ☆☆☆☆

 雷は次第に近づき、防音の利いた室内でもびりびりと振動する程だった。カーテンを透して閃光が入り込む。秋穂は音と光に怯え、なかなか眠れずにいた。冬馬は一緒にベッドに入り、そんな彼を抱き締め続けた。  十二時前になり、やっと外が静かになった頃、秋穂は小さな寝息を立て始めた。冬馬はしばらくその寝顔を眺めていたが、起きる様子がなかったのでベッドから離れた。  部屋を出ると、隣の部屋の前で詩雨が蹲っていた。冬馬に気がつき顔を向けた。ゆっくりと立ち上がって近づいてくる。 「秋穂、寝た?」 「ああ、やっと寝た。あいつ、雷が駄目なんだ」 「ふうん」  小さく鼻を鳴らす。  詩雨の纏う空気がいつもと違うように感じる。そのせいか、ふたりの間に、微妙な緊張感が生まれた。  冬馬はにまったく気づいてない振りをして、 「晩飯、食べ損ねたな」  そう言って笑った。  間近にいる詩雨も、薄い笑みを浮かべている。冬馬のそれとは意味の違う、何処か酷薄そうな微笑。 「──秋穂のことも、喰い損ねた?それとも、もう喰っちゃったのかなぁ?」  彼の言葉の意味を察し、一瞬きつい眼差しで見返す。だが、すぐに眼を閉じた。横をすり抜けて行こうとする肩は、思いの外強い力で押さえられる。 「ああ、なんだ、やっぱり見守ってただけ?──おまえ、かわいそうだなぁ」  詩雨が冬馬の股を割って、片足を滑り込ませる。腿に彼の熱を感じて、くすっと笑う。 「オレが──相手シテやろうか?」  少し背伸びして耳許で囁く。 「馬鹿言うな──こんなのただの生理現象だ」  肩に置かれた手を払おうとしたが、強い力で押さえつけられ動かせない。 「そんなに怒るなよ。子どもの遊びみたいなもんだろ。前にふざけて抜きっこしたことあったよな。それと変わらない」  口調は軽いのに、肩を掴む力は更に増し、シャツの上から爪が食い込んでくる。 「──つぅ」  痛みに顔をしかめ、眼の前の男の顔を見返す。  間近にある薄い色の瞳に、青みが増したように見えた。紅い唇と口許のほくろがやけに淫らに感じる。 (誰だ、こいつ──こんな顔知らない──)  遊びと言いながら、詩雨が欲情しているのがわかった。腿に自分と同じ熱さを感じたから。それに煽られてか、冬馬の熱も更に高まる。  吐息が混じり合うくらいに顔を近づけ、詩雨は冬馬の唇の端を、ぺろりと舐めた。 「腹減ってるなら──オレを喰えば?」  手を引かれ誘われた先には、詩雨の部屋の扉があった。

ともだちにシェアしよう!