5 / 106

第5話

「っ!…っくぅ!…っ!!」 「声、我慢すんなよ。誰にも聞かれやしない…まぁ、知っているだろうけど…それよりも全、こっちを見ろ!目を開けるんだ!」 一が言う通り、俺はずっと目を瞑り、自分に言い聞かせていた。 この身体中を這う舌と手は身震いするほどに憎む一のそれであるはずがない、これは違う、そうこれは俺の沢が一の真似をして俺を抱いている手だ。一のなんかじゃない! そうやってこの辛い現実から目を背けようとしていた俺に対して、それに気が付いたのか一が瞑った俺の目を手で無理矢理こじ開けた。 「全、こっちを見ろ!俺を見ろ!お前を抱いているのは誰だ?言え!誰がお前を抱いている?」 目の前の現実に身体が震え涙があふれ出る。一に抱かれていると理解し、逃げたくてたまらないはずなのに、それでも萎える事なく、αに抱かれてその子供を欲しがるΩの身体に嫌気がさす。 黙ったままでいる俺の口に一の指が押し込まれ、無理矢理開かされた。 「お前を抱いているのは誰だ?全、言え!言わないなら…あぁ、丁度いい。」 その時、扉が静かにノックされた。 「さ…わ…?!やだ!やめろ!一、やめてくれ!」 扉の向こうにいるのが誰かを悟り、嫌がる俺の身体を起こして扉に向けて一がその膝に座らせる。 「あぁ、今入れたら沢もお前のこれに当てられちまうな…だが、この匂い…最後に沢にもかがせてやろう…いい考えだろう?全。」 「何?」 ふふんと一が鼻で笑うと、扉に向かって入れと、非情にも言い放った。 すーっと静かに扉が開き、沢が中に入って扉を閉めた。 既に俺の匂いに反応しているのか、顔は上げず、持っていた布で鼻を覆っている。 「さて、部屋の用意はできたのか?」 「はい…それでは。」 背中を向けようとした沢に一が声をかけた。 「待てよ。タイミングを測れと言ったののに、それもできないのか?」 「すみません…」 沢の声が震えている。 俺の匂いの充満する部屋にいるのだから、むしろここまで我慢していられる沢の精神力の凄さに驚く。 「その罰として、お前は今から行われることをここで見ていろ!そこに紐があるだろう?自分で自分の手と足を縛るんだ!早くしろ!」 言われるがまま沢が手足を縛り、一に言われた椅子に座る。椅子の脚と自分の足を一緒に縛った沢を見て、満足そうに頷いた一の手が俺の背中を押して四つん這いにさせた。 「全、現実を見るんだ!」 そう言うと一の指が俺の中に入り、Ω特有の男を受け入れるための体液をぐちゅぐちゅとかき回しながら二本三本と指を増やしてほぐしていく。 「はぁっ!あっ!っめろ!だめ…だ、見な…っで!やぁっ!んっ…っすけ…て…助け…沢!助け…ぁああああああっ!!」 沢に助けを求めて手を伸ばしかけた瞬間、指が抜かれ、それとは比べ物にならない圧迫感と快感が一気に俺を襲う。 「ひぃいっ!あああーーーーーーっ!」 激しい腰の動きに煽られるように、俺の腰も動き、それが一かどうかなんて考える事もできず、ただこの快楽のもっと高みへと導いて欲しいと願い切望の声を出す。 「噛んでぇ!早く、噛んでぇえええっ!」 いつもならそれは真似事で終わっていた。沢は俺を噛む事はできなかったから…だが、今俺が切望したのは… 「全様っ!」 切羽詰まった沢の声に顔を上げる。 なんでお前がそこにいるんだ? じゃあ、今このうなじに歯を立てているのは…誰? 一瞬の思考の後、一の声が聞こえた。 「これで終わりだ!全は俺のモノだーーー!!」 「やだーーーーーーーーっ!!」 「全様ーーーーーーーーーっ!!」 三人の絶叫が反響した部屋が静けさを取り戻した時、俺の首にはしっかりと噛まれたとわかる痛みと首筋を流れて白いシーツにポタポタと落ちてできた赤いシミ。それだけで何が行われたかを理解するには十分だった。 そして今まで感じたことのない快感に身体はビクビクと痙攣を起こし、一の体液を奥へ奥へと導く。 俺の背中に覆い被さっていた一が俺から離れると、沢に近付いてどうだ?と尋ねた。 「もう、匂いません…」 苦しそうな声で答えた沢の言葉に、その現実を第三者に突きつけられ、一縷の望みも失った俺の目から無意識に涙があふれ出た。 うつ伏せのままで肩を震わせ、そっと首に手を当てる。 歯形… 沢に付けてもらうはずだった、番の証… 一がこちらに向き直り、沢に自分達を部屋に連れて行けと言っているのが遠くの方で聞こえた。 それも一瞬。 もう何も聞こえず、何も見えない。まるで深くて暗い穴に落ちるようだ。 そうして俺は意識を手放した。

ともだちにシェアしよう!