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第10話
「お前に聞きたいことがある。部屋に来い!」
次の日、朝食を食べ終えて部屋に戻る廊下で、壁に寄りかかっていた一に声をかけられた。
「俺に話はない。話したいならここで話せばいいだろう?」
「ここで話せるならとっくに話している。いいから来い!」
一の手が俺の手を掴んだ途端にゾワっとした感覚が体の底から湧いて来て、その手を振り払った。
「触るな!」
掴まれた手を胸の前で握る。
「だったらここでお前の性について話してもいいんだな?」
低く唸るような声で発せられた問いに、見開きそうになる目と驚く顔を見せたくなくて俯いた。
「どうする?」
「…わかった。ついて行くから…触らないでくれ。」
本当は行きたくない。でも、一が俺の何をどこまで知っているのか見極めなくてはならない。
そう自分に言い聞かせた。
「ついて来い!」
俺に背を向けて歩き出した一の後を足取り重くついて行く。
一の部屋の前に着き、一が扉を開けて俺が入るのを扉にもたれて見つめる。
ゆっくりと時間をかけてもほんの数秒しか変わらないとわかっていても、足は鉛のように重く動かない。
そんな俺を急かすでもなく、ただじっと見つめ、ようやく部屋に入った俺を確認した途端に扉が閉まった。
「匂うな。」
一が開口一番言った。
「え?!」
「Ωの匂いだ…αを誘惑し、その身体に溺れさせるためのΩの匂い。」
そう言いながら一が近付いてくる。
「やめろ!来るな!!」
「全、この事をばらされたくなければ俺と番になれ。」
突然の話に体が凍りつく。
何を言っているんだ?
頭が考えるのをやめる。
目は近付いてくる一を見つめているのに、それに対して何をどうしたらいいのかが分からない。
顎を掴まれ、顔を上げさせられ、一の顔が近付く。
「全、俺のモノになるんだ。」
一の言葉にはっと気が付き、思い切り一の胸を手で突いた。
「おっと!」
後ろに倒れそうになりながら、一が俺から離れる。
その隙を縫って部屋を駆け抜けて扉を開けた。
「諦めないからな!!」
一の声が後ろから追ってくるのを扉を閉めて阻むと、沢の部屋に走る。
しかし途中でその足を止めた。
沢には心配をかけたくない。それにもしあいつが俺をつけてきていたら…あいつに弱みを握られてしまう。
それだけは絶対にイヤだ!
大きく深呼吸すると、止めた足を自分の部屋に向かわせた。
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