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第9話
カタンと音がして目が覚めた。
横を向くと、薄く開いた扉。
おかしいな?沢が閉め忘れるなんて…
裸にベッドにかかっていた布を巻きつけて扉に向かう。
少し開いた隙間から薄明かりの廊下に顔だけ出してみる。
何かが動いたような気がしたが、特に何もないようで廊下は静かなまま。
そこへ聞き慣れた靴音が響く。
「沢!」
声を落として名を呼ぶと、いつもは絶対に出さない駆け寄る靴音。
「どうされたんですか?あぁ、風邪をひかれてしまいます。」
「一の用事は?」
「それが一様が見当たらなくて…しかも用事の方も少々手間取りそうなようで…ですので今日はやはり…」
苦しそうな表情の沢にわかったよと言って扉から上半身を出す。
「全様?」
「沢、だったらここに少しだけ歯を立てて欲しいんだ。」
少し俯いてうなじにかかる髪を上げる。
「ですが…」
ためらう沢にその腕を引っ張って耳元に口を寄せる。
「頼む!お前の帰りを待ちながらずっと我慢していたんだ…本当は、お前が欲しい。お前の事を考えてずっと弄ってたから…いつでも…」
「入ってください!」
突然、俺の手を掴んで部屋に入ると、扉を閉めてそこにおれの身体を押し付けた。
「沢…?」
「煽ったあなたが悪いんですよ…口を押さえて下さい。」
「だめ!沢!廊下に聞こえちゃう!」
「もう、無理です!!失礼します!」
そう言うと、俺の体に巻きつけた布を剥ぎ取り、硬いモノを押し付けてくる。
「まっ!沢!待って!」
「すいません、無理です!」
沢の手が俺の口を塞ぎ、同時に乱暴に押し開かれた身体。
塞がれた手から溢れ出る止まらない声。
「ひゃぁああああああああああっ!!」
「全様!声を…っくぅ!」
「む…っりぃ!沢の…俺の中に…あぁああああ!っと、もっとぉ!」
奥にゴリっと当たり、そこを何度も突かれて身体中の力が一点に集中して沢のを絞る。
「ぅくぅっ!全…様…っきます!」
「俺も…沢ぁ、噛んでぇ!うなじに!はぁああああああっ!」
「全様ぁーーーーっ!」
沢のうなじに当たる歯に力が入るが、それが皮膚に突き刺さることはなかった。
はぁはぁと2人の荒い息が部屋の空気を冷ましていく。
突如俺がもたれていた扉から衝撃があり、2人の体がビクッと跳ねた。
それがノックだとわかり、沢が何でしょうか?と何事もなかったかのような声を出す。
「俺だ!沢、出て来い!」
一のイラついた声がする。
沢が青ざめながらもささっと身支度をすると、俺の体を気にしながら扉を自分が出られる分だけ開いて、外に出た。
「行くぞ!」
そう言われて一に付き従う沢が扉を閉める直前、俺に向かって、またと口を開いた。頷く俺の心に暖かい気持ちが流れ込んでくる。
しばらくの休憩の後、身支度を整えながらふと先程の扉の開いていたのを思い出した。
「あれは何だったんだろう?」
あの時、一瞬壁に誰かが隠れたような気がした。
そしてタイミングよく扉をノックした一…
イヤな想像をして頭を振る。
この幸せで暖かな時間にあいつのことなんか考えている自分がイヤで、頭からあいつのことを追い出す。
大丈夫…だよな。
沢の当てた歯形のついていないうなじに手を当てる。
いつになったら…いや、俺がΩだとバレるわけには…だけど沢となら…
答えの出ない苦しい思い。沢にも言えはしないこの気持ち…
俺が一だったなら…
そう考えかけてためいきをつく。
俺が俺でなければ沢の運命にはなれなかったんだ。
この今の状況も含めてが俺と沢の運命なんだ。
そう考え直して扉を開ける。
また…
あぁ、またな。
部屋に言い残して扉を閉めた。
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