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第8話
俺との関係を持った沢は俺達のことを運命の番だと言った。
「運命?」
再び二人の間に起こった衝動に抗えずに激しく抱き合って、沢のベッドで幸福に包まれた時間を過ごしていた俺に沢が言った。
「ええ。私も何度かΩとのこのような時を過ごしたことがありましたが…」
沢の突然の告白にがばっと起き上がる。
「え?!沢にはそう言う、愛する…番を約束した人とかいたのか?」
俺の顔があまりにも切羽詰まっていたのだろう。沢がクスッと笑って、俺の肩を抱き寄せてベッドに寝かせると頭を撫でた。
「こんな可愛いあなたがいたら、どんな約束も破棄してしまいますよ。但し、私にはそんな方はいませんし、それにあなたとは離れられない運命の相手のようですし…だが、あなたはこの家の当主。あなたを私の番として、Ωとしてこのうなじに私が歯形を付けられる日は来るのでしょうか?」
そう言って悲しそうな顔をした沢が俺のうなじに唇を押し付ける。
「ぁあっ!沢…俺をもっとお前で満たして!もっと奥深くに、沢のをちょうだい!」
部屋に充満する俺の匂いに優しい沢の顔が一瞬で雄のそれに変わる。
「お前のその顔、大好きだよ。」
そう言って頬を撫でると沢がその手を取り、掌に口付けてベッドに押し付けた。
「私の全様…運命のあなたに私の全てを捧げます。そしてあなたを守ると誓いましょう。全様、いつの日かその首に証を…」
後ろから打ち突けられる腰とうなじに押し当てられる唇。その激しさと優しさに翻弄され、理性の一欠片も無くなった俺達の抱き合う姿はまるで獣のように激しく、俺は沢との行為にどんどん溺れていった。
そうしていつの日か沢と番になろうと心決めてから数年、俺は当主としての仕事を覚える為に、父に付き従って出掛けることが多くなった。沢との逢瀬もなかなかうまく時間が合わず、ヒートの時期を一人で過ごさなければならなかったりもしたが、それでも抑制剤のおかげと、沢の機転のおかげで何とか誰にもバレずに済んでいた。
「なかなか時間が合わず、全様を辛い目に合わせてしまい申し訳ありません。」
今回のヒートも何とかやり過ごせそうになっていたある日、ようやく少し時間の取れた沢が部屋に俺を受け入れてくれた。俺の部屋ではいつ何時誰が入ってくるかもわからないので、大体は地下にある沢の部屋で会う。沢は周囲には少し気難しいと思わせており、あまり部屋に皆が近寄らない。
周りと壁ができるようで寂しくないのかと聞くと、沢は笑って、「これもあなたと私の大事な時間のためですから。」と言い、それにこれくらいが上司としてはいいんですよと、そうやって俺が心配しないように気遣ってくれる。
「ならいいんだけど…」
そう言って、沢の手を握る。
沢が俺の掌に唇を当てて俺をベッドに押し倒していく。いつものように俺は沢との幸せな時間を過ごすはずだった。
だがそこへ、いつもなら絶対に聞こえないノックの音が聞こえた。
二人で顔を見合わせるが、沢が俺に頷くと唇に指を当てて黙っていてくださいとジェスチャーをした。俺が頷くと沢は扉に向かって歩み寄り、俺が見えないようにほんの少し扉を開けた。何事かをボソボソと喋っていてた沢が、わかりましたとため息をつく。
扉を閉めてこちらに向かって来ながら沢が脱いでいた上着を手に取った。
「どうした?」
尋ねる俺に一瞬ためらってから沢が答えた。
「一様に呼ばれました。私でないとダメだということなので行ってまいります。どのような用件なのかもどれくらいの時間がかかるかもわからないので、全様もこのままお部屋にお帰りください。」
そういう沢に不満を顔に出して、嫌だと言った。
「もしかしたら、早く帰って来られるかもしれないんだろう?だったらここで待ってる。…お前の匂いに包まれていると安心できるんだ。」
そう言って、枕元に置いてあるきちんと畳まれたパジャマを手に取り、鼻に押しつけた。
「分かりました…ただ全様?」
「何?」
「一人遊びで私との分も使い果たさないでくださいね?」
ふふと笑うと俺に軽い口づけを残して部屋から出て行った。
「バカ…」
パジャマを握ったままでもう片方の手で唇に触れる。その手をゆっくりと唇から首、胸を通って下に下にと這わせていく。行き着く場所はわかっている。おずおずと下半身を露出させて、硬くなっているモノを扱き出す。
しかしそれは俺の欲望を満足させてはくれない。ごくりと喉を鳴らし、いまだになれぬ後ろへの刺激を行う。ひだ周りをゆっくりとくすぐるように触れ、静かに指を埋めていく。初めは枯れたように痛みを伴うがそれも一瞬、すぐに体液によって、俺の指の奥深くへの出入りを可能にさせる。
鼻に押しつけた沢の匂いに包まれ、その声、愛撫、そして果てるその時に見せる苦しげな表情と俺を狂わす雄の顔。その全てが俺を快楽へと導き、指の本数もいつの間にか増え、動きも激しくなっていく。
「沢、沢ぁ!っちゃう!沢のでイっちゃうよぉ!沢ぁ!」
繰り返し沢の名を呼び果てた俺は、そのまま瞼を閉じて余韻に浸っている間にいつの間にか寝てしまっていた。
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