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第13話

静かな部屋に響くノックの音。 「何だ?」 一といる時、今までならば後継者として、事の大小に関わらず、俺が全ての権限を持つ者としてその一つ一つに答えてきた。しかし今、開こうとした口は一の手で塞がれ、権限ある者として答えたのは一だった。 番として二人でいる時には一がその権限の全てを握ると宣言した父さんの言葉が頭をよぎっていく。 「朝食をお持ちしました。」 扉の向こうから聞こえてきた沢の声に体が反応する。 「入れ。」 そう言うと、一が俺の顔に手で触れながら、唇を押し付けてくる。 「…首の後ろを見せてみろ。」 「やめろ!」 嫌がる俺がかかっていた布を頭まで引っ張ると、それを一が無理矢理引っぺがし、ベッドの下に舞い落ちる。 昨夜の寝乱れた姿の俺の裸体が明かりに照らされ、一がごくりと喉を鳴らした。 「失礼します。」 扉が開くのを横目に見ながら俺は、抵抗虚しく一に羽交い締めにされていた。その中で入ってきた沢に助けを求める視線を送る。 「…朝食です。」 しかし沢はチラとこちらを見ただけで、全く反応を示さない。 「さ…わ…何で?」 俺の言葉に一がニヤリと笑うと、機嫌の良さそうな声で沢に命令した。 「そこのテーブルに置いておけ。それとシーツを替えておけ。ベタベタで気持ち悪い…全、行くぞ…」 そう言って、俺を裸のままで抱き上げると沢の用意するテーブルの椅子に座らせた。 「服を…」 言った俺に沢が反応しかけるが、一が声を出した。 「沢、全の言葉は無視しろ。ここでは俺が全てだ。分かったな?」 「はい、一様。」 二人のやり取りに、今までの俺とは全てが違うんだと思い知らされ、辛く苦しい現実に部屋を飛び出したくなるが、裸のままではそれも出来ない。 「全、ここではお前の着るものはない。お前はいつでも俺を受け入れられるようにずっと裸で過ごすんだ。」 「なっ!?俺は…俺は…」 「この家の後継者か…お前がどんなにαの真似をしても所詮はΩだってことを分からせてやるよ。おい、持ってきてあるな。」 どうぞと沢が一の前に書類の束を置くと、一はものすごい速さで目を通し、沢に手を出した。 さっと筆記具が沢の手から一の手に握られ、サラサラとサインと何かの補足を書いていく。 「今のところはこれでいいが、問題はこの部分。説明は書いておいたからそれに対する答えが来たら持ってこい。沢、後で全の首の治療もしておけ!」 そう言ってもういいと言うように沢に向かって手を振った。 俺は、今さっき行われたことの意味も分からず、ベッドを片付けた沢が一礼して出て行った扉をじっと見つめていた。 「全、お前が父さんとすすめていた事業の、少々こちら側に不味い点を補足しておいた。読んでおけ!」 そう言うと、一がテーブルに持っていた書類を投げ置いた。 「え?!」 「お前、この時に体調不良…ヒートだったんじゃないか?こんなにひどい契約に気が付きもしなかったなんて…」 言われて書類を取り目を通す。 一の言う通り、あまりにも酷い契約に愕然とする。 「嘘…だろう…」 「頭の中で沢に抱かれることばかり考えていたんじゃないのか?」 一の言葉に頭にカーッと血が昇る。 「そんなわけ…ったい!やめろ!痛い!!」 椅子から立ち上がろうとした俺の手を一がぐっと引っ張り、俺の頭をテーブルに押さえつけた。 「いいか?これがΩとαの違いだ。能力の問題じゃない…どうにもならないΩの身体的問題…それでもお前によってこの家は危うくとんでもない損益を出すところだった。わかるか?」 言われても俺には何の反論もできなかった。 目の前に突きつけられた俺の失敗によって起こる事の大きさに身震いする。 「この先もお前はΩとしての諸々によって、間違えや失敗を起こすだろう。俺だってしないとは言い切れない…だが、Ω にはそれだけのリスクがあると言う事を忘れるな!それでもまだαの真似事をしたいのか?」 「うるさいっ!うるさいっ!!お前に何がわかる?!ずっとずっと俺は後継者としてこの家で努力してきた。なのに今更、Ωだから俺はいらないって…だったらこんな家に齧り付くようなことなんてしないで…沢と逃げればよかった…そうすればお前とこんな番になんか…っ!!」 突然うなじに熱を感じ、またも一に噛まれたとわかる。 「お前は俺の番だ!」 皮膚を突き破る痛みと悔しさに、無意識に涙がこぼれる。 「どんなに噛まれたって、俺は認めない!俺は沢と番になるんだ!!お前がどんなに噛んだとしても、俺は認めない!!」 「うるせぇえ!!いいか?お前は俺のモノだ…分かったよ、全。二人の子供を作ろう…俺とお前の子供だ…お前は俺の子をその腹で育て産むんだ。産まれたらまた作ろう。そうすればお前は子供に囲まれて俺から逃げられなくなる。いい考えだろう?さぁ、その腹の中に子ができるまで流し込んでやる!来るんだ、全!」 「お前との子供…?やだ!嫌だ!離せ!!やめろ…やめろ…やめろーーーーーっ!!」 どんなに抵抗しても、俺の力では全くかなわず、嫌がる俺の腰を掴んだ一によって、またも俺の身体の中に一の体液が温かく広がっていくのを涙を流しながら感じていた。

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