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第15話 思い
「……は?……え?あれ?冬夜って女の子と付き合ってたりしてたよな?」
頭がぼんやりしていて一瞬、冬夜が何を言っているのか分からなかった。
やっと頭が追いついてきたが、やっぱり意味が分からない。
いつも女の子に囲まれて、付き合っている女の子を切らせたことがないと噂で聞いていたからそんな風には見えなかった。
「ゲイだっていうのは隠してた。同性愛って世間的には知られてきてるけど、普通に仕事をしたり生活するうえでカミングアウトしても得な事なんてない。だから一生隠して生きて行くつもりだった」
「隠して……」
意外な事実にいまいち頭がついて来れてなくて、なんだか力の抜けた変な受け答えをしてしまった。
「女の子のことは別に嫌いじゃないし、このまま、割り切って適当に誰かと結婚するつもりだった。カミングアウトする人とかもいるしオープンにする事は否定しないけど、言わなきゃダメだとも思わないから……」
「まあ、たしかに……」
同性愛者だからって言わなきゃだめって事はないだろう。おれは異性愛者だってわざわざ言ったこともないし。
冬夜の言う通り同性愛者の事は知られていてもまだまだ偏見の目はあるだろうし、言ったところで何かが有利になる事はなさそうだ。
おれ自身女装なんて趣味はあるがそっちの事は知らないことの方が多いし、偏見はない人だって全く見る目が変わらない人なんていないだろう。
「女装の事脅したり、一昨日したことの償いになるか分からないけど、これが俺の秘密……」
「……そんな事。おれに言ってよかったのか?」
おれは思わずそう言った。おれの女装は恥ずかしくはあるがあくまで趣味だ。いつかは飽きたり辞めたりも出来る。なんなら時間が経てば笑い話のネタくらいにまでなるかもしれない。
でも冬夜のことは一生を左右しかねない事実だ。そんな事をこんなに簡単に言ってしまっていいのか心配になる。
すると冬夜が少し驚いた顔をした後、思わずといった感じで笑った。
「え?笑うとこだった?」
まさかそんな反応するとは思わなくて思わず聞いた。
「だって、伊織が優しすぎるんだもん。そんな事言ってくれるとは思ってなくて、笑っちゃった」
「そんなに優しいか……?」
「優しいよ。一応俺がしたことが酷いって自覚はあるからさ。怒られるか最悪、脅され返されても仕方ないと思ってたし」
「流石に脅したりはしないよ……」
それに初めて聞いた事実に驚いて、ちょっと気が抜けたというのもある。
「本当に伊織は優しいよ……初めて喋った時もそう思ったもん」
「初めて喋った時……?……なんかあったけ?」
冬夜が懐かしそうに言っているがおれはまったく覚えがない。
「あの時、色々落ち込んでた時期だったんだ。仕事は上手く行かなくて、他にもゲイの事隠してることも色々あって辛い時期だったんだ。そんな時に仕事帰り、雨に降られたおかげで夕ご飯も買いのがして途方にくれてた。本当に自分のダメさに落ち込んでたんだ」
「そんな事があったんだ」
冬夜でも落ち込む事があるんだと以外に思った。でも、考えて見れば当然だし悩みもなさそうと思うのは逆に馬鹿にしているのとかわらない。
「その時、ダイニングキッチンで明らかに落ち込んでた俺に伊織が話しかけてくれてさ。持ってたお弁当そのままくれたんだよな」
「あ、それであのお弁当おれが好きだって知ってたんだ」
「そう、伊織もお腹空いてるだろうに全部くれてさ、自分はカップ麺があるからって渡してくれて。それに、明らかに様子がおかしかったのに、事情を詳しく聞いて来たりもしなくて。それも嬉しかったんだよ」
冬夜はそう言って微笑む。おれは呆れる。
「これくらい普通だよ。っていうか何も聞かなかったのは多分、初めて喋るからそこまで聞けなかったからだけだと思うよ。それに、冬夜も結構いいやつだとおもうよ」
「え?そうか?」
「まあ、ちょっと脅したり酷い事するけど。ジムに行った時も真面目に付き合ってくれたし……それに今日もこの事も言うのに結構無理したんじゃないか?」
「え?い、いやそんな事……」
冬夜はそう言うがおれは冬夜の手を取り言った。
「さっきから顔色悪いし、手もちょっと震えてる」
おれも限界が来ていたから最初は気が付かなかったが、部屋の前で待っていた時から顔がこわばっていたし、言おうと躊躇していた時は手を力いっぱい握って、少し震えていた。
そう言うと冬夜は少し驚いた表情をしたあと泣きそうな顔になる。
「ほら、やっぱり伊織は優しい。だから伊織はダメじゃないし役立たずでもない」
「冬夜……」
「でも、本当は何も出来なくても、役立たずでもいいんだよ……そんな事どうでもいいんだ。俺はそう思う……そう思ってる」
冬夜は言い聞かせるように、そう言った。
「っ……」
そう言われて急にボロボロ涙が出てきた。
「伊織……」
冬夜は少し驚いた顔をしたあと近づきふわりと抱きしめてくれた。冬夜の腕の中はとても暖かくて、また涙が止まらなくなってしまう。
すると、今度はギュッと力強く抱きしめられた。おれは少し迷ってから抱きしめ返す。
冬夜の体温が移ったのか、体がどんどん暖かくなってきた。一昨日から、ずっと感じていた胸のつかえのような物が溶けて無くなっていくのを感じる。
その時、冬夜の体が少し離れた。目を開けると冬夜の顔が目の前にあった。冬夜の顔が近づきそのままキスをする。
「冬夜……」
そのキスは軽く触れたあともう一度触れる。次は唇を食む。
最初は驚いて、何で今キスなんてするんだろうとは思ったが今まで何度もしてきたし、その優しい触れ方が心地良くて、今さら拒む気にもなれなかった。
キスは段々深くなる。しかも、柔らかく溶かすようなキスだったから、止めるタイミングを逃してされるがままになる。
冬夜はゆるく唇を噛んだあと吸い上げ、舌が唇をなぞり歯にも触れた。思わず口を開けると舌がすぐに入ってくる。いつもみたいに激しいものじゃなくて、ゆっくり探るように入ってきて。
優しく探るように舌をすくわれ、つられるようにおれも舌を絡めてしまう。
「ん……」
その途端、腕に力が入って抱きしめられ、キスが深くなった。舌がさらに深く入って奥まで絡まる。唾液を交換するようにキスを繰り返す。冬夜が顔の角度を変えて唇を合わせる度に水音がする。
何度もこんなキスをしてきたのに、こんなに気持ちいいと思ったのは初めてだ。舌が触れ合う度にジワリと快楽が広がる。
もっとして欲しいなんて思って自分で驚く。舌を絡めて深くキスをしているからか口からトロリと唾液がこぼれる。
「っは……」
キスに没頭していたら息継ぎをするのを忘れていた。しかも気が付いたらいつの間にか床に押し倒されていた。フローリングの床が冷たくて気持ちいい。ぼんやりと冬夜を見上げる。
冬夜もこちらを見ていた。その瞳は少し潤んでいて熱に浮かされてような表情だ。
きっとおれも同じような表情をしている。
「伊織……」
冬夜はそう言うと頬を撫でた。その手つきも優しくて暖かい、気持よくてもっとしてほしくてそちらにすり寄る。指がこぼれた唾液をぬぐい唇をなぞった。
するとまた冬夜の顔が近づいてきた。今度は自分から口を開けて受け入れるようにしてキスをする。何度もついばむように吸ったり食むように唇を重ねていく、遊ぶみたいに飽きることなく何度も。
「ん……あ!……」
キスに夢中になっていたら重なっていた冬夜の体が、股間に擦れて体が反応してしまった。
すると冬夜は我に返ったような表情になってキスを止めた。
「あ、ごめん……これ以上はダメだよな……」
おそらく、一昨日の事を謝った後なのに早速同じような事をしてしまったからと言う事なのだろう。
少し恥ずかしそうに笑って体を離そうとした。
「え?待って……あ」
思わず冬夜のシャツを掴んでそう言った。
なんだかもっとして欲しいと催促したみたいで恥ずかしくなる。慌てて手を離して目線を逸らす。
冬夜は少し驚いた顔をして動きを止める。
「止めなくていい?」
「えっと……その……」
聞かれてさらに恥ずかしくなってくる。
「嫌じゃない……?」
優しく聞かれてどう答えていいか分からなかったが少し迷ったあとコクンと頷いた。本当に嫌じゃなかったのだ。
「嫌になったら言ってくれ、そうじゃないと止まれないから」
冬夜はそう言って足を撫でる。
「う……ん」
そして手はそのまま上に登って服の中に入って撫で、冬夜はそのまま首筋にキスを落す。
手つきも優しくて触れるところから溶けていくような感覚がする。
冬夜は服をめくりあげ首筋や鎖骨にキスを落す。
また冬夜が動いて足の間が擦れてまたピクリと体が反応してしまう。
そのまま気が付いたら服が完全に脱がされていた。
次に足の間に手が入ってきてくつろげ、そこに触れる。そこは少し硬くなっていて恥ずかしい。
「伊織……硬くなってる」
「い、言うなよ……」
そう言ったものの止めることもせず腕で顔を隠す。
「ふふ、可愛い……」
冬夜は下着に手をいれ直接触れる。
「うっ……あ……痛っ……」
直接触られるとやはり気持ちがよくて、ビクリと体が跳ねた。しかし、その途端に頭を床にぶつけてしまった。
「あ、大丈夫?ベッド行こうか」
冬夜はそう言っておれを起き上がらせて、ベッドまで連れていく。
「わ……え?ちょ!」
すぐにベッドに押し倒されて早速ズボンも脱がされ、足を広げられた。
恥ずかしいと思う間もなく冬夜は身を屈めて、おれの中心を咥える。
「と、冬夜!なん……」
「大丈夫、すぐ気持ちよくなるから」
「で、でも……あ……っあ」
音を立てて強く吸われ。裏筋のあたりにざらりと舌が這う。止めようと思ったが腕に力が入らなくて、冬夜の頭を撫でるだけになった。
もうすでに固くなっていたそれは、あっという間に限界がやって来る。
暖かい口内で舌がぬるりと絡まり、思いっきり吸われると腰が砕けそうなくらい気持ちがいい。
堪える暇もなく、限界が来ておれは熱を吐き出してしまった。
「ンぐ……」
「ご、ごめん……」
「全然大丈夫……気持よかった?」
「い、いや。それより大丈夫か?」
「大丈夫だって……」
冬夜はそう言って口から出したものを手に出した。そしてそれをおれの足の間に入れ込む。
「っあ!……」
指はそのまま後孔に入ってくる。
おれの出した精液のおかげで痛みはなかった。
「腫れてはいないみたいだな。この間は無茶してごめんな。安心して今日はしないよ。気持よくするだけだから」
冬夜はそう言って指をもう一本指を増やし、ゆっくりと中を探る。
「っん……んあ」
その手つきはゆっくりで優しくてじわじわと快楽が広がる。
冬夜が指を動かす事にぬちぬちと音がしてきた。音からなにをしているか分かって恥ずかしい。
「伊織のここ気持ちいいところだよね」
冬夜はそう言って奥にある少しふくらみを指で擦る。
「っあ!……ん……ああ」
その途端快楽が強くなって思わず声を上げてしまう。思わず口をふさぐ、すると冬夜はその塞いだ手をどかして唇を塞ぐ。
「ん……」
舌がすぐに入ってくる。おれはさっきからの流れもあって簡単に受け入れ、自分から舌を絡める。
上からも下からも水音がし始めた。
どちらからも責められて快楽が体を満たす。もっと近づきたくて腕を伸ばして冬夜の首に絡めた。すぐに体がぴったりと重なる。
「伊織、あんまり可愛い事すると止められなくなるから……」
冬夜が切羽詰まったような声で言った。腰に当たっている冬夜のものは固く張りつめている。
「っ……あ、その……冬夜、辛いなら別に……」
同じ男だからどれだけ辛いかは分かる。さっきから気持よくしてもらっているし、返さないのも悪い。
冬夜は歯を食いしばったような表情をしたあと、少し怒った顔になって言った。
「本当に知らないからな……」
冬夜はすぐに指を引き抜き、少し体を離す冬夜はズボンをくつろげた。
そして、自分のものを取り出すとおれの後孔にあてがう。
「ん……っあ」
さっきまでほぐしていた場所にぐちぐちとこすりつける。なんだかそれだけの事なのに心臓が痛いくらい高鳴ってくる。
「っく……」
冬夜は顔をしかめぐっと腰を推し進め、と硬いものが入ってくる感触がした。よく解してくれたものの少し痛みが走った。
「っあ……」
しかし、痛かったのは最初だけで奥の方に入ると痛みはなく、代わりに強烈な快楽が襲ってきた。
思わず冬夜にしがみつく。
「やばい……気持ちいい。伊織……ごめん我慢できそうにない……」
冬夜はそう言った途端がげしく動き出した。
「っあ!や……激し……っあ」
カリの部分が気持ちのいいところにゴリゴリ当たって快楽が電気みたいに流れる。
肌と肌がぶつかる音がして奥の方に入っていくごとに気持ちよくなる。
「っく……はっ……」
「冬夜……」
気持ちよくてどうにかなりそうだ。ガツガツ突き上げられて必死に冬夜にしがみつく。
「伊織……」
生理的な涙で歪む視界で冬夜を見上げる。目が合うとすぐに冬夜がキスしてくれた。
「っあ……っあ……んう……もう……イク」
気持よすぎてもうイキそうになってしまう。
「いいよ、イっても……」
奥まで突きあげながら、冬夜は囁くように言った。
「っあ!ああ!」
足がびくびくと跳ねて冬夜を締め付けながら熱を吐き出した。
「っく……」
冬夜も顔をしかめてイッたみたいだ。中で濡れた感触がする。びくびくと中で震える感触がしてそれも気持ちいい。
荒く息をしながらもまだ終わらない絶頂に、必死に冬夜にしがみつく。
何度かに分けて中で吐き出したあと冬夜も荒く息を吐きながらおれにのしかかった。二人とも汗びっしょりだ。
「ごめん大丈夫だった?」
冬夜はそう言って優しく微笑みながら頬を撫でる。上がった熱は徐々に下がって来ているが。頭の中は甘いものでトロトロに蕩けて触れるとこが全て気持ちがいい。自分でも分かるくらい蕩けた顔で答える。
「大丈夫……気持ち良かった……」
お腹の中がまだ熱い。冬夜のものはまだ硬いのが分かる。
気持ちがいいのか冬夜がゆるゆると動かした。
「あ。ごめん……」
冬夜は気が付いたのか、恥ずかしそうに謝った。この時おれは明らかに熱に浮かされていていつもなら絶対に言わない言葉を口走る。
「いいよ、もっとして……」
そう言ってまた冬夜の首に腕を絡め、腰を押し付けるように足も絡めた。
その途端冬夜は一瞬顔をしかめる。
「っ……知らないからな」
そうしてその後意識が途切れるまで俺たちは抱き合った。
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