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第2話
「嫌だ!嫌だ!!離せ!離せーーーーーー!」
廊下を歩くあいつの背中を拳で叩きながら、喚く。
いつもなら忙しなく働く者達の隠れてこちらを伺っている息遣いだけ感じる。
そんな中、靴音を響かせ、それでも走りはしないで執事が俺達の元に歩み寄った。
「何をされているんですか?」
俺たちよりも少し年上の元兄弟分が青ざめた顔で尋ねる。
「退け!お前には関係ない!」
「全(ぜん)様をおろして下さい、一(いち)様。」
そう言って執事の手が伸びそうになった瞬間、俺たちが今までいた部屋の扉が音を立てて開いた。
「そいつらの番いを私が認めた!お前は二人のための新しい部屋を用意しろ!この件に関しては全て一の言うことに従え!いいか?一の言葉にのみ従え!!」
それだけ言うと、父さんは扉を閉めた。
「そう言う事!悪いなぁ…運命の相手を取っちまって…だが、俺はこいつをなんとしても手に入れると決めていた。お前は俺の下でよがり狂うこいつをただ見ているだけしか出来ないってわけだ!…さて、部屋を用意してもらおうか?全の為の部屋だ…Ωの全のな…」
一が執事に近付き、その耳に囁く。
既にその身で知っていた執事の顔が真っ赤になり、俺は青ざめて今までの大騒ぎしていたのが嘘のようにその身を固くした。
俺達だけの秘密だった…なのに、一は全てを知っていたと言うのか?
初めてのヒート。執事の沢に仄かに抱いていた恋心に油を注いだようなそれに、二人が運命と呼ばれる者だと悟った。そして同時に自分がΩ性である事も。
抱かれ、その身に沢の体液が流れ込んでくる快感。うなじに歯を立てられ、皮膚に感じる圧が俺を幸福と絶頂に導く。
それでも俺達は番にはなれなかった。俺にはこの家を継ぐと言う使命があり、絶対的王者の証であるαでい続けなければならなかった。
抱かれ、この身に男のモノを咥え込み、子を孕ますΩであるわけにはいかなかった。
「さて、廊下でいつまでこうしていさせる気だ?」
一の声に止まっていた時間が動き出す。
沢が唇を深く自らの歯で噛み締めていたのがわかる血の筋が顎に垂れた。
それを一の指がぐいっと拭って沢の皺一つない服に擦り付けた。
「汚らしい血で床を汚すな。さて、部屋ができるまでは俺の…いや、お前の部屋に行こう。沢、用意ができたら全の部屋に来い…タイミングをうまく測れよ?」
ゲラゲラと笑って沢を廊下の端に向かってその胸を勢いよく押すと、バランスを崩した沢の体が壁にぶつかった。しかしすぐに崩れそうになる気持ちと一緒に立て直すように姿勢を正すと、一礼して踵を返し廊下の端に消えた。
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