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第5話 二度目のお出かけ
しばらくして、やっと冬夜が満足したようでなんとか終わった。おれはぐったりとベッドに横たわってため息を吐く。疲れた、毎回思うのだが冬夜の体力があり過ぎる。
それでも、今日は前から言おうと思っていた事がった。
「あのさ……また、コインランドリーに行きたいんだけど……」
「え?」
気だるい体をベッドから起こしながらおれはそう言った。服を見下ろすと色々なものでベタベタになっている。
冬夜は首を傾げて言った。
「その服は捨てる前提で買ったんだよ。わざわざ洗わなくていいよ」
「いや、その……いつも着てる女装の服がさ、結構汚れてきててさ、洗いたいなって……」
そうなのだ。いつもはゴムを付けているから致命的な汚れは無いものの、汗はかくし何度も着ているから気になる。消臭や除菌のスプレーをかけてアイロンをしていても限界がある。
「なるほど」
「この服も可愛いし、値段は知らないけど良いものだと思うし。捨てるのは可哀相じゃん……」
そう言ってメイド服を見下ろす。似合わないおれに着られて、こんなに汚されるのは気の毒だ。
それに、行かないに越したことはないが、どうせあらうなら纏めてしまった方がいい。
こんな奴に頼むのなんて嫌だが、それしか方法がない。
そう言うと冬夜は苦笑しつつ言った。
「いいよ。じゃあ、準備してくるね」
そうしておれはまた女装して外に出ることになった。
「じゃあ、行こうか」
「……う、うん」
また着替え、洗いたい物をまとめると、準備をすませた冬夜が迎えに来た。
うつむき気味に部屋から一歩出る。
「はぁ……」
二度目だがやっぱり緊張する。やめておけばよかったと少し後悔し始めた
「今は人が少ないから、今のうちに出よう」
「わかってる」
少し躊躇していると冬夜がそう言った。わかっているがやはり怖い。出来るだけ体を縮こめて冬夜の後ろをついて行く。
「あ、冬夜君!今から出かけるの?」
なんと、シェアハウスから出られると思ったところで、数人の住人が帰ってきて鉢合わせしてしまった。
おれは思わず固まる。
「そう、今からちょっと出かけるんだ」
冬夜は何もないようにそう答える。おれは気が気じゃなくて、出来るだけ存在を消すように冬夜の背中に隠れる。
「あれ?その子は?ここの子じゃないよね?冬夜君の友達?」
隠れていたが、すぐに見つかった。しかし、俯いていたし女装していることもあって、おれだとばれてはいないようだ。
「この子は俺の恋人だよ。今から家に送りに行くんだ」
「っ……」
どうするのかと思ったらそう言って、冬夜はおれを引き寄せ肩を抱いた。
「え?冬夜君、今彼女いないと思ってた……」
相手は驚いた顔をしてそう言った。後ろにいた数人の中には他にも女の子もいたが少しショックを受けたような顔をしていた。
おれはとりあえず声を出すことも出来ず、固まったままされるがままになる。
「じゃあ、俺は行くから。今日は帰ってこないかも」
冬夜はいつも通りの笑顔でそう言うとそのまま外に出た。
「びっくりした……」
周りに人がいなくなったところで、おれはそう言った。
「驚いたね。まあ、でもばれてないみたいで良かった」
「よくないよ……もう」
呑気に言う冬夜に文句を言いつつ、取り敢えず最初の目的通り、おれたちはコインランドリーに向かう。
道中は数人とすれ違った程度でアクシデントはなく、コインランドリー着いた。店の中も人はいなかった。
「はぁ……やっとか……」
「あ、お金は俺が払うよ」
服を洗濯機に入れたら、冬夜が言った。
「え?いいの?」
「汚したのは俺だし。当然だよ」
冬夜はまた苦笑しながら言った。
そう言って冬夜はお金を払ってしまった。そういえば、この間来た時も冬夜が払っていた。始めて女装をして外出したのでそこまで気にしてなかった。
まあ、冬夜のせいではあるし断る理由もないのでそのままにする。
洗濯が始まった後は待つだけだ。
「それにしても、あんなこと言って良かったのか?」
ベンチに座って少し落ち着いたところでおれは冬夜にそう聞いた。
「え?何が?」
「いや……みんなの前で恋人なんて言ってよかったのかなって……」
誤魔化すために言ったのだろうが、冬夜はモテるしこの先可愛い女の子に告白されたりしたら、この先困らないだろうか。
「ああ、今は彼女とかいないし……それに俺は伊織ちゃんに夢中だから。ある意味本当の事だし」
そう言って冬夜はまたおれを引き寄せて肩を抱く。
「っ……また……そんな事言って……他に好きな人が出来たらどうするんだよ……知らないぞ……」
「まあ、今は伊織ちゃんが恋人ってことでいいじゃん……」
冬夜はそう言うと、首を傾げて少し考えるとさらに言った。
「そんな事気にしてくれるなんて、伊織ちゃんは本当に優しいんだね」
「え?なんのことだ?」
そんなに優しいと言われることなんてした覚えがない。
「だって、捨てていいって言ったメイド服も可哀想だからって洗って上げたりさ。脅してる俺の彼女の心配したりしてるしさ」
クスクス笑いながら言われて、何だか恥ずかしくなる。
「服は女の子の服が高いって知ってるから、勿体ないって思っただけだし、彼女は冬夜じゃなくて今後できるかもしれない彼女を心配してるんだよ」
なんだか言い訳をするみたいに早口で言う。冬夜は相変わらずニコニコ笑いながら聞いている。
「今日は楽しかったね。服は本当に似合ってたから、またしようね」
「嫌だよ!そのために洗ったんじゃないからな……まったく」
そんな感じに話し、しばらくすると眠くなってきた。目の前の洗濯機には洗濯物が一定の感覚で回っていて見ているとぼんやりしてくる。しかも、冬夜はさっきおれを抱き寄せたまま離す気配もなくて、体温が暖かくて心地がよくなって来る。
何よりも、体も疲れていて少し気だるかったのだ。
こんな状況で寝るなんてあり得ないと分かっていたが、少し気が緩んだみたいだ。
ガクッと首が落ちて、眠りそうになり慌てて目を開ける。
「眠くなっちゃった?洗濯が終わるまでまだ時間があるから寝てていいよ」
冬夜は気が付いたようでそう言う。
「い、いや……でも」
「大丈夫だよ、こうしてれば変には思われないし問題ないよ」
そう言って冬夜はさらにおれを引き寄せて肩に寄りかからせる。
起きなくちゃと思ったものの眠気には敵わなかった。静かな店内で洗濯機の音も心地良くてすぐに抗えなくなってきた。
気が付いたらおれは冬夜に寄りかかったまま眠っていた。
夢うつつに洗濯機の音がする、それ以外には何の音もしない。夢は見た気がするがよく覚えていなかった。でも優しく頭を撫でられていた感触があった、とても暖かい手が優しく撫でるので心地がよかったのは覚えていた。
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