4 / 106

第4話

捕まれた手を何度も振って離そうとするが、むしろ力を込められて痛みを感じた。 「くっ!」 口から出た呻き声に、一の顔が嬉しそうにほころぶ。 「いい声だ。ゾクゾクするよ、全。全てを持つ者…全。それとは逆に一つのものしか持てない俺。でもな、俺はたった一つでいい。お前を、全を俺の物にできた。ハハハ、俺は全を手に入れたんだ!」 天を仰いで笑い続ける一に嫌悪感しかない。 俺が全てを手に入れる者?どこがだ? 何一つ手に入れてやしない。 α性も、沢も、俺の手から滑り落ちていった。 そして、今からこの世で一番嫌いな、いや憎んでいる一に抱かれる俺が全てを手に入れる者? もう、何もいらない。だから俺を助けてくれ! そう願ったところで何の助けも来ない事を俺は知っている。それでも、願わずにはいられなかった。助けてくれと。 「さて、祈りは終わったか?どこにも届かぬお前の願い。」 うすら笑いを浮かべて一が俺の顎を掴む。 嫌だと首を振ると、今度は頬を片手で掴まれた。 グニッと音がしそうなほどに掴まれ、唇を突き出す。 それを一の口が噛んだ。 ぐにぐにと噛まれて段々と口が開く。その口の間から一の舌が俺の口の中に侵入して、俺の舌を絡め取ろうとするのを、すんでのところで逃げる。 ハっと笑い声を上げた一の手が口の中に入って、舌を掴んだ。 「逃がさねぇよ。」 そう言うと、自分の舌で俺の舌を絡めたまま俺の口の中に侵入して来る。 指が外されて、一の舌が俺の中でいいように蠢き、そのまま俺を抱き寄せて歩き出した。 離せない唇、抵抗できない身体、そして目の前の現実。 ベッドという、ただ眠るだけの俺の唯一の安心できる場所も、これからは寝るたびにここで今から行われる事を思い出す。それこそが一が俺の部屋を選んだ理由。 お前にこの家の中でΩを隠して安心できる場はないんだ、よく覚えておけ。 そう言われているような激しい舌に翻弄され、嫌いだ、嫌だという感情と共に身震いするほどの快感を感じていた。 そして、一は俺の前で薬を口に含むと、再び激しく嫌がる俺の頭を掴んで、喉の奥に薬を入れて無理矢理飲ませる。 それがヒートを誘発する薬だと、すぐに理解した。 何故なら、飲んだ直後にはもう体は熱く、目の前のアルファに抱かれ、子を求める感情に支配されかけていたから。 しかし一が相手だという事実が俺に理性を残させた。 「や…めろ…お前となん…か、絶対にい…やだ!」 一の一瞬見せた悲しそうな顔。それもまるで嘘のように大笑いすると一の顔が突如雄のそれに変わった。 「もう、お前は逃げらんねぇんだよ!いいか、俺から逃げるな!お前は俺にα性と引き換えにその身体を俺に明け渡したんだよ!いいか、お前は俺に自分で自分を売ったんだ!」 言われて反発しようとする俺に一が言った。 「今更ジタバタするんじゃねぇよ。早くしないと、一番いいところを沢に邪魔されちまう。」 沢に見られる?! その事実を突きつけられて抵抗する事を忘れた俺をベッドに押し倒した一が、覆い被さって来た。

ともだちにシェアしよう!