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第6話

手が俺の頬に触れ、額に触れて頭を撫でる。 「んん…」 優しくて穏やかに俺を安心させてくれる手。 「さ…わ…ぁ。」 甘い声を出し、その手を握り頬に寄せると、掌にキスをした。 鼻をこすりつけて、沢の匂いを嗅ぐ。 え? 沢の匂いじゃ…ない? 「おい、どうした?」 聞こえてきた声はこの世で最も憎んでいるはずの身震いするほど聞きたくない声。 瞼を開くとそこには俺の横でこちらを見て笑っている一の顔。 その手を握り、俺はあろうことか沢の名を呼んだ。 握っていた手を急いで離すと、一が難なく捕まえてベッドに押し付ける。 「いっ!」 痛みに歪ませた口を俺を見下ろしている一の舌が舐め、そのまま舌をぬるっと入れて唇を合わせてきた。 「やめっ!んん…っめろ!い…っち…離せ…ぇっ!」 「ああ、俺がお前の番だ。他の誰でもない…この俺がお前の相手だ!他の奴の名前なんか呼ぶんじゃねぇ!感じろよ…俺の舌がお前の舌と絡み合い、二人の体液が溶け合う…さぁ、飲むんだ!全、お前の中に俺を受け入れろ!」 合わさる唇を頭を振って離そうとするが、一の手に頭を掴まれて身動きできず、一の胸を突っぱねるように押していた手も、キスをされればされるほどに力が抜け、一はベッドに押し付けている手と一緒に掴み直すと、頭の上に押し付けた。 身を捩り足を動かすが、それはただ気持ち良さから一に擦り付けそうになる腰に対する我慢。ほんの少しだけしか動かないシーツに自分が一に屈服するのも間近だと悟る。 それでも、飲むなんて絶対に嫌だ。 しかし既に喉に溜まったそれを吐き捨てる事もできず、我慢できずに飲まないように喉を鳴らすも、やはり少しは喉の奥からつーっと入ってくる。 「本当に俺が嫌いなんだな…」 突然の一の悲しそうな声に、止める間もなく声が出た。 「え?」 口を開いた途端に反射的にごくっと喉が鳴る。 「あ…飲んじゃ…った…」 そう言った俺に一が吹き出して大笑いし出した。 「笑うな!大体、お前が俺に変な事するか…ら…なんだよ?!」 怒鳴り散らす俺をじーっと見つめる一の視線に気が付いて、恥ずかしさから横を向こうとするが、やはり手で掴まれている頭を動かすことはできない。 「何なんだよ?!」 恥ずかしさに再び大声を出した俺の口を塞ぐように一がまたもキスをする。 「ようやく俺を見て話してくれた…俺がお前の番だ…愛しているんだ全。お前をこの世の何よりも愛してる。俺の全…もう離さない。」 ぐっと頭をベッドに押し付けられて苦しさに口が開いたそこに一の舌が再び入ってきた。 「俺はどんな時でもお前を、全だけを俺の番として、パートナーとして愛する事を全に誓う。愛してる…俺の全…」 まるで俺の体内に刻み込むかのような誓いにぞくっと身体が震えた。

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